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若きイェルサレム四重奏団が迫る、若きシューベルト... [2008]

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そのタイトルに中てられてしまうのだけれど、「死と乙女」...
ま、これぞロマン主義。ゲーテと同世代のドイツの詩人、クラウディウス(1740-1815)の詩に、シューベルトが作曲した、最も有名な歌曲のひとつ。で、19世紀的な価値観に立てば、もの凄くヴィヴィットに心に響くのだろう。しかし、今は21世紀... 「死」の存在はどことなく希薄で、「乙女」は死語... となれば、下手に芝居掛かった歌曲に、リアリティなんて湧いて来ない。そんな、シューベルトの歌曲。その冒頭のピアノのフレーズを、2楽章に用いたのが、シューベルトの14番の弦楽四重奏曲、「死と乙女」。「死と乙女」のフレーズを用いたから「死と乙女」なわけだけれど、この弦楽四重奏曲のドラマティックさは、当然ながら短い歌曲以上であって、ある意味、21世紀に対しても説得力を以ってして「死と乙女」であるように感じる。タイトルのインパクトそのままに、聴く者をこれぞロマン主義な世界へと攫ってしまうような力強さがある。いや、こういう魔法こそ、クラシックの醍醐味なのだろう。
という作品を、若い弦楽四重奏団が取り上げる。イェルサレム四重奏団による、シューベルトの名作、14番の弦楽四重奏曲、「死と乙女」(harmonia mundi/HMC 901990)を聴く。

その前に、1曲目、12番の弦楽四重奏曲、「四重奏断章」(track.1)... 「死と乙女」の前に、軽く耳慣らし?かな、と思って聴き始めると、絶妙に「死と乙女」への前奏曲となっていて... 鮮烈にして劇的な始まりの後、甘やかに古典派の時代の余韻を味わうようなあたりを、イェルサレム四重奏団のクリアな響きが捉えて、美しく。「死と乙女」とは明らかに違う、どこか夢見るようなドラマティックさが匂い立ち、これからやって来るだろう嵐、「死と乙女」と、絶妙な対比を見せる。それでいて、「四重奏断章」の古典派を思わせる旧時代のトーンが、「死と乙女」の新時代のロマン主義をより水際立ったものとするようで、印象的...
そうして、「死と乙女」(track.2-5)が幕を開ける。1楽章、最初のフレーズから、何やら凄い。空気を変えてしまうような、鋭い響き!もちろん、シューベルトが書き込んだ音楽のインパクトもあるのだけれど、イェルサレム四重奏団の若いからこその感性が、19世紀の芝居掛かった気分を断ち切って、死と乙女のドラマを新たに彫り出すかのよう。この作品ならではの、次々に繰り出される陰影の濃い表情は、イェルサレム四重奏団の演奏によって、研ぎ澄まされ、スパークする。そんな連続に触れていると、「死と乙女」は、まるで一本の映画のように見えて来る。イェルサレム四重奏団の演奏は、その現代的な感覚から、映像的なヴィヴィットさを響かせて。またそこに、シューベルトという、かつての若い芸術家の姿がくっきりと浮かび上がりもし、興味深い。
「死と乙女」なんていうタイトルは、どうも大時代的で、"文芸"臭いような、そんなイメージだったけれど、イェルサレム四重奏団による音楽は、そういうステレオタイプとはどこか違うところで鳴り響いていて、21世紀を生きる現代人にとっても、リアルな魅力となって迫って来る。彼らの若さが生み出す、一瞬たりとも緩むことのない音楽と、その張りつめた先からこぼれ出すナイーブな心象、繊細な感情の動き... それらを捉えたサウンドの、瑞々しさは、恐くなるほど鮮烈で、息を呑む。一方で、驚くほど整理された響きがそこにあって、若さが暴走するようなことなど、あり得ず、いつもながらのハイ・クウォリティでもって、他では聴くことのできない、「若さ」(ある意味、作曲家と同世代?)という次元から、音楽の深化を見せ、シューベルトの深淵に、軽々と到達しそうなほど... 31歳で逝ったシューベルト(1797-1828)のリアルに、これほど迫った演奏はないのでは?彼らの演奏を聴いていると、老成したアンサンブルによるシューベルトなど、あり得ないかもしれない。などと、感じてしまう。
そして、それこそがロマン主義なのかもしれない... 漠然とあるイメージの"ロマンティシズム"ではなくて、ロマン主義の時代(フランス革命の挫折と、その後の保守反動の中で、若い世代が足掻き、苦悩した時代、というのか... )の、若い芸術家の、若いからこその焦燥が立ち込める、ロマンティック。その作品に、その演奏に、このアルバムに、ロマンティックの純粋さを見出し、その結晶のような輝きに触れ、切なくなりつつ、どこか共感するところもあって... 21世紀、近代の成れの果てが生み出す閉塞感に囲まれて聴くシューベルトは、これまでとは一味違う共鳴を、聴く者に呼び起こすよう。

SCHUBERT DER TOD UND DAS MADCHEN JERUSALEM QUARTET

シューベルト : 弦楽四重奏曲 第12番 ハ短調 D.703 「四重奏断章」
シューベルト : 弦楽四重奏曲 第14番 ニ短調 D.810 「死と乙女」

イェルサレム四重奏団
アレクサンダー・パヴロフスキー(ヴァイオリン)
セルゲイ・ブレスラー(ヴァイオリン)
アミチャイ・グロス(ヴィオラ)
キリル・ズロトニコフ(チェロ)

harmonia mundi/HMC 901990




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