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"試演版"という魔法... スホーンデルヴルトのベートーヴェン。 [2008]

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鬼才、スホーンデルヴルトの弾く、ピリオドのピアノと、彼が率いるピリオド・アンサンブル、クリストフォリによる、ベートーヴェンのピアノ協奏曲は、"試演版"という、驚くべきヴァージョンで展開!5番、「皇帝」と、4番を取り上げた第1弾(Alpha/Alpha 079)では、その試演時の、最小限の編成というあたりに、ギョっとさせられつつも、そこから生み出される表情の豊かさ、陰影の深さ(「皇帝」の2楽章は、本当に忘れ難く... )、ピリオド楽器の薫り立つサウンドに、ただただ聴き入るばかりだった... そんな余韻を以って聴く、期待の第2弾!
アルテュール・スホーンデルヴルトの弾く、1800年製、アントン・ヴァルター(複製)、1807-10年製、ヨハン・フリッツのピアノ、クリストフォリの演奏で、ベートーヴェンの3番と、ヴァイオリン協奏曲の編曲(このアルバムでは、6番という扱い... )の、試演版(Alpha/Alpha 122)を聴く。

前作、同様、すばらしい演奏が繰り広げられる。期待を裏切らない、スホーンデルヴルト。それは、最初の音が鳴り出した途端、フっと意識が飛んでしまうような... 初めて、その作品が、人々の前に奏でられる瞬間に、トリップしてしまうような、音に攫われる感覚が、凄い... 試演版の、ある意味、剥き出しのハーモニーが、独特の生々しさを生み、ピリオドなればこその、少し不器用で癖のあるサウンドと重なって、聴き馴染んだはずのコンチェルトに、まったく新しい表情を与える。いや、けして、新しいわけではない、いつもの演奏の奥底に潜んでいた素の表情が、"試演版半"という、本来、表には出なかったはずのものにより、強引にすくい上げられて、少しぎこちなさを見せながらも、精一杯、輝き出すその初々しさ!作品の誕生の瞬間の真新しさ!
弦楽セクションは、ヴァイオリンが2挺、ヴィオラも2挺、チェロは1挺、コントラバスも1挺... という、弦楽六重奏と言ってしまった方が早い、切り詰めた編成による試演版。通常の演奏に慣れてしまった耳には、もう少し豊かな響きが欲しいような気もしてしまうのだけれど、切り詰めたからこその親密さは、これまで体験したことのない感覚を呼び起こし。繊細であることもちろんだが、時として、これまで以上に雄弁に響くところもあって、まったく興味深い。一方の管楽セクションは、逆に通常通り。ではあるのだけれど、弦楽セクションの数が減ったことで、その存在はこれまでになく際立ち、より鮮やかなブラス・サウンドを聴かせて、ベートーヴェンならではのパワフルな魅力を存分に放ち、2つのコンチェルトを大いに盛り立てる。特に、ヴァイオリン協奏曲のピアノ版(track.4-6)では、管楽セクションの活躍があって、そのスケール感は、試演のレベルを超えるような印象も...
そんな、ヴァイオリン協奏曲のピアノ版(track.4-6)。このアルバムでは、ベートーヴェンの6つ目のピアノ協奏曲としてカウントされていて、6番と呼ばれていたりするのだけれど... これまで、この版に、何となしに蛇足的な印象を持っていた。が、オリジナルは間違いなく名曲であって... それをまたピアノでも聴ける楽しみは十分にあるなと、再認識させられる。両手では、ヴァイオリンの旋律は余り、空いた手で、通奏低音が繰り出され、ベートーヴェンにして、バッハのコンチェルトを聴くような感覚もあって、不思議。また、ピアノが通奏低音的なサウンドも担うことで、作品全体がシンフォニックに響くようでもあり、新鮮。"ピリオド"、"試演版"というあたりが、そのあたりをより鮮明にもしていて、これまで聴いていた印象を覆すような興味深さがある。
しかし、スホーンデルヴルトのピアノが、すばらしい!例えば、3番の2楽章(track.2)... ピアノ・ソロで始まる冒頭、ピリオドのピアノの素の音色の、何とも言えない温もりとやさしさに充ち溢れた表情!試演版となって、オーケストラの響きが刈り込まれて、よりピアノの響きがクローズアップされて、ベートーヴェンの緩徐楽章ならではの、甘く、まどろむような美しい流れは、もう、この上ないものに... そして、試演版の最大の効果と言うべきか、聴き手と演奏の距離がグっと詰まり、ピアノが、直接、語り掛けてくれるような感覚に、クラクラしてしまう。何より、この誤魔化しの効かない距離感から、さらりとベートーヴェンを繰り出すスホーンデルヴルトの力量、技量は、改めて凄いなと。そうして紡がれるベートーヴェン... 仰々しさが、一切、抜け切って、何気なさこそ映えて、その佇まいに、これまでになく聴き入ることに。そこに、スホーンデルヴルトが創設したピリオド・アンサンブル、クリストフォリが、絶妙に呼吸を合わせ、全ての楽器の音が、ひとつとしておろそかにならない丁寧さも印象的で... 一体となって生み出される力強さと、豊かな表情、アカデミックな辛気臭さとは違う、真に瑞々しい感覚が、他では得られない「一時」をもたらしてくれる。それは、もう、魔法!すると、"試演版"の新奇さなど忘れて、通常版では体験し得ない、圧倒的な音楽に、ただただ酔い痴れるばかり。

BEETHOVEN Concerti pour piano 3 & 6 Arthur Schoonderwoerd - Cristofori

ベートーヴェン : ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調 Op.57
ベートーヴェン : ピアノ協奏曲 第6番 ニ長調 Op.61a (ヴァイオリン協奏曲のピアノ協奏曲版)

アルテュール・スホーンデルヴルト(フォルテピアノ)
アンサンブル・クリストフォリ

Alpha/Alpha 122




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