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1765年、ゴセック、『3つの大交響曲』。 [2008]

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えーっと、ピリオド好きです。そういう演奏を選びたがります。
ということで、ここまで、色とりどりのピリオド・オーケストラを聴いて来たのだけれど... そうした演奏を振り返ってみれば、本当に色とりどりだなと、つくづく感じる。そもそも、ピリオド・アプローチというのは、作品が初演された時代(ピリオド)へ立ち帰るわけで、そのベースにあるものは極めて学究的。なおかつ、目指す地点はみな同じ(もちろん、作品ごとには違うけれど... )。なのだけれど、いわゆる「クラシック」的な取り澄まし感は薄く、何より個性の乱舞!もの凄く制約がありそうで、意外とやりたい放題やっているピリオドの世界(なんて言ってしまったら、怒られるか?)。再創造の自由さが、クラシックにして、俄然、刺激的だったりする。そうした中で、若干、大人し目の存在がちょっと気になる。大人しくない世界に在って、大人しいのは、また筋の通った個性であって...
ピリオド先進地域、ベネルクスから、奇を衒うことのない素直なサウンドで、かつての時代へと立ち返る、ギィ・ヴァン・ワース率いる、ベルギーのピリオド・オーケストラ、レザグレマンによる、フランス、古典派の巨匠、ゴセックの『3つの大交響曲』(RICERCAR/RIC 263)を聴く。

交響曲が生まれたのは、バロック期のイタリア... オペラの序曲にあたるシンフォニアの独立が、その始まりらしい。今じゃ、クラシックの頂点にあって、偉そうに見える交響曲も、始まりはオペラのおまけだったと考えると、おもしろい。そして、交響曲は、バロックに代わる新しいモードの波に乗って、アルプスを越え、ドイツへ、フランスへと広がって... という、交響曲の成長期、フランスの交響曲を聴くのだけれど、フランスの交響曲というと、まず思いつくのは幻想交響曲(1830)。それ以前となると、かなりの視界不良... そもそも、「交響曲」のイメージは、ドイツ―オーストリアのイメージが強いわけで、フランスにとって、交響曲は苦手なスタイルだったか?なんても思えて来る。が、18世紀、パリの様子を丁寧に紐解いてみると、必ずしもそうとは言えない状況があった。何しろ、モーツァルトのパリ交響曲(1778)がヒットし、ハイドンのパリ・セット(1785-86)が生まれた土壌があったわけで... 今となっては、その土壌そのものは忘れ去られてしまったものの、モーツァルト、ハイドンのみならず、様々な作曲家が活躍し、インターナショナルな、ヨーロッパ随一の刺激的な音楽シーンが存在していた。そうした中、プロデューサーとしても手腕を発揮することになる、ゴセックの交響曲もまた、人気を博していた。
このアルバムに収録されたゴセックの『3つの大交響曲』(track.1-4, 5-8, 9-12)は、パリ・セットよりもパリ交響曲よりも遡って、1765年にパリで出版された作品。それは、最後の最後まで現役だったラモー(1683-1764)が逝った翌年で、グルック(1714-87)による疾風怒濤のオペラがパリに上陸(1773)するのはまだ先... カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ(1714-88)が、多感主義のスタイルで交響曲を手掛けていた頃... そうした中で、ゴセックは、思い掛けなく朗々と古典派の交響曲を繰り広げていて、目を見張る。もちろん、パリ・セットやパリ交響曲に比べればシンプルかもしれない... けれど、かえって、後の古典派の交響曲のように成熟し切っていない隙が、心地良い緊張の緩みをもたらしてもいて、交響曲の堅苦しさを薄める効果すらあるのか... 間違いなく、おもしろい状態にある、『3つの大交響曲』。何より、周囲は前古典派の段階にあったことを思い起こすと、古典派のカラーをすでに獲得しているゴセックの先進性に驚かされる。いや、これは、かなり新鮮かも。
さて、交響曲の後で、オペラ『サビニュス』からのバレエ音楽(track.13-18)が取り上げられるのだけれど。1773年、ヴェルサイユの祝賀行事で初演されたこのオペラ... これが、一筋縄で行かなくて、おもしろい。出だしはグルックの疾風怒濤を思わせて(ちょうどこのオペラが初演される直前に、グルックはパリ進出を果たす... )、当世風?かと思いきや、パーカッションが小気味良いリズムを刻んで、ラモー風(track.17)。で、こがねむし?のメロディ(track.16)も聴こえて来たりして、ちょっとウケる。最後は、カスタネットが彩りを添えるスペイン風シャコンヌ(track.18)。で、これがまた、モーツァルトの『イドメネオ』(1781)のフィナーレのバレエを思わせる、アグレッシヴな古典派スタイルで、その締めを盛り上げる!という、ごった煮感が、ツボ... 18世紀、フランスにおけるエンターテイメントを垣間見せてくれて、交響曲の後、魅力的な意趣返しに...
そんな、幅を見せるゴセックの音楽を、きちっと、卒なく奏でるヴァン・ワース+レザグレマンの演奏が、実に好印象!古典派の時代の端正さを、過不足なく、しっかりと捉える。ただ、それだけ... という率直さが生む、小ざっぱりとした佇まい... そうすることで、ゴセックの音楽が持つ、エスプリというか、遊びというか、パリのお洒落感がそこはかとなく、いい匂いを放ち、素敵。ゴセックの音楽性を信じて、下手に味付けしないからこその魅力が、交響曲にも、バレエにも現れている。それは、ある意味、これこそピリオド!という形を見せてくれているのかもしれない。彼らの気負わなさは、クール。

François-Joseph GOSSEC Symphonies op. VIII

ゴセック : 交響曲 変ホ長調 Op.8-3
ゴセック : 交響曲 ヘ長調 Op.8-2
ゴセック : 交響曲 変ホ長調 Op.8-1
ゴセック : オペラ 『サビニュス』 から バレエ組曲

ギィ・ヴァン・ワース/レザグレマン

RICERCAR/RIC 263(MRIC 263)





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