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ミヨー主義の妙。 [2008]

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ダリウス・ミヨー(1892-1974)。
南仏、プロヴァンスの裕福なユダヤ人の家庭に生まれたミヨー。音楽に通じる父、声楽を学んだ母の下、早くから音楽に触れ、また才能を開花。1909年には、パリのコンセルヴァトワールに入学。最も刺激的だった20世紀前半のパリで学び、交友関係を広げ。そんなひとり、外交官であったポール・クローデルに誘われ、ブラジルに滞在(1917-18)。南仏の明るさに、ラテンのカラフルさをその作風に加え、独特な音楽を築いてゆく。やがて、フランス6人組に参加し、近代音楽の寵児に。しかし、ナチズムがヨーロッパを覆い始めると、ユダヤ系だったミヨーはアメリカへと渡り(1940)、以後、フランスとアメリカをベースに、教育、作曲と、忙しく活動。晩年は、スイスのジュネーヴに拠点を移し(1971)、その死まで作曲は衰えることなく、驚異的な数の作品を残した。
という、ミヨーを聴くのだけれど... クラリネットの名手、ポール・メイエが、指揮もこなし... 親しいソリストたちを誘って、リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団で、ミヨーの協奏曲集、"Scaramouche Concertos de Darius Milhaud"(RCA RED SEAL/88697 178602)を聴く。

数多、作曲家がひしめくクラシックにあって、ミヨーという存在は、また特に異彩を放っている。いや、ふざけている?その独特なテイストは、良い加減なイイカゲンさ... 久々にミヨー・サウンドに触れると、その独特さに中てられもするのだけれど。そんな1曲目、スカラムーシュ(track.1-3)。これをクラシックと言ってしまって良いのか?!と、ツッコミを入れたくなる砕けっぷり。いや、楽しい!サックスとオーケストラによる版ということもあって、サックスならではのトーンに、魅惑的な場末感も漂い、それでいて調子の良いメロディ... 調子が良過ぎて、酔っ払ったようにボーダーライン上を千鳥足で渡って行くような危うげさがあって... いや、これこそが魅力... 飄々としたサティの系譜にあって、お洒落なプーランクの傍らにあって、さらにその先へとジャンプした、究極的な擬古典主義?いや、ナンナンダ?もはや、ミヨー主義?続く、打楽器と小管弦楽のための協奏曲(track.4, 5)、クラリネット協奏曲(track.6-9)、ピアノとオーケストラによる「エクスの謝肉祭」(track.10-21)と、コンチェルトにして、まるで劇音楽?というか、音楽絵本?いや、音楽ギャグ漫画?そのカラフルで、ヤリ過ぎな楽しさは、聴いている内に、ヤミツキに... そして、他では絶対に味わえないミヨーのセンスを再確認する。
さて、その演奏... まず印象に残るのが、スカラムーシュ(track.1-3)でのモレッティの吹くサックス!軽やかで、やわらかで、時に艶やかで、サックスらしからぬ?丁寧な演奏に、感服。お軽い作品も、きちっと仕上げるモレッティのパフォーマンスが、ミヨーのセンスに、いい具合の抑制を掛けて、より素敵な音楽として楽しませてくれる。そして、変に深刻ぶってみせる音楽(ミヨー流のバロックか?)がおもしろい、打楽器と小管弦楽のための協奏曲(track.4, 5)。パーカッショニスト、ヴェルシュレーゲンが、次から次と様々な打楽器をこなして、その気忙しさ?が、何やら微笑ましかったり... それから、「エクスの謝肉祭」(track.10-21)で、センスの良いピアノを聴かせてくれるル・サージュ!好評、Alphaでのシューマンのピアノ作品全集から一転、フレンチ・ポップが炸裂するこの作品では、南仏のウキウキした気分を大切にしながらも、わずかに斜に構えて、素直にヴァカンスを楽しまないような格好の付け方が、粋。いや、フランスらしいというのか。南仏の輝かしさと、エスプリが絶妙。
で、忘れてならないのが、このアルバムのホスト、クラリネットのヴィルトゥオーゾ、メイエ。クラリネット協奏曲(track.6-9)では、名手ならではの手慣れた感覚がとにかく心地良く... けして簡単ではないはずの細かなパッセージも、魔法が掛かったように軽やかに運んでしまい、舌を巻きつつ、そのあまりのスムーズさに、うっとりしてしまう。耳を引っ掻き回すようなところもあるミヨーのセンスも、メイエのスーパー・テクニックを前にすれば、スルスルスルーっと処理されてしまう凄さ... これは、ソリストとしてだけではなく、指揮者としてのメイエでも発揮されていて。メイエに率いられたリエージュ・フィルの演奏がまた印象深い... 多彩なソリストたちを向こうに回し、実にいい味を醸して。時にビッグ・バンドのような、時にサロン・オーケストラのような表情を見せ、ミヨーの忙しないあたりを変幻自在で応え、その器用さに魅了される。何より、メイエの下、ソリストも含め、その一体感がすばらしく。ミヨーならではのギリギリ感、そこを絶妙にバランス取って、ミヨーによる独特な音楽世界の魅力を、気負うことなく、さらりと形にしているあたり、実は、凄いのかも。

Darius Milhaud - Scaramouche ・ Orchestre Philharmonique de Liège Wallonie-Bruxelles ・ Paul Meyer

ミヨー : スカラムーシュ Op.165c 〔サクソフォンと管弦楽のための組曲〕 *
ミヨー : 打楽器と小管弦楽のための協奏曲 Op.109 *
ミヨー : クラリネット協奏曲 Op.230 *
ミヨー : エクスの謝肉祭 Op.83b 〔ピアノとオーケストラのための〕 *
ミヨー : ピアノ、ヴァイオリンとクラリネットのための組曲 Op.157b ***

ファブリス・モレッティ(サクソフォン) *
ゲルト・ヴェルシュレーゲン(パーカッション) *
ポール・メイエ(クラリネット) *
エリック・ル・サージュ(ピアノ) *
テディ・パパヴラミ(ヴァイオリン) *
ポール・メイエ/リエージュ・フィルハーモニー管弦楽団

RCA RED SEAL/88697 178602


ところで、このアルバム、ボーナス・トラックがありまして...
最後に収録された、ピアノ、ヴァイオリンとクラリネットのための組曲(track.22-25)が、何気に見事!特に、メイエのクラリネット... 美しく、伸びやかで、かつ鮮やか!ル・サージュのピアノは、コンチェルトとはまた一味違って、さらにナチュラルで瑞々しく。そこに、ヴァイオリンのパパブラミの美音が印象的で。たっぷりとミヨーのコンチェルトを聴いた後で、これは、うれしいボーナス!




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