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ビゼー、"南"という純朴さに浮かぶ狂気... [2008]

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5年前と、今の、レーベルを巡る風景は、かなり違って来ている。
メジャー・レーベルの衰退が著しい一方で、マイナー・レーベルの勢いは止まらない。というより、かつてメジャー・レーベルを彩っていたスターたちを引き込んで、メジャーができなくなったことをマイナーが代わって成し遂げている?そんな風景を眺めていると、もはや、メジャー/マイナーという線引き自体が、ナンセンスになりつつあるのかもしれない。いや、そういう事態がもの凄く刺激的なのだけれど、クラシックを牽引して来たレーベルが弱体化してゆく姿というのは、クラシックそのものが衰退してゆくようで、何とも言えない心地になる...
さて、ARCHIVの看板、ミンコフスキ。ぐだぐだのユニヴァーサルに見切りをつけて、メジャーから飛び出した先は、マイナーの雄、naïve!その、移籍、第1弾が、また大胆で、凄い... マルク・ミンコフスキが率いる、フランスの最も刺激的なピリオド・オーケストラ、レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルによる、ビゼーの『カルメン』前奏曲と間奏曲、『アルルの女』組曲(naïve/V 5130)。ピリオド・アプローチのヒゼー!刺激的なミンコフスキが戻って来た!と、嬉しくなってしまう1枚を聴く。

セヴィーリャの『カルメン』、そして、『アルルの女』...
ビゼーの定番、ヨーロッパの南を舞台とした2作品。ミンコフスキは、この"南"という舞台を、これまでになく、強烈に響かせて来る。それは、エキゾティシズムを描き出すことに長けた作曲家、ビゼー... というレベルを遥かに超えていて、"南"そのものを抉り出すような、刺激的なサウンド。ピリオド・オーケストラなればこその、少しくすんだトーンが、"南"の素朴な風景と、朴訥とした人々の表情を、リアルに描き出す一方、レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルならではの鋭さが、訪れる人を狂わせる強い日差し、溢れる色彩を、徹底して捉える。ある意味、『カルメン』、『アルルの女』の物語そのものというのか、"南"という純朴さに浮かぶ狂気(嫉妬に狂いカルメンを殺したホセの... アルルの女へ立ち切れぬ思いから身投げしたフレデリの... )を、見事に音にする。いや、改めて、"南"の気質を突き付けられるようで、目が覚める。ミンコフスキ+レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルがビゼーを取り上げると、こうもリアルで危うげなものになるか... それは、もはや、音楽云々ではなく、生々しく"南"が突き刺さって来る。
ところで、ミンコフスキのnaïve移籍、第1弾、その装丁、随分と凝った作りでして... ちょっとした画集とでも言うのか、CDの他に、南欧に魅せられた画家たちの絵画がいろいろ綴られていて、なかなか興味深く。ゴッホにはじまり、ゴッホからインスピレーションを得たフランシス・ベーコンの作品(この猟奇的な画家に、こういう作品があったとは、びっくり!)、ジョアン・ミッチェルの作品と、現代の作品も並び、美術の側面からも意欲的。そして、忘れてならないゴーギャン... 音楽、絵画を問わず、芸術家たちを引き寄せる光、色彩が、かの地にあるのだろう。が、そこには狂気も孕み... ゴーギャンとの共同生活の破綻から、自身の耳を切ったゴッホ。その有名な逸話が、象徴的で... ハッピーにはなり得ない「明るさ」というのか、カタストロフに至る眩しい輝きは、毒を持つ魅力?
演奏ばかりでなく、ヴィジュアルからも、ミンコフスキ+レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴルの方向性が強く示されるあたり、この、移籍、第1弾は、なかなか興味深い。そうして強調される、リアルで危うげな南欧の姿。ヨーロッパにして一味違った表情を見せるエキゾティシズムだったり、賑わうヴァカンス先だったり、避寒地としての有閑なリゾートだったり、そういうステレオタイプなイメージを鋭く断ち切って、"南"を極めて高い純度で抽出して聴かせるミンコフスキ。19世紀的な芝居掛かったドラマティシズムではない、どこかドライでリアルなドラマが展開されるあたりは、映画的?そうして、やがてやって来る、最後のファランドール(track.20)の、熱狂的なカタルシス!これまでにビゼーからは感じたことのないような、眩しさを感じ、圧倒され... いつの間にやら、ピリオドだ何だということは忘れて... というより、クラシックであることも忘れて、剥き出しの音楽そのもののパワーに呑み込まれるような、溺れるような... まさに、ミンコフスキ・ワールド!やっぱり、この人でなければ表現し得ない世界があるなと、つくづく感じる、『カルメン』にして、『アルルの女』だった。

bizet l’ arlésienne  les musiciens du louvre ・ grenoble marc minkowski

ビゼー : オペラ 『カルメン』 から 前奏曲/第1幕の間奏曲/第2幕の間奏曲/第3幕の間奏曲
ビゼー : 『アルルの女』 組曲 第1番
ビゼー : 劇音楽 『アルルの女』 から 情景 *
ビゼー : 『アルルの女』 組曲 第2番 〔ギロー編〕

リヨン国立歌劇場合唱団 *
マルク・ミンコフスキ/レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル

naïve/V 5130




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