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いともゴージャスなる幻影、フロラン・シュミット... [2008]

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フランツ・シュミット、フロラン・シュミット、フロラン、フランツ、フランツ、フロラン...
非常に紛らわしいです。おまけに、同時代を生きている!てか、4つ違い... フランスで活躍したフロランが1870年生まれ、オーストリアで活躍したフランツが1874年生まれ... 作風も、ともに「世紀末」の残り香を漂わせるロマンティックなもので、そうした場所から、モダニズムへ視線を投げ掛けつつも、モダンへ飛び込むまでには至らないというスタンスまで、なんとなく似ている。下手すると、どこかで混同していたり?そんな、2人が、近頃、どちらも、注目されつつあるようでして... そんなシュミット、今回は、フランスの"フロラン"を聴いてみる。
ジャック・メルシエ率いるロレーヌ国立管弦楽団による、フロラン・シュミットの劇音楽『アントワーヌとクレオパトラ』からの2つの組曲(timpani/1C1133)を聴く。

なんとゴージャスな!フロラン・シュミットの音楽よりもまず、ロレーヌ国立管のサウンドに耳が持って行かれる。それは、モダンのオーケストラの持つリッチなサウンドを、久々に味わい尽くした思いがして... 鳴りの良さと、そうして生まれるパワフルさに、最初は当てられるようなところもあった(最近、地味なサウンドを聴き過ぎなせい?)のだけれど、それら、単なる咆哮に終わることなく、マキシマムに鮮やかで、艶やかでありつつ、常に見通しの良さが保たれ。また、録音の良さもあって、迫力がクリアに響き、モダンのオーケストラの煌びやかさと、プレ・モダンの音楽のむせ返るような豊潤さに圧倒されるばかり。そして、トゥー・マッチな状態をポジティヴに捉え、トゥー・マッチなればこその魅力を器用に聴かせるメルシエの捌きっぷり!イル・ド・フランス国立管を率いていた頃より、オーケストラから充実したサウンドを引き出せているようにも感じて、改めて魅了されてしまう。
という指揮者、オーケストラを得て、燦然と輝くフロラン・シュミットの音楽!シェイクスピアの戯曲、『アントニーとクレオパトラ』を、アンドレ・ジッドがフランス語訳し、1920年、パリのオペラ座で上演するにあたり作曲された劇音楽を、2つの組曲(track.1-6)にまとめたものを聴くのだけれど... まず、シェイクスピ劇というより、往年のハリウッド大作を見るような、堂々たる大河ロマンっぷりが最高!そこに、エジプトならではのエキゾティックなトーンがスパイスを効かせ、時に妖しげで... 爛熟のロマンティシズムをベースに、印象主義を通過したフランスならではの色彩感が織り成すサウンドは、とにかく魅惑的。一方で、大饗宴と踊り(track.5)では、そのリズミックで、バーバリスティックな様が圧巻!時代の潮流となったモダニズムにも敏感に反応し、場面に引き込んで来るフロラン・シュミットの巧みさ... ロマンティックにアントニーとクレオパトラの悲恋を描き出しつつ、エンターテイメントとしての魅力を、エキゾティシズムやモダニズムで飾り付けてマキシマムに盛り上げる。そんな、『アントワーヌとクレオパトラ』の後には、世界初録音だという「幻影」(track.7, 8)も収録されていて、これがまた興味深い!ピアノのために作曲された作品のようだが、もちろんオーケストラで聴く... で、ピアノ曲だったとはちょっと想像が付かないほどダイナミック!特に、2つの部分からなる後半、悲劇的騎行(track.8)の、鋭いリズムを刻み、『春祭』ばりのバーバリスティックさを見せる音楽は、ロマンティックなフロラン・シュミットのイメージを逸脱して、刺激的!
という2作品... 第1次世界大戦(1914-18)が終結し、音楽のみならず、あらゆる場面で近代主義が到来した1920年代に初演されたとのこと... その当時、ストラヴィンスキーはすでに擬古典主義へと作風を変え、シェーンベルクらは12音の世界へ進もうとしていたわけだが、フロラン・シュミットはどうだろうか?その音楽は、我が道をゆくようで、当時の前衛とどう向き合おうか思案するような姿も垣間見られ、興味深い。一方で、そのモダニズムとのもどかしい距離感、前世紀のロマン主義からの伝統に重心を置く作曲家の姿勢は、過去の幻影を見るようでもあり、そうした存在感にも魅力的なものを感じる。21世紀となり、「ポスト・モダン」さえ過去になりつつある現代においては、下手にモダンに変身することなく、モダニズムを器用に自身のオリジナリティに引き入れたフロラン・シュミットの音楽性に、かえって新鮮なものを感じる。時代に呑み込まれることの無かったフロラン・シュミットの音楽は、時代を超越する可能性を大いに秘めているのかもしれない。

FLORENT SCHMITT antoine et cléopâtre - mirages

フロラン・シュミット : 劇音楽 『アントワーヌとクレオパトラ』 Op.69 による 第1組曲
フロラン・シュミット : 劇音楽 『アントワーヌとクレオパトラ』 Op.69 による 第2組曲
フロラン・シュミット : 幻影 Op.70

ジャック・メルシエ/ロレーヌ国立管弦楽団

timpani/1C1133




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