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「愛の死」、ピアノ・クァルテットで、フェリシティの実験。 [2008]

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オペラは芝居である。オペラ歌手はまた役者でなくてはならない。
それは、当たり前の話しではある。が、すばらしい歌と同時に、すばらしい演技を求めるのは、贅沢なことなのかもしれない。だから、歌えればそれでいい... となってしまうのがオペラか?いや、そういうユルい状況のアンチテーゼとして、演出家の時代が到来。音楽に替わって、演出がオペラを主導する事態となり、歌い手にはより演技力が求められるように... 時には、ロールにフィットした体型まで... そうして、オペラの当たり前は、とうとう贅沢ではなくなりつつあるのか。演出家の時代には、常に反発もあるけれど... そうした中、飄々と歌い演じるベテランがいる。フェリシティ・ロット。クライバーの元帥夫人... ミンコフスキのトンデモ・マダム... その、なり切りっぷりは、伝説かも... で、「なり切る」ために、丁寧にロールをチョイスしているプロ意識こそリスペクトされるべきで。そのあたりが、派手なロールばかりとなる、メジャー・レーベルの看板プリマと一線を画すところか。
そんな、フェリシティ・ロット(ソプラノ)が、より独自な世界を展開する1枚... 鬼才、テディ・パパヴラミ(ヴァイオリン)が参加するピアノ・クァルテット、シューマン四重奏団の伴奏で、マーラーのリュッケルト歌曲集、ワーグナーのヴェーゼンドンク歌曲集、そして、『トリスタンとイゾルデ』の「愛の死」を、室内楽版で歌う、チャレンジングなアルバム(æon/AECD 0858)を聴く。

収録されたすべての曲は、シューマン四重奏団のピアニスト、クリスティアン・ファーヴの編曲によるものなのだけれど、このアレンジが、巧い!1曲目、リュッケルト歌曲集(track.1-5)の始まりに持って来られた「美しさゆえに愛するのなら」の最初の音から、ウィーン世紀末の気分が、溢れ出すようで... 弦楽の艶やかさと、ピアノのキラキラとした輝きは、まるでクリムトの絵画を見るようで... ピアノ伴奏とも、オーケストラ伴奏とも違う、ピアノ・クァルテットという編成の魅力が如何なく発揮され、マーラーの音楽は匂い立ち、たっぷりと酔わせてくれる。それは、上質なサロンの雰囲気だろうか?この親密感と、アレンジによる凝縮感が、絶妙。また、伴奏が極めて軽装備となったことで、フェリシティの声も無理なくよく通り。それがまた、より表現の幅を得て、時に迫力すらあって... ヴェーゼンドンク歌曲集(track.6-10)では、より力強い歌声が印象的。もちろん、力で押して来るようなことはしない、しっかりと中身の詰まった表現から発せられる力強さ... その、きりっとした佇まいと、端々に薫る甘さが、よりワーグナーの魅力を引き立て、聴き入るばかり。そして、大いに気になる、『トリスタンとイゾルデ』!
前奏曲(track.11)と「愛の死」(track.12)... まさか、ピアノ四重奏版が登場するとは思ってもいなかったし、フェリシティがイゾルデを歌うというのも、驚きだった。が、あのオーケストラによるグラマラスなサウンドは、巧みに整理され、タイトになってイゾルデに寄り添うと、フェリシティならではのクラッシーな声と、丁寧で豊かな表現が、美しいイゾルデ像を、より明確に立ち上がらせて。4時間に及ぶタフな舞台を経た、タフなイゾルデの「愛の死」とは違う、瑞々しい女性像が本当に印象的。フィナーレに向けては、ますます力強く盛り上げ、シューマン四重奏団も食われてしまう?もちろん、彼らも、ワーグナーの巨大な音楽を相手に、大健闘なのだが...
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ピアノ... さすがに4つの楽器ではカヴァーし切れない響きもあるのかなと。オリジナルの豊潤さを思い浮かべると、わずかにチープに感じる瞬間もある。弦楽のみでなく、ピアノの入った編成は、響きの色彩に幅が広がり、煌びやかさが出て、すばらしい効果を発揮させる。が、ワーグナーならではの巨大さ、歌曲とは違うドラマティックさが、マックスになった時、ピアノ頼みの処理が、気になるか... いや、相手が巨大だけに、難しいことは理解している... ワーグナーの凄さの裏返しだなのだなと...
とはいえ、シューマン四重奏団の演奏には、文句の付けようがない。パパヴラミのヴァイオリンは繊細で美しく、ギュイエのチェロが、実に深みのあるサウンドで全体を整え、またファーヴのピアノは絶妙で。タイトではあっても、十分にロマンティックな気分が漂い、4つの楽器で創り出す艶やかさ、色彩感は、想像以上。ということで、この実験、続編も期待してみたり... リヒャルト・シュトラウスの4つの最後の歌と、『カプリッチォ』の、あの印象的な最後のシーン... など、どうだろう?

Mahler - Wagner Felicity Lott ・ Quatuor Schumann

マーラー : リュッケルト歌曲集 〔ファーヴによるピアノ四重奏伴奏版〕
ワーグナー : ヴェーゼンドンク歌曲集 〔ファーヴによるピアノ四重奏伴奏版〕
ワーグナー : 楽劇 『トリスタンとイゾルデ』 から 前奏曲 と 「愛の死」 〔ファーヴによるピアノ四重奏伴奏版〕

フェリシティ・ロット(ソプラノ)

シューマン四重奏団
テディ・パパヴラミ(ヴァイオリン)
クリストフ・シラー(ヴィオラ)
フランソワ・ギュイエ(チェロ)
クリスティアン・ファーヴ(ピアノ)

æon/AECD 0858




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