いとも、儚げなるもの。 [2008]
なんとなく、いつも気になりながら、真正面からは、なかなか聴くに至らないでいたメレディス・モンク。5年ぶりの新譜と聞いて、なんとなく、手に取ってみる。いや、"impermanence"(ECM NEW SERIES/476 6391)というタイトルにヤラれたか... こういう、センシティヴなタイトルに弱く。そして、そんなタイトルを裏切らないイメージ... 始まりの、"Last chance, Last chance Last chance... "と、呟きのような、歌のような、呪文のような、アンビエントなピアノを背景に漂う、声に、深い色が滲み、一筋縄ではいかない感情が広がる。
もう、それだけで、心を鷲掴みにされる思い。
時折、見かける、「ビョークに影響を与えた... 」といった、ジャンルを超えていく、彼女の創り出す稀有な世界の語られ方に、興味を持っていたのだが。この人ほど、カテゴライズが難しい人はいない... ダンス、パフォーマンス、アート、そして音楽を手掛け、なんでもこなす。また、そんなマルチな才能が、極めて現代的で... 音楽の中の話しだけではなく、メレディス・モンクという存在を、カテゴライズしようというのが、そもそも間違っているのだろう。が、ここでは、ECM NEW SERIESからのリリースということで、とりあえず、現代音楽として、聴いてみるのだが... より多くのカテゴリーに受け入れられる可能性を持ち合わせ、そうした、ニュートラルな感性が、枠組みを超えて異彩を放つ。
一見、シンプルなサウンドには、あらゆるものが混在して、それらは錯綜するようなところもあって、一ところには留まっていられないような感覚もあり... ふと、日本の古い歌のようなメロディ(track.10)が紛れ込み、ぼやけて、『おちゃらかほい』(なの?)が聴こえてくる。日本の、ノスタルジックな風景を、意外な場所で垣間見てしまったようで、それは、妙に懐かしく。また、わらべ唄のようなメロディが、カノン(track.16)になって、美しく、静かに共鳴し。日本という場所から聴くからなのか、より印象的に響いて。似て非なるようで、深淵に迫るような、不思議な魅力を放つ。かと思うと、particular dance(track.6)では、狂言のような、合いの手も入り、コミカルで、軽やかで。そんな合いの手が入るサウンドには、いろいろな要素が盛り込まれていて、びっくりするほど多国籍。それがまた、クール!
日本もちらちらしながら、地球の、あちらこちらの音楽のテイストを匂わせつつ、全てをメレディスのカラーで包み、やさしく、人懐っこく。けれど、そんな音を追っていると、どこへ連れて行かれてしまうのか、ちょっぴり怖くなったり。こどもの頃に見た、不可思議な夢の中に迷い込んでしまったのか... 近頃、体験し得ない音楽が、"impermanence"には綴られている。が、これは、音楽なのか?聴き込んでくると、音楽という枠すら消失して、何か、心の奥底の、ぼんやりとした心象を見つめるような。忙しない日常から、そんな、いとも儚げなるものに触れてしまうと、キリっと、心のどこかに痛みが走るような... それにしても、不思議な... メレディス・モンク。彼女の録音を、俄然、遡ってみたくなる。
Meredith Monk impermanence
■ メレディス・モンク : impermanence
メレディス・モンク&ヴォーカル・アンサンブル
ECM NEW SERIES/476 6391
■ メレディス・モンク : impermanence
メレディス・モンク&ヴォーカル・アンサンブル
ECM NEW SERIES/476 6391
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