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オリエント、オクシデントを越えて... [2008]

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オリエント、オクシデント、東と西と...
ドイツのミニマリズムの作曲家、ハンス・オッテ(1926-2007)、80歳のメモリアル・コンサート(2006)のプログラムを再現したアルバムを聴くのだけれど。それは、オッテの仕事をただ単に回顧するわけではなく、一回り(強)年上の、アメリカの「前衛」の旗手、ジョン・ケージ(『ソナタとインターリュード』など... )と組み合わせて、スパイスにシェーンベルク(『6つのピアノのための小品』から... )をひとふりしてみたら... ピアノ、プリペアド・ピアノで、なかなか他では聴くことのない稀有な音楽世界を編み上げるのか。ただ、タイトルに用いた、オリエント、オクシデントには、少し、引っ掛かるものもあるのだけれど... 西のオッテ、東のケージ、なのか?
そんな1枚、近現代音楽を得意とする2人のピアニスト、フィリップ・ヴァンドレ、エルマー・シュランメルの弾くピアノ、プリペアド・ピアノで、オッテ、ケージが、音楽で不思議な対話を織り成すアルバム、"Orient | Occident"(WERGO/WER 6706)を聴く。

梅雨の時期に、ジャスト・フィットなサウンド... ピアノが奏でるミニマルな響きは、まるで雨粒が水面に作るたくさんの波紋のようで、ほのかに広がるピアノの美しい残響に、ウォータリーなイメージが重なる。透明だけれど、どこかメランコリックでもあるオッテの『響きの書』。ただただ美しく流れて、そんなアンビエントな心地よい響きに浸っていると、その後のプリペアド・ピアノの響きの異様さに、ギョっとさせられる。
異様なケージに対して、美しいオッテ... そこに、オリエント/オクシデントという構図を見出すのは、あまりに安易に思えるのだけれど。21世紀、オリエントの最東端からその構図を見つめると、違和感を感じずにはいられない。しかし、しばらくプリペアド・ピアノの無軌道な響きを追えば、感じ方は変わるのか。ミニマルなオッテの後だからこそ、ケージの無軌道さに、"深み"を見出すようで。また、その深さに圧倒されてみたり。
西洋音楽のアイコン、ピアノ... それは美しく整えられた西洋の音階をきちっと奏でることのできるブリリアントなマシーン... そこに異物を挟み込み、"プリペアド"されることで、美しく整えられたものを歪め、崩して... すると、予定調和などあり得ない、無限の可能性が広がり出す。解り易い美しさでは、到底、敵わない、得体の知れない深い響き。オッテの作品に挿んで奏でられる、ガムランをイメージする、ミステリアスな『ソナタとインターリュード』、このアルバムでは、どこか水禽窟の音を思わせるようでもあり、脱西洋音楽のみならず、脱音楽ですらあるような... 典型的に音楽でしかない西洋と、音楽という枠組みを設けず、サウンドが自然足り得てしまうスケールの東洋。オッテとケージの対話に、そんな構図が見えてくると、西高東低のクラシック的な価値観は逆転する。さらには、アルバムが進むにつれ、オッテの美しい響きには不協和音も滲み、ケージに近寄る感覚も見せ。ケージもまた、ピアノそのものの音も聴かせる、"プリペアド"しきらないジェミニ(track.9)などで、ケージ流のミニマルな世界を繰り広げ、その瑞々しい響きに、新鮮な印象を受ける。そして、共鳴し出す、オッテ、ケージ...
オッテに始まり、ケージ、オッテ、ケージ、そしてまたオッテと、交互に演奏され、綴られるアルバム。その対話のような連なりを聴いていると、異質であるはずの2つのサウンドに、つながりを見出すのか?もちろん、そこには、2人の作曲家による作品を、丁寧に選び出し、絶妙のバランスで並べたからこその編集の存在も大きい。ひとつのトラックに、2人のサウンドをつなげて演奏(シェーンベルクの『6つのピアノのための小品』の2曲目を、オッテで挟み込み... )したり... そうした巧みな「編集」の力で、異質な2つのサウンドは、境界を越え、やがて滲む姿が、また美しく。個々の作品としてではなく、ひとつのアルバムとして呼吸し出す。
オリエント、オクシデントでもなく、"ゲンダイオンガク"でもなく、異質と思われた2つのサウンドが、引き合うように仕向けられたことで生まれる化学変化は、よりアンビエントな魅力を放ち、あらゆることを越えて、異質さも包み込んで、つながり、その様が、新しく、深く、心地良い。

John Cage | Hans Otte Orient | Occident

オッテ : 『響きの書』 から part.2
ケージ : ソナタ 第7番
ケージ : ソナタ 第8番
オッテ : 『響きの書』 から part.9
ケージ : インターリュード 第1番
オッテ : 『響きの書』 から part.8
ケージ : ソナタ 第2番
オッテ : 『響きの書』 から part.6
ケージ : ジェミニ
オッテ : 『時の本』 から 39
オッテ : 『時の本』 から 13
ケージ : ソナタ 第3番
オッテ : 『時の本』 から 16/シェーンベルク : 『ピアノのための6つの小品』 Op.19-2/オッテ : 『時の本』 から 17
ケージ : ソナタ 第5番
オッテ : 『時の本』 から 24
ケージ : ソナタ 第11番
オッテ : 『時の本』 から 19
ケージ : ソナタ 第16番
オッテ : 『響きの書』 から part.10
オッテ : 『時の本』 から 25/ケージ : ソナタ 第6番/オッテ : 『時の本』 から 48 *

フィリップ・ヴァンドレ(ピアノ)
エルマー・シュランメル(プリペアド・ピアノ)

フィリップ・ヴァンドレ(プリペアド・ピアノ) *
エルマー・シュランメル(ピアノ) *

WERGO/WER 6706




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