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深く、深く、ディープな世界へと下りていき... [2008]

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古楽とジャズの間を浮遊する、稀有なアンサンブル、ダウランド・プロジェクト。その3作目のアルバム"Romaria"(ECM NEW SERIES/476 5780)は、ダウランドの時代から少し遡って、ゴシック期からルネサンスの前半を取り上げる。しかし、漂う空気は、どこか冷たく、重く、中世的(中世の表情は、安易なステレオ・タイプで語られる時代は終わったのだが... )な色合いが濃く。サックス、バス・クラリネットを吹く、このアンサンブルのジャズ的ベクトルを担うジョン・サーマンも、時折、楽器をリコーダーに持ち替えて... より古楽の色合いは濃くなったか?

サックスにしろ、バス・クラリネットにしろ、意外にも中世のトーンにしっくりときて、どこか、中世に鳴り響いていた角笛か何か、その当時の楽器のような表情も窺えて、おもしろく。普段は、極めてモダンな場所に身を置いているはずが、このアルバムでは、古(イニシエ)のイメージから、大きく逸脱することはなく... が、『オフィチウム』といった、ECMの伝説的なアルバムからすると、わずかにイメージの飛躍に欠ける?なんてことも、頭に過ってみたり... とはいえ、ECMならではのテイスト、ダウランド・プロジェクトでなくてはあり得ないサウンドに、事欠くことはないのだが。また、逆に、その古(イニシエ)の佇まいの、圧倒的な様というのか、遠い遠い昔の、遥かなる風景(ジャケットの風景が、ぴったりな、そんなイメージ?)の、揺るぎなさのようなものが、アルバム全体を貫く。
ポッターの、抑制の利いた声(さすがに、1作目と聴き比べると、衰えも?)は、より素朴な表情を見せ、スタッブスのリュート、バロック・ギターが、すっと寄り添って、古雅な色を加え... ヴァレントのヴァイオリン、ヴィオラも、ピリオド仕様ではあるものの、ゴシック期からすれば、それらはおもいっきりモダンであって、いや、誕生すらまだなのかもしれない... が、ピリオドならではの風合いが、中世の気分をより盛り上げて。そこに、サーマンが加わると... 実は、サーマンの奏でるどこか鄙びたサウンドこそが、このアルバムの、中世的な色合いを、最も濃くしている?中世ではあり得ないものが、より中世のイメージを喚起してくるパラドックス。ちょっと興味深い化学変化がそこにあって、その厳しい表情が、深く、印象的に響く。
それにしても、名手揃い。たった4人で、驚くほどディープな音楽を創り上げてくる。また、各曲、よく練られていて、巧みに仕立て上げられていて、そのディレクションぶりも、唸らずにいられない。下手な折衷に陥ることなどあり得なく、彼らのスタイル、スタンスで、中世を掘り下げていって生まれる、我々の日常ではけして触れることのできない質感。というのか。それは、一度、触れてしまうと、そこから浸食されてしまうような。抗し難い魅力で、ひたひたと、静かに迫ってくる。

が、アルバムの最後、彼らのオリジナル(track.17)で聴かせるサウンドは、次第次第に、中世から抜け出して、フォークなテイストから、ちらりとジャズを匂わせ。最後の最後で、ふわっとジャンルを超えてみせる。そのセンスの妙というのか、このバランス感覚が凄い。なんと、クールな!

The Dowland Project John Potter Romaria

"Der Kanzler" : Got schepfer aller dingen
作曲者不詳 : ヴェリス・ドルチス 『カルミナ・ブラーナ写本』 より
作曲者不詳 : 美しき薔薇 『フラヌス写本』 より
作曲者不詳(12世紀、アキテーヌ) : われらのために祈りたまえ
イベリア半島、古謡 : Lá lume
作曲者不詳 : ドルチェ・ソルム 『カルミナ・ブラーナ写本』 より
ヴォルケンシュタイン : Der oben swebt
グレゴリオ聖歌 : オ・ベアタ・インファンティア 〔断章〕
イベリア半島、古謡 : おお、薔薇よ
ヴァレント+サーマン+スタッブス : サウダーデ
ジョスカン・デ・プレ : イン・フラジェリス
フィルミヌス・カロン : キリエ 「主、イエスは横切られ」
グレゴリオ聖歌 : オ・ベアタ・インファンティア
ラッスス : クレド 「ラウダーテ・ドミヌム」
ノイシドラー : Ein gut Preambel
ジョスカン・デ・プレ : サンクトゥス 「御身ただ一人」
ヴァレント+サーマン+スタッブス : Ein iberisch Postambel

ダウランド・プロジェクト
ジョン・ポッター(テノール)
ミロシュ・ヴァレント(ヴァイオリン/ヴィオラ)
ジョン・サーマン(ソプラノ・サクソフォン/バス・クラリネット/リコーダー)
スティーヴン・スタッブス(バロック・ギター/ビウエラ)

ECM NEW SERIES/476 5780




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