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重箱の隅をつついてみたら... リース、充実のオラトリオ!『イスラエルの王』。 [2008]

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クラシックという重箱の、その隅を、丁寧に突いて、隠れていた作品を、次から次へと引っ張り出して... ヘルマン・マックス率いる、ダス・クライネ・コンツェルト(ピリオド・オーケストラ)、ライニッシェ・カントライ(コーラス)の仕事ぶりには、いつも驚かされる。バロックから、ロマン派前半あたりまでをカヴァーする、彼らの器用さもさることながら、よく知られた音楽史の骨の部分の、その周りに肉付けしていくような作品を探し出して、再びスポットを当て、往時の豊かな音楽シーンの全体像を、現代に蘇らせるリリースの数々。どれもこれも、極めて興味深く、そして、いつもハイ・クウォリティ。そんな、彼らの演奏に触れていると、漠然と捉えていた音楽史の流れの、解像度が上がって行くようで... そして、また、その解像度を上げてくれる、新たなリリース...
ヘルマン・マックスの指揮、ダス・クライネ・コンツェルトの演奏、ピリオドでも活躍するベテランのソリストたち、ライニッシェ・カントライのコーラスによる、ベートーヴェンの弟子として知られる、リースのオラトリオ『イスラエルの王』(cpo/777 221-2)を聴く。

フェルディナント・リース(1784-1838)。
ベートーヴェン(1770-1827)の弟子として知られるリースだけれど、そこには、興味深い前日談が... 選帝侯、ケルン大司教のオーケストラのコンサート・マスターだったフランツ・アントン(1755-1846)を父に、大司教の宮廷が置かれていたボンで生まれたフェルディナント。で、リース家は、ボンの宮廷において、ベートーヴェン家の同僚。父、フランツ・アントンは、ベートーヴェンのヴァイオリンの師であり、飲んだくれの父に悩まされる若きベートーヴェンを支援。やがて、息子、フェルディナントが、ウィーンへ出ることになると、ベートーヴェンは快く弟子として迎えたとのこと。こうした交流は、後に、最古のベートーヴェンの伝記、『ベートーヴェンに関する伝記的覚え書き』(1838)を生むことに(ベートーヴェンのボン時代からの友人で、医師のヴェーゲラーとの共著... )。さて、1801年、ベートーヴェンの下に身を寄せたフェルディナントは、そのアシスタントとしても働き、研鑽を積み、1804年には、「ベートーヴェンの弟子」として、ピアニストとしてウィーン・デビュー。ヨーロッパ各地でもヴィルトゥオーゾとしてベートーヴェン仕込みの腕を存分に奮い、特にロンドンでは、10年弱(1813-24)を過ごし、ベートーヴェンの紹介者としても活躍。その後、帰国。フランクフルトを拠点(1827-)とし、多くのロマン派の作曲家たちに活躍の場を提供した、ニーダー・ライン音楽祭(1818-1957)の監督を6回(1825, 29, 30, 32, 34, 37)務め。そこでの最後の監督を務めた、1837年、アーヘンでの音楽祭で初演されたのが、ここで聴く、オラトリオ。
その、『イスラエルの王』... ヘンデルを始め、多くの作曲家にインスピレーションを与えた旧約聖書からのエピソード、初代イスラエル王、サウルと、その後を継ぐことになるダビデの葛藤を描く物語。聖書とはいえ、実にドラマティックな政権交代劇だけに、下手に辛気臭くなることなく、壮麗に盛り上げるリースの音楽!ベートーヴェンの"弟子"ならではのサウンドというのか、古典派から受け継いだ端正さと、19世紀前半のロマン主義が放つ瑞々しさが絶妙のバランスで響き合い、そこにメンデルスゾーンのオラトリオを思い起こすスケール感も広がり... ちょうど、前年の音楽祭では、メンデルスゾーンの『聖パウルス』が初演されており、これが、新たな時代のオラトリオのモードなのか?メンデルスゾーンばかりでない、魅力的なオラトリオに、惹き込まれる。
で、印象に残るのが、コーラス!これぞオラトリオの醍醐味!というあたりをしっかりと聴かせてくれて。また、ライニッシェ・カントライの、透明感と力強さに溢れるコーラスが、作品をより輝かせていて、いや、カッコいい... 第1部の最後(disc.1/track.16)、祈りを捧げるイスラエルの人々のコラールと、攻撃を仕掛けるペリシテ人の激しいコーラスのぶつかる姿は、そのコントラストといい、バトルといい、エキサイティング!初演当時、大評判となったというのが頷ける。一方で、第2部では、リースのその先にある響きも聴こえて来て... サウルがエンドルの霊媒を訪ねるシーン(disc.2/track.3-6)などは、ワーグナーの臭いがし出している。また、エンドルの霊媒を歌うエヴァ・ヴォラックのアルトが、ド迫力で、サムエルの霊を呼び出すおどろおどろしさは、オペラティック!第1部とはまた違う魅力で楽しませてくれる。それにしても、聴き応えは十分なのに...
メンデルスゾーンの『聖パウルス』とは比べ物にならないほど知られていない現実。が、メジャーばかりがクラシックではなく、重箱の隅を捨て置くわけには行かない。そうした思いを、また強くする、いつもながらのマックスの仕事ぶり!ソリスト陣には、一部、物足りなさ、弱さも感じたが、ライニッシェ・カントライのコーラスは、いつもながらすばらしく。ダス・クライネ・コンツェルトの演奏も、雄弁で。作品への確信を以って響くリースのオラトリオは、充実した"再発見"をもたらしてくれる。

Ferdinand Ries ・ Die Könige in Israel ・ Hermann Max

リース : オラトリオ 『イスラエルの王』

ミカル : ネレ・グラムス(ソプラノ)
ヨナタン : ゲルヒルド・ロンベルガー(アルト)
エンドルの霊媒 : エヴァ・ヴォラック(アルト)
ダビデ : マルクス・シェーファー(テノール)
サウル : ハリー・ファン・デル・カンプ(バス)
サムエルの霊 : マレク・ジェプカ(バス)
アブネル : カイ・フローリアン・ビショフ(バス)
ライニッシェ・カントライ(コーラス)
ヘルマン・マックス/ダス・クライネ・コンツェルト

cpo/777 221-2




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