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19世紀、始まりの四半世紀... 現代作曲家としてのベートーヴェン... [2008]

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21世紀、ベートーヴェン。
"ベーレンライター版"も、"ピリオド・アプローチ"も、一巡した観があり... さらには、モダンとピリオドのハイブリットが主流となりつつあり... ベートーヴェンを巡る状況は、ここ数年で、目まぐるしく変化している。そうした中で、再び、ベートーヴェンのプロジェクトが、あちらこちらで進行中。一巡しての、新たなベートーヴェン熱?やっぱり、みんな、好きなんだなと、つくづく思う。そして、人様のことばかり言えません、ベートーヴェン大好き!そこに、久々のピリオド・アプローチで挑む、ベートーヴェンの交響曲、全9曲。
興味津々だけれども、「今さら」と思うところもあって、もどかしく思いつつ手に取った、ジョス・ファン・インマゼール率いる、ピリオド・オーケストラ、アニマ・エテルナによる、ベートーヴェンの交響曲全集、6枚組(Zig-Zag Territoires/ZZT 080402)を聴く。

インマゼール+アニマ・エテルナのベートーヴェンの交響曲というと、SONY CLASSICALから、ポツポツとリリースされたのだけれど、Zig-Zag Territoiresに新たな居場所を確保して、快進撃中の彼らが、改めてベートーヴェンに挑むわけでして... ピリオドから、過激に時代を下って、とうとうラヴェルにまで至り、センセーションを巻き起こしてからの、ベートーヴェンというのは、どんなものに仕上がるのだろうか?期待半分、恐さ半分、いや、何かしでかしてくれる?くらいの勢いで聴き始めてみたら、センセーショナルさは薄い?一見、大人しい演奏が展開されている。しかし、聴き進めて行くと、何かが違う... モダンはもちろん、ピリオドでも味わったことのない、ハイブリットとも違う、不思議な感覚に、少し戸惑う。戸惑いつつも、惹き込まれてゆく。
ピリオドが持つプリミティヴなトーンは、独特の洗練を以って昇華されており(ピリオド・アプローチの歴史も、それだけの道を歩んで来たということかなと、感慨も... )、思い掛けなく、さらっと演奏されてしまう。一方で、聴き込むと、さらっとした中に、これまで感じることのなかった様々な表情を見出して。その様々な表情に、ベートーヴェンの時代、そのものを見出すような感覚を覚える(って、ピリオドは、そういうものなのだけれど... )。いわゆる"ピリオド"は、結局のところ、復元という名を借りた再創造であって、そこには、"モダン"のアンチテーゼとしての意味合いが多分に含まれる。モダンの累積的な問題点を解消し、現代にも息衝くクラシックを実現するためのピリオド。というのか。過去を振り返る演奏ではなく、あくまで現代的な演奏。のような。しかし、インマゼールが求めたのは、過去を振り返る演奏?過去に過大な期待を寄せることのない、素のベートーヴェンというのか...
ベートーヴェンが活躍した頃、19世紀、始まりの四半世紀。当時のダンスだったり、マーチだったり、流行歌だったり... そうした、ハイ・カルチャーとは違う次元にある音楽の、フリカッセとしてのシンフォニー?インマゼールが掘り起こした素のベートーヴェンは、そんなイメージだろうか。あの、9つの交響曲から、気軽さや、チャーミングさまでがこぼれ出し。何より、ハイ・カルチャーとポップ・カルチャーの線引きがまだまだ曖昧だった頃の、様々な要素がせめぎ合い、渦巻く感覚が、安易に成型されることなく、そのまま存在していて、さり気なく混沌が広がる。そして、その自然体に、ベートーヴェン=クラシックの金字塔という仰々しさはない。ベートーヴェンの死後、音楽史が綴られる過程で祭り上げられた「ベートーヴェン」という存在を、もう一度、19世紀、始まりの四半世紀における、"現代作曲家"として捉え直すのか。その歴史を経ない軽さ... 軽さの中に、イメージが固定されていない生々しさ... こういう真新しさを、演奏され尽くしたベートーヴェンの9つの交響曲で響かせるとは... やっぱり、インマゼール、恐るべし。それを卒なく音にするアニマ・エテルナの、どこか飄々とした風情も印象的で。凄いものを狙っての凄さではない、不思議な凄さ。この境地、なかなか他では探せないかもしれない。
聴く前のもどかしさは、じわりじわりと雲散霧消... はっと気が付けば、インマゼールが仕掛けるベートーヴェン像にすっかり惹き込まれていて、6枚組も、一気に聴いてしまう。聴き終わって、ズキズキと、そのセンセーショナルさを再確認し、唸ってしまう。

BEETHOVEN ・ Anima Eterrna ・ Jos van Immerseel SYMPHONIES - OUVERTURES

DISC,1
『プロメテウスの創造物』 序曲 Op.43
交響曲 第1番 ハ長調 Op.21
交響曲 第2番 ニ長調 Op.36
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DISC,2
交響曲 第3番 変ホ長調 Op.55 「英雄」
『コリオラン』 序曲 Op.62
『エグモント』 Op.84 から 序曲
『アテネの廃墟』 Op.113 から 序曲
『アテネの廃墟』 Op.113 から トルコ行進曲
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DISC,3
交響曲 第5番 ハ短調 Op.67 「運命」
交響曲 第4番 変ロ長調 Op.60
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DISC,4
交響曲 第6番 ヘ長調 Op.68 「田園」
交響曲 第8番 ヘ長調 Op.93
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DISC,5
交響曲 第7番 イ長調 Op.92
『献堂式』 序曲 Op.124
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DISC,6
交響曲 第9番 ニ短調 Op.125 *

アンナ・クリスティーナ・カーポラ(ソプラノ) *
マリアネ・ベアーテ・シェラン(アルト) *
マルクス・シェーファー(テノール) *
トーマス・バウアー(バリトン) *
アニマ・エテルナ合唱団 *
ジョス・ファン・インマゼール/アニマ・エテルナ

Zig-Zag Territoires/ZZT 080402(KDC 5044/49)


インマゼールによる、ベートーヴェン。
この全集を聴いていると、我々が生きる「近代」という"ピリオド"の、最初の喧騒を追体験するようで、何とも言えぬ心地になる。すでに破綻しつつある「近代」、その枠組みの中で苦悩する21世紀初頭の社会。何気なく聴き進め、最後の第九、シラーの歌(disc.6, track.4)が流れ出すと、「近代」を振り返るような、そんな感慨も覚え。また、シラーの歌に籠めた、ベートーヴェンの思いが、200年の時を経て、今こそ解き放たれ... インマゼール+アニマ・エテルナを依り代として、ベートーヴェンの"魂"と触れ合う感覚すらある。
ベートーヴェンの時代と、現代と、どこかで、似ているのかもしれない。既存の価値観は崩れるも、保守主義に足を捉われ、先に進めず、もがくばかり。




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