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この幻惑感、まさに、バロック! [2008]

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naiveの看板プロジェクト、"ヴィヴァルディ・エディション"において、特に異彩を放っているのが、ジャン・クリストフ・スピノジ率いるアンサンブル・マテウス。ヴィヴァルディのオペラを、強烈なコントラストで、過激に描き上げ、あっと言わせ... 時に、ギョっともさせられ... オペラ『試練の中の真実』(OPUS111/OP 30365)などを思い起こせば、今だに、彼らの、沸点に達した、あの異常とも言える演奏に迫るものは、なかなか現われない。そんな、フランスきってのトンガリ系ピリオド・アンサンブルが、久々のリリース... フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー)、マリ・ニコル・ルミュー(コントラルト)をソリストに、ニシ・ドミヌス、スターバト・マーテルといった、ヴィヴァルディの教会音楽(naïve/OP 30453)の定番を取り上げる。

スピノジ率いるアンサンブル・マテウスならば... ジャルスキー、ルミューという、ピリオド界を彩る偉才が歌うならば... 「定番」もまた、新たなイメージで聴けるのでは?と、期待するわけだが、やはり、ただならぬものがある。オペラと違い、教会音楽だけに、アンサンブル・マテウスの「強烈さ」が、派手に繰り出されるシーンは少ない。が、1曲目、ニシ・ドミヌスの最初のフレーズから、典型的ヴィヴァルディ・サウンドは、スピノジにより何気なく強調され、ちょっとしたアクセントにも、ゾクっとくる。キツめ(時に、キツ過ぎる... )のコントラストで、とにかくインパクトだけは残す... そういうイメージが先行しそうなスピノジ、アンサンブル・マテウスのコンビだが、そういうコントラストだけではない、充実のアンサンブルが、独特の艶っぽさを醸して、教会音楽にも、ただならぬ緊張感、ただならぬ魅惑を籠めてしまう。敬虔にして、静かな祈りの音楽... など、やはり、彼らにはあり得ない。というより、それが、当時のヴェネツィアの流儀というのか、カーニバルの期間中は、修道院すら、エロティックな気分が立ち込めていたわけで... そんな生々しいイタリア・バロックの臭いが、21世紀に立ち上る。ジャケットの、天使の羽のタトゥーを施した、大胆な女性の背中が、また、象徴的。
さて、主役である歌手たちだが... ニシ・ドミヌスでソロを歌う、ジャルスキーの声は、相変わらずのスーパー・カウンターテナーぶりを聴かせてくれて... 浮遊感のある、クリーミーな声が流れ出すと、空気が変わる。薄っすらドスも利いた、艶っぽいアンサンブル・マテウスの演奏の上空で、軽やかに、どこか天使のようにふわふわと舞ってみせて、印象的。が、"Cum dederit delectis suis somnum"(track.4)で歌われる、幽玄に漂う、迷う魂のような、ほの暗くも透明な美しさは、スーパー・カウンターテナーの瑞々しい声で、浮世離れして、異界に引き込まれそうで... 静かにして、圧倒的。
一方の、スターバト・マーテルを歌う、ルミュー。コントラルトならではの声の深い響きに、独特のまろやかさ、艶っぽさを乗せて、魅力的に濃厚。スターバト・マーテル=嘆きの聖母、マリア... だが、どこか大地母神のような、どっしりとした存在感(けして、見た目ではなく... )を漂わせ、聖母の嘆きに、肉感的な(やはり、見た目ではなく... )、生々しさも盛り込むようで、この「定番」に、これまでにない迫力を見出す。
しかし、最も驚くべきは、「クルチフィクスス」(track.10)の二重唱。ジャルスキーとルミュー、カウンターテナーとコントラルトが綾なす音楽は、女声と男声、音の高さで逆転して、異次元な感覚を味合わせてくれる。既成概念に縛られていると、基点となるものを失うようで、まるで無重力。2つの声はわかるのだけれど、2人の声は、どちらがどちらなのかわからなくなり、融けてしまいそうで。また、融け合うことで、官能的ですらあって、短いナンバーながら、そのインパクトは大きく、また、幻惑される。そして、この幻惑感こそ、まさに、バロック!ステレオタイプを越えて、ただならない時代の、ただならなさが、ドロリと滴る。このただならぬアルバム、ヴィヴァルディの生きた時代の、ヴェネツィアの気分の、100%濃縮還元?

VIVALDI Nisi Dominus Crucifixux Stabat Mater Lemieux Jaroussky Spinosi Matheus

ヴィヴァルディ : ニシ・ドミヌス RV.608 *
ヴィヴァルディ : 『クレド』 ト長調 RV.592 より 「クルチフィクスス」 **
ヴィヴァルディ : スターバト・マーテル RV.621 *

フィリップ・ジャルスキー(カウンターテナー) *
マリ・ニコル・ルミュー(コントラルト) *
ジャン・クリストフ・スピノジ/アンサンブル・マテウス

naïve/OP 30453




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