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Antonio Salieri Vol.1 [2008]

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ハイドンのファイが、新たにサリエリのシリーズを始める!?
と、聞いた時は、そのチャレンジングな姿勢に、まさにファイならでは!と思ったのだけれど... サリエリの、オペラの序曲とバレエを集めてのシリーズと聞いて、シリーズが成り立つのだろうか?と、少し、首を傾げてみたり... ま、40以上もオペラを書いているのだから、40以上は序曲もあるのだろう。どちらにしろ、ファイならではであって、向こう見ずなくらいが丁度いいのかも... で、どんなシリーズになるのか大いに楽しみ!
ということで、トーマス・ファイと、彼が率いるピリオド・オーレストラ、マンハイム・モーツァルト管弦楽団による、サリエリの序曲とバレエ集、第1弾(hänssler/98.506)を聴く。

1曲目から、ガツーン!と、ヤラれる。サリエリ、21歳の作品(とは思えない充実のサウンド!)、『アルミーダ』(1771)のシンフォニア。それは、まさに疾風怒濤!グルックの、パリに移ってからの、凄まじいサウンド... 例えば、傑作、『トーリードのイフィジェニ』(1779)の、幕開けの嵐の音楽などを思い起こすのだけれど。サリエリの『アルミード』は、グルックが宮廷楽長として君臨していたウィーンで初演された作品。ちなみに、パリで大成功したグルックの『アルミード』(1777)の、6年前の作品だったりする。グルックのオペラ改革にギアが入った頃、丁寧に時間軸を追って行くと、サリエリという存在が、実に興味深く感じられて来る。
序曲ばかりではない、バレエも起伏に富んでいて、実にドラマティック!この第1弾では、バレエ『パフィオとミッラ、またはチプロの囚人たち』(track.3-7)と、オペラ『ダナオスの娘たち』からのバレエ(track.9-15)の2つが取り上げられるのだけれど、疾風怒濤の最初の一撃、グルックのバレエ『ドン・ジュアン』(1761)を思い起こさせつつ、さらに豊かなサウンドが溢れ、バロック期の「組曲」の進化系?管弦楽曲として、十二分に楽しめてしまう。伊達にオペラを40以上も書いていないというのか、ドラマの要素を音楽に落とし込むのが巧い、サリエリ。オーケストラのみによるドラマは、交響詩的な雰囲気もあるのか、単なる踊りのための音楽... という次元を超えた可能性を秘めているようにも思えて来る。いや、オーケストラ作品としての聴き応えが、意外というか、発見というか、驚き!そういう存在を、これまで、あまりに無視して来た裏返しではあるのだけれど...
管弦楽曲として、サリエリの序曲やバレエを捉え直す。という、ファイのアプローチからは、モーツァルト(1756-91)世代の軽やかなモードと、グルック(1714-84)世代の疾風怒濤の迫力、そして、やがて到来するロッシーニ(1792-1868)の時代のメロディックで軽快な気分までが聴こえて来て... 過渡期の音楽としてではなく、それまでの音楽の最良のものと、その先にある最も先端的なものを目敏く選び出し、盛り込み、自身の作品として洗練を以ってまとめ上げる、サリエリのセンスが浮かび上がる。で、そのバランス感覚たるや!そうして生まれる作品の数々は、モーツァルトを凌駕していく瞬間が、度々、聴かれ... モーツァルトのような作り込まれた感覚は薄いものの(というより、モーツァルトが極めてミクロコスモス的な指向を持っていたことを思い知らされる、サリエリの音楽... )、そこに、モーツァルトよりも先に視線が向いていたことを感じさせる。
映画『アマデウス』でのイメージが、不当なものだということはわかっていても、こうした充実したオーケストラ・サウンドを聴かされると、目から鱗が落ちる思い。で、それを実現したファイ+マンハイム・モーツァルト管の水際立ったパフォーマンス!モダンとピリオドのハイブリットであるハイデルベルク響が、完全にピリオド仕様になると、マンハイム・モーツァルト管に... で、より鋭くなったか?そのサウンド、ハイデルベルク響よりも、さらに刺激的に思えて。何より、上手い!もの凄いテンションで挑みながら、全てがクリアに演奏され。ファイならではの濃い味付けに、一糸乱れぬアンサンブルで応えるマンハイム・モーツァルト管。透明感を保ちながらも、時にプリミティヴですらあり、そして豪壮。変にエキセントリックにならず、たっぷりと派手にも聴かせてくれて、濃密。そんなオーケストラを自在にドライヴし、一筋縄ではいかいない、スリリングな音楽を創り上げて行くのは、ファイの真骨頂... エンターテイメントな魅力が炸裂する!で、サリエリは楽しい!

Antonio Salieri Vol.1 Overtures & Ballet music

サリエリ : オペラ 『アルミーダ』 より シンフォニア・イン・パントミーマ
サリエリ : オペラ 『ダリーゾとデルミータ』 序曲
サリエリ : バレエ 『パフィオとミッラ、またはチプロの囚人たち』
サリエリ : オペラ 『煙突掃除人』 序曲
サリエリ : オペラ 『ダナオスの娘たち』 より 序曲、バレエ
サリエリ : オペラ 『オラース兄弟』 序曲
サリエリ : オペラ 『カティリーナ』 序曲

トーマス・ファイ/マンハイム・モーツァルト管弦楽団

hänssler/98.506


宮廷作曲家ならではとでも言うのか、サリエリのオペラや、宗教音楽ならば、聴くチャンスは増えて来た。また、それらが、モーツァルトの同時代の音楽として、聴き劣りするものではけしてないことも、21世紀、見えて来たわけだが、管弦楽曲という視点から、サリエリを捉え直して、ここまで聴かせてくれるとは、完全に想像を超えていた。さすがは、ファイ!そして、マンハイム・モーツァルト管。このシリーズ、vol.2、vol.3... と、どのように展開されていくのか、俄然、目が離せなくなる。そして、マンハイム・モーツァルト管という存在自体も...
彼は、巧い!で、18世紀の音楽を、より表情豊かに魅力的に聴かせてくれる!となると、ご当地、マンハイム楽派の作品も、是非、聴いてみたくなる。シュターミッツのアルバムはリリースされているようだけれど、マンハイムのシリーズなども立ち上げて欲しいところ。




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コメント 2

Bunchou

初めまして。
古典派好きのBunchouと申します。

サリエリって第一級のエンターテイナーだと思います。
彼のオペラ序曲の壮大さやドラマチックさは、現代で言うところの
スペクタクル映画の音楽に通ずるものなのかも、って感じることが多いです。
例えば『スターウォーズ』の音楽のような。
こういう音楽を素直に楽しめる余裕がないと、サリエリ作品の面白さには
気付きにくいのかもしれないですね。
いわゆるクラシックファンより、映画音楽好きに圧倒的にウケがいいかも、
というよりスッと受け入れられるのかも。

古典派というと例の「キレてる」三人衆ばかりに目が行きがちで、まあ、
それも仕方ない面はあるわけですけど、その周辺のウキウキするほど
魅力的な作曲家達にも、もっと目を向けていきたいですね。
そうすれば例の三人衆、つまりハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの
凄さや巨大さにも気付けるような気がします。

ちなみに僕はベタにモーツァルトが好きです。
by Bunchou (2008-06-24 21:53) 

genepro6109

Bunchouさん、コメントありがとうございます。

ていうか、このblogにコメントをいただけるだなんて... あまりに久しぶりで、ドギマギしております。(汗)

さて、サリエリのエンターテイメント性。改めて考えてみますと、まさに!ですね。例の三人衆に比べますと、より聴衆の方を向いていたのかなと、考えさせられます。
そして、近頃、例の三人衆以外の存在にも、ジワリジワリと光が当てられつつあります。で、この時代というものが、やって見えつつあって、ますます古典派への興味は募る一方です。すると、おっしゃる通り、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの凄さを改めて知り... また見方も変わり?聴き方すら変わるような... で、ますます、あれもこれも聴きたくなって... すでに、かなりの中毒。参りました。
by genepro6109 (2008-06-26 01:38) 

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