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チェンバロという、小さな箱が、驚くべき宇宙を創り出して... [2008]

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稀代の鍵盤楽器奏者、アンドレアス・シュタイアー... 今や、この人が何かをするとなると、一筋縄ではいかないわけで... 次は何を仕出かしてくれるかと、その一挙手一投足が楽しみだったりする。そうした中で、最新盤、バッハの初期の作品を集めたアルバム(harmonia mundi/HMC 901960)。というのは、いつもに比べると、多少、大人しいのでは?とも、思わせる。のだが... 最初のトッカータが鳴り始めた瞬間、目も眩む鮮烈さに、何か、打ち貫かれてしまったような... なんとゴージャスな響き!聴き知ったチェンバロが、チェンバロ以上の輝きを放つ。シュタイアーの演奏を聴いていると、まるで、贅の極みを尽くした、巨大なシャンデリアの中に閉じ込められたような気分になる。眩し過ぎる。その眩しさに、目が回りそう...

どうしても、バッハの音楽には、ストイックなイメージが付き纏う。また、ストイックであることが、すばらしい... という見方もあるかもしれない。が、一方で、近頃、さらに見通しが良くなりつつある"バロック"という時代を見渡すと、バッハの音楽は、実に浮いた存在に思えてくるわけだ。
今でこそ、音楽史上、燦然と輝く巨星なのだが(いや、そのことは、揺ぎ無いわけだが... )、その当時、モードから取り残された、田舎の作曲家... というポジションに、甘んじていたわけで。また、よりエモーショナルで、大胆であることに厭わない、同時代の作曲家のサルヴェージ作業が進むと、その当時の気分というものが、300年という時間の壁をも透けて、見えてきそうで。21世紀、ストイックなバッハに、感覚的な物足りなさを感じ始めていたり... したのだが... やはり、シュタイアーの手に掛かると、バッハも何か違って、響く。
ドラマティックで、時にセンチメンタルで、生々しく、艶やかな表情も見せ、ゾクっとくるものもあり。何より、激しい!パワフル!よりエモーショナルで、大胆であることを厭わない、もう一つのバッハ像がそこにくっきりと浮かび上がる。また、初期作品という括りが、余計にそうさせるのか、青年バッハの若々しい感性が、マキシマムに漲り。特に、3つのトッカータ(7つのトッカータから、BWV.912, 914, 916)が印象的。10代の末から20代にかけての作品(組曲、イ短調は、30代半ばの作品... これは、青年の作品とはすでに違うかも... )は、晩年の、仙人の奏でるような枯淡の音楽ではない、より感覚的で、もっと悦びに充ちたもので。輝くばかりの音楽が、圧倒的なテンションで、うるさいくらいに響き渡り... 作品が終わり、残響が切られた瞬間、どこか心地良い疲れが身体に残るようで、この感覚がたまらない。まさに、若さに溢れた音楽の瑞々しさ、魅力が、はちきれんばかりのサウンド。短調の作品であっても、ポジティヴな気分が漂う。
また、青年バッハの、モードを飛び出して、さらに尖がって見せるようなところもあり... "バロック"という時代感覚に収まりきらない、スリリングさも、時折、垣間見えて、刺激的。そこには、シュタイアーの強烈な個性の放射もあって、チェンバロという、あの小さな箱が、驚くべき宇宙を創り出す。神経質な、か細い金属音... などではあり得ない、多様で、極めて豊かなシュタイアーの響きには、"バロック"というスケール感を軽々と超越して、銀河や、星雲、星々が散りばめられているよう。そんな、圧倒的なサウンドのシャワーを浴びていると、その宇宙に投げ出されてしまったような感覚もあり、無重力に溺れるようで。それがまた、サイケデリックですらあって、クール!これは、18世紀のトランス系サウンド?かもしれない... そんな、バッハにして、いつものバッハを遥かに飛び越えていくような、ただならなさが、このアルバムには詰まっている。
やっぱり、この人が何かをするとなると、一筋縄ではいかない。
そして、青年バッハとシュタイアー、これは、最強のタッグかもしれない。

BACH Frühwerke ANDREAS STAIER

バッハ : トッカータ ニ長調 BWV.912
バッハ : パルティータ 「おお神よ、汝義なる神よ」 BWV.767
バッハ : トッカータ ホ短調 BWV.914
バッハ : 組曲 イ短調 BWV.818a
バッハ : トッカータ ト長調 BWV.916
バッハ : カプリッチョ 変ロ長調 「最愛の兄の旅立ちに寄せて」 BWV.992

アンドレアス・シュタイアー(チェンバロ)

harmonia mundi/HMC 901960




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