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サーカス・ポルカ! [2008]

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『春の祭典』、『火の鳥』、『ペトルーシュカ』、
ストラヴィンスキーといえば、三大バレエである。もちろん、そればかりではないけれど、三大バレエの、ド派手で、時にエキセントリックなオーケストラ・サウンドこそ、ストラヴィンスキーのイメージだと思う。が、その88年の生涯で、三大バレエが生み出されたのは、20代の末から30代の初めの、駆け出しとも言える頃... その後のストラヴィンスキーの長い創作活動は、まるでカメレオンのように、新しい音楽表現に敏感に反応して、次々と形を変えて行ったわけで、三大バレエは、あくまでもストラヴィンスキーの一端に過ぎない...
という、ストラヴィンスキーのカメレオンぶりを、ピアノ作品で聴くという、実に興味深いアルバム!そもそも、オーケストラ作品の影に隠れて、ほとんど視界に入ってこなかったストラヴィンスキーのピアノ作品だけに、興味津々でもあって... イタリアのピアニスト、ヴィクトル・サンジョルジョによる演奏で、ストラヴィンスキーが音楽を学び始めた頃の作品から、エポック・メーキングな三大バレエの時代を経て、1940年代の作品まで、さっくりとまとめられたストラヴィンスキーのピアノ作品集(NAXOS/8.570377)を聴く。

調子外れで、ルーズで、ラグタイムと言い切れるのか?ワルめいて、的を得ないような、ピアノ・ラグ・ミュージック(track.1)。サーカス小屋の軽めで、危うげな気分に、壊れた軍隊行進曲が割り込んで、錯綜するサーカス・ポルカ(track.2)。気だるくバロック?ピアノ・ソナタの2楽章(track.4)では、バッハの鬘をかぶりながらも、とぼけた表情を見せ... やがて、鬘もずれて、ストラヴィンスキー流の擬古典主義が、飄々と展開される。サンジョルジョのピアノも、どこかとっ散らかったような作品の数々を、ちょっと遊ぶように、自由に、軽やかに、楽しんで弾いていて、作曲家の天邪鬼な魅力は、増幅されてゆく。そんな感覚が、少しワル乗りしてゆくようなタンゴ(track.10)では、ギャグか?というような、ぶっきら棒なタンゴを繰り広げて。タンゴのはずなのに、随分と冷めきったメロディが、シニカルなのか、何なのか、タンゴのイメージが、否応なしにストラヴィンスキー調に壊されて... なおかつ、躊躇することなく、チープな世界に堕ちてゆく。この感覚がたまらない。オーケストラの大作では味わえない、ストラヴィンスキーのもうひとつのおもしろさか。それでいて、他の作曲家では、ちょっと真似のできない芸当。
そんな、奇妙な世界にスパイスを効かせるのが、あちらこちらに挿み込まれる引用の数々... ストラヴィンスキーの仕掛けたなぞなぞ?このフレーズは何だった?と、気になってしまう。先にも挙げた、サーカス・ポルカ(track.2)の軍隊行進曲、シューベルトはもちろんのこと、ピアノ・ラグ・ミュージック(track.1)では、シャブリエが聴こえる?イ調のセレナーデの始まり"Hymn"(track.6)では、プーランクのグローリアが聴こえる?いや、プーランクの作品が後に来るから、プーランクが引用したのか?それとも、ともに古い讃美歌でも引用していたのか?気になる... そんな感じで、ほんの一瞬であったりもするのだけれど、どこかで聴いたフレーズが、あっちから、こっちから... で、いちいち何だった?と考えていると、あっちへこっちへと、引っ張り回されるようで、まんまとストラヴィンスキーの悪戯にはまったような気分になる。何か、もの凄くもどかしいのだけれど、楽しいのかも。
そんな前半の一方で、後半は、不真面目になる前の初期の作品が並ぶ?ちょうどディアギレフとのコネクションを掴んだ頃の4つの練習曲(track.11-14)では、音楽の伝統に喧嘩を売ったとは思えないロマンティックさ、19世紀のサロンを思わせる軽やかで華やかなサウンドを響かせて、初々しいストラヴィンスキーが新鮮だったり。嬰へ短調のピアノ・ソナタ(track.16-19)では、さらに、クラっときそうなくらいに、ドイツ・ロマン主義を思わせる音楽で、聴いていて、思わずニヤケてしまう。でもって、終楽章(track.19)には、正直、面喰う。その始まりのテーマ... 何だか、小学校で歌わされたような、やさしくキャッチーなメロディに、うろたえてしまう。後に、パリで、伝説となるバレエを作り上げるなど、まだ想像もできなかったであろう、ストラヴィンスキーの学生時代の作品。音楽を学び始めた頃の、初々しさが生み出したものだろうけれど、そのあまりの青さに、それこそギャグかと... いや、青過ぎて、聴いている方が赤面しそうなくらいで... ストラヴィンスキーにも、こんな頃があったかと...
そういう青い時代も含めて、三大バレエで大ブレイクを果たした時代、アメリカに移ってからの作品(タンゴ)まで、ストラヴィンスキーの変容の歴史、それぞれの時代のスタイルを、オーケストラの大作ではなく、コンパクトに1台のピアノで聴く興味深さ... 一筋縄ではいかない作曲家の、迷走っぷり?が、すっかり視野に納まってしまって... どこか、変容し続けることで創作の推進力を得ていたところもあるストラヴィンスキーの、性としての変容を見つめ直す機会にもなったか。何より、小気味良いタッチで、程好いキッチュさを盛り込みつつ、ひとつひとつの作品のおもしろさをフルに引き出したサンジョルジョのピアノがすばらしく。不真面目を茶目っ気たっぷりに... 真面目過ぎ?若気の至り?すらポジティヴに形にしていて、なかなか器用。

STRAVINSKY: Pianio Music

ストラヴィンスキー : ピアノ・ラグ・ミュージック
ストラヴィンスキー : サーカス・ポルカ
ストラヴィンスキー : ピアノ・ソナタ
ストラヴィンスキー : セレナーデ イ調
ストラヴィンスキー : タンゴ
ストラヴィンスキー : 4つの練習曲 Op.7
ストラヴィンスキー : スケルツォ
ストラヴィンスキー : ピアノ・ソナタ 嬰へ短調

ヴィクトル・サンジョルジョ(ピアノ)

NAXOS/8.570377




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cotto

はじめまして。
このアルバムに関して検索しててたどり着きました。
魅力を豊かに言葉で表現されていて、うんうんと首を縦にふりながら読ませていただきました。
彼の演奏の表現の幅や、歌い方、リズム感などが素晴らしい。
ヴィクトルに時々レッスンをしていただいているのですが、伝えておきますね。
by cotto (2015-09-18 11:50) 

carrelage_phonique

cottoさん、はじめまして、コメント、ありがとうございます。

ストラヴィンスキーのまた違う一面を教えてくれる1枚ですよね。そしてまた、それを存分に引き出して楽しませてくれる!是非、サンジョルジュ師に、素敵なアルバムをありがとうと伝えてくださいませ。
by carrelage_phonique (2015-09-18 18:15) 

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