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アンビエント、ドビュッシー、ハープという選択。 [2008]

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ハープ... 改めて考えると、しっかりと向き合って聴くことは、あまりない。どうも、楽器の大きさに比べ、存在の薄さというのか、そんなものを、どことなしに感じていたり... が、何気に耳に入ってきたグザヴィエ・ドゥ・メストレの、ドビュッシーのアルバム(RCA RED SEAL/88697222492)に、衝撃を受ける。
どうしても、フェミニンなイメージが付き纏うハープだが、メストレの奏でる最初の音を聴いた瞬間、そうしたイメージは消え去り。魔法にでも掛かったような、そんな思いすらあって、俄然、ハープという楽器の見方が変わってしまう。その、一つ一つの音が、力強いことに驚かされ、引き締まったサウンドは、最良の意味でマッシヴ。そして、力強い指が弾き出す、繊細さというのは、余裕があって、その余裕から描き出されるドビュッシーの、印象主義の音楽は、まさに印象派の筆触のようで、光を音楽に溜め込み、やわらかに輝かせるよう。すると、ドビュッシー自体が、驚くほど新鮮...

取り上げられているのは、ベルガマスク組曲など、ドビュッシーのピアノの名作が中心だが、それらをハープで演奏すると、ピアノよりも明らかに表情がやわらぎ、色調もより淡さを感じさせ、密やかな佇まいが美しい(スーラの点描のように... )。またそこには、よりドビュッシー的な世界が広がるようで、興味深く。ピアノではなく、ハープで... という試みが、ドビュッシーの音楽を、こうも引き立たせ、匂い立たせるのかと、うれしい発見がある。また、アルカイックな気分... というのか、古代ギリシアに霊感を求めたドビュッシーだけに、メストレの演奏には、どことなく、ハープ=竪琴のイメージが見え隠れする。ステレオタイプの、フェミニンなイメージの流麗さだけではない、オルフェウス的?端正さもあって、ハープにどこか漂う儚げな印象を、巧く断ち切って、薄っすらとポップなセンスをも盛り込んでみせて。間違いなく"クラシック"ではあるのだが、ドビュッシーのサウンドにこめられた、"クラシック"の枠には納まりきらないセンスが、メストレのハープにより解き放たれ、アルカイックな気分は、アンビエントな、ニューエイジ的な感覚も見出し、"クラシック"とは別なところにある、軽さと心地良さを感じてしまう。
さて、収録されているのは、ドビュッシーのピアノ作品をアレンジしたソロだけではなく、ダムラウを迎えての歌曲、そして、ウィーン・フィルのメンバーを迎えての、神聖な舞曲と世俗的な舞曲も...
それにしても、近頃、本当によく目にするソプラノ、ディアナ・ダムラウだ。今、まさに、旬の存在... なのだろう... が、果たして、ドビュッシーの歌曲にまで、レパートリーを広げる必要があるのか?と、なんとなく疑問を持たざるを得ない。クールなメストレに対し、過剰に歌い上げるようなところのあるダムラウ。ナイーヴなドビュッシーの歌曲が、どこかリヒャルト・シュトラウスのように響いてしまう。これが、もし、サンドリーヌ・ピオーならば、フェリシティ・ロットならば... なんて、考えてしまうと、「旬」というのも、困ったもの?
一方、ウィーン・フィルのソロ・ハーピストでもあるメストレの同僚たちを迎えた、このアルバムに唯一収録された、ハープのために作曲されたオリジナル、神聖な舞曲と世俗的な舞曲では、ウィーン・フィルのメンバーが、実に味わい深く、薫り豊かなアンサンブルを聴かせてくれて、メストレの響きとよく融け合い、美しく。ここでは、メストレも、より流麗にハープを響かせ、印象主義の魅惑的な世界を生み出し、ソロとは一味違う彼のセンスを添えてくれている。

XAVIER DU MAISTRE NUIT D'ETOILES HARP MUSIC BY CLAUDE DEBUSSY

ドビュッシー : ベルガマスク組曲
ドビュッシー : 夢
ドビュッシー : ロマンティックなワルツ
ドビュッシー : 星の輝く夜 *
ドビュッシー : リラ *
ドビュッシー : 麦の花 *
ドビュッシー : 月の光 *
ドビュッシー : マンドリン *
ドビュッシー : 美しき夕べ *
ドビュッシー : まぼろし *
ドビュッシー : 2つのアラベスク
ドビュッシー : デルフォイの舞姫
ドビュッシー : 帆
ドビュッシー : 亜麻色の髪の乙女
ドビュッシー : 神聖な舞曲と世俗的な舞曲 *

グザヴィエ・ドゥ・メストレ(ハープ)
ディアナ・ダムラウ(ソプラノ) *
ウィーン・フィルのメンバーによる弦楽アンサンブル *

RCA RED SEAL/88697222492


ハープといえば、圧倒的に女性が主役の楽器... ウィーン・フィルも、最初の女性メンバーは、ハーピストだったはず。だが、そのウィーン・フィル、今では、ソロ・ハーピストに男性奏者が活躍... ハープという楽器が、ジェンダーをめぐり、極めておもしろい作用を見せていて、興味深く。また、そうしたあたりが、極めて21世紀的で、音楽上でも、より可能性の広がりを感じさせてくれる。
それにしても、グザヴィエ・ドゥ・メストレ... この人でなくては表現し得ない、力強さをともなった繊細さがあって、ハープに新たな可能性を期待せずにはいられない。




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