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フルート王子、21世紀白書。 [2008]

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2006年8月13日、ルツェルン音楽祭にて、ハーディング指揮、マーラー室内管によって... 2006年10月5日、ベルリンにて、ジンマン指揮、ベルリン・フィルによって... 2007年3月21日、ジュネーブにて、ホリガー指揮、スイス・ロマンド管によって... 初演された、3つの、フルートのためのコンチェルト。その3つのコンチェルトを集めたアルバム(EMI/5 01226 2)... となると、それは、とんでもなくフレッシュなアルバム?初演から、2年と経過していない(2008年5月現在)作品だけで、1枚のアルバムを成してしまうとは!カテゴリーや、ある種のイメージとしての「現代音楽」というだけではない、まさに、"現代"音楽。我々が呼吸している、世界の、今の、空気感を孕んで生まれた作品を、CDで聴くことに、軽い興奮を覚えてしまう。

さて、その3つのコンチェルト... ヨーロッパの注目すべき作曲家たち、マルク・アンドレ・ダルバヴィ(b.1961)、ミシェル・ジャレル(b.1958)、マティアス・ピンチャー(b.1971)による作品。そして、この三人の作曲家に霊感を与えたのが、3つのコンチェルト、全ての初演者で、ベルリン・フィルの"首"席フルート奏者、まさにフルート界のフルート王子、エマニュエル・パユ(b.1970)。こうした存在が、現代のコンチェルトに挑み(ダルバヴィ作品は、パユが委嘱者!)、初演まもなくひとつのアルバムにまとめてくるとは!まったく大胆なことをしてくれる。
さて、その一曲目、ダルバヴィ(2006年10月5日、初演)。フルートのパルスが心地良く、それが、時にスリングでもあって、クール。また、"ゲンダイオンガク"というイメージに纏わり付く、独特のストイックさとは一線を画す響きが瑞々しく。程よくダイナミズムもあって、聴き応えは十分。そこに、"クラシック"的な重厚感とは別の感覚もあり、捉われることのないサウンドは、とても魅力的。現代音楽にして、「現代っ子」感覚を感じさせるサウンド?二曲目、ジャレル(2007年3月21日、初演)では、そんなダルバヴィの流れを、上手く受け流して、どこか不安感を煽るようなフルートのパルス、焦燥感に駆られたようなオーケストラの動きが印象的。が、やがて、密やかに、囁くように(けど、超絶!でもあって... )吹かれるフルートが謎めいて、次第次第に枯れていくような。沈黙の時、"...un temps de silence..."というタイトルの通り、やがて静かな世界へ... 三曲目、ピンチャー(2006年8月13日、初演)では、そんな静かな世界を、手探りで前へ進むような感覚があり、特殊奏法もあって、独特の雰囲気に包まれる。フルートという楽器が醸す、極めて西洋的というのか、典雅にして流麗なイメージを、ピンチャーは、大胆に脱皮せさ、訥々としたサウンド・スケープを描き出す。これが、実に不思議な情景で、どこか奇怪でもあり、ユーモラスでもあり、"音楽"とはまた少し違う引力を感じながら、ついつい引き込まれてしまう。
のだが... 最も興味深いのは、ダルバヴィ、ジャレル、ピンチャーと、実に上手く導かれていくような感覚があること。エンターテイメント性も聴かせるダルバヴィで、入口は広めに取りつつ、次第次第に、響き、そして音へと、焦点は絞られていき、知らず知らずの内に、すーっと、ディープな世界へと降り立つような。そこには、パユによる、巧みな誘導があるようで。聴きようによっては、アルバム自体が、3楽章構成のひとつの協奏曲のようにも思えてしまいそう。ダルバヴィ、ジャレル、ピンチャーという構成、ただならぬものを感じつつ、まとめ上げたパユに、感服。そして、彼の演奏だ。
驚くべきテクニック!素人耳にも、とてつもない... と、強烈に響く。
もはや、「王子」という年頃でもなく?無精髭で、無理してそうな、ふてぶてしい表情を見せるジャケットが、なかなかおもしろいのだが... そこには、"ゲンダイオンガク"で尖がって見せて、アンファン・テリブルぶりをアピールしているような、そんな印象も受ける。しかし、彼の演奏は、けして悪童に成り下がらない。全ての音が、磨き抜かれて発せられていることに驚かされる。どんな特殊奏法であっても、洗練を以って仕上げてくるあたりに、彼の美意識と、恐るべき技術を思い知らされ。作曲家たちの、容赦のないハイレベルを求めるスコアを、さらにハイレベルな場所から見つめ、取り込み、息を吹き込んでいく姿は、痛快ですらあって、クール!そういう、他ではなかなか望めない、圧倒的な場所から取り組まれるからこそ、発せられる、真新しい作品の魅力が、このアルバムには充満している。

DALBAVIE ・ JARRELL ・ PINTSCHER: FLUTE CONCERTOS PAHUD

マルク・アンドレ・ダルバヴィ : フルート協奏曲 *
ミシェル・ジャレル : ...un temps de silence... フルートのための協奏曲 *
マティアス・ピンチャー : トランジール 〔フルートと室内管弦楽のための〕 *

エマニュエル・パユ(フルート)
指揮 : ペーテル・エトヴェシュ */パスカル・ロフェ */マティアス・ピンチャー *
フランス放送フィルハーモニー管弦楽団

EMI/5 01226 2


さて、3つのコンチェルト、その初演された日付を見ると...
ピンチャーの一ヶ月半後にダルバヴィ、ダルバヴィの五ヵ月半後にジャレル... である。
パユの、このペースにも、驚かされる。




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