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メメント・モリ。の先に... [2008]

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ルネサンスのポリフォニーと、現代の作品を並べる。近頃の流行り?まさに"21世紀"的なアルバム...
ドイツのアカペラ・アンサンブル、ジンガー・プアの最新盤、"MEMENTO"(OEHMS CLASSICS/OC 812)は、フランドルの作曲家、ジョルジュ・ドゥ・ラ・エル(1547-86)のミサの世界初録音を中心に、そこに、リーム(b.1952)、ペルト(b.1935)の作品を挿み込み、ルネサンス・ポリフォニー、集大成的存在、オルランド・ディ・ラッソ(1532-94)で締めくくるという凝った構成。さらに、アルバム全体を、「メメント」というテーマでまとめあげる周到さ。こうしたコンセプチュアルなスタイルは、ジンガー・プアならでは。さすが。で、さらに、よくよく見てみれば、調性が生まれる前(ルネサンス・ポリフォニー)と、調性の崩壊を経験した後(現代)の音楽。という、仕掛けもあり。これだけの要素を、よく盛り込んだと、驚かされもする。

そんな、精巧に作られた、声のみによる音の玉手箱。開いてみれば... どことなく、均質な世界が広がっている。時間と距離を、大きく隔てる四人の作曲家による音楽だが、アカペラというフォーマットもあってか、驚くほどスムーズにつなげられて、完全にその境界はぼやけ、足をすくわれるような感覚すらある。調性という壁を取っ払って、ニュートラルにそれら一つ一つの作品を聴けば、ルネサンスに現代的な感覚を見出し、現代にはより古い感覚を感じ取り、実に興味深い。が、一方で、リームは、やはりリームだし、ペルトは、やはりペルトでもあり。そんな差異が、魅力にもなり。
ネオ・ロマンティシズム?(と、安易に説明できない存在でもあるわけだが... )リームの、アカペラ作品の、ムーディーなテイストは、ルネンサンスには明らかに無いテイスト。調性の崩壊を経験した... とはいえ、古いスタイルを完全に捨ててはいないリームの姿勢が、ルネサンスを前にすると、より際立ち、ルネサンスには感じられない、ネオ・ロマンティックな甘さが漂う。声は、滑らかに融け合い、ビターなのだけれど、淡く甘さが広がり、ジャズのアカペラ・コーラスを聴くような感覚もあって、クール。また、その後に響く、ドゥ・ラ・エルのミサには、教会の、大理石の冷えた感じが漂い、リームよりも温度感が下がったようで、甘さの漂うリームの後では、わずかにとんがったものも感じ、興味深く。一方、癒し?のペルトには、温かみがあるか?などと、勝手に期待してみたら、さらに冷たいものがあって、驚かされ... アルバムのタイトルにもなっている「メメント」の、強い悲しみが、ルネサンスよりも古いトーン(ペルトならでは... )で、研ぎ澄まされていく。ポリフォニーとはまた別の、シンプルさの、恐るべき力強さというのか、アルバムのタイトルになっているだけに、アカペラによる均質な世界の中にあって、インパクトは大きい。

それにしても、メメント=形見。とにかく、沈痛...
アルバムの最初から最後まで、悲しみが折り重なっているようで、重い。そういう気分に浸りたいならともかく、そういう気分でない時に聴くには、少し、抵抗がある。ジンガー・プアの、またさらに磨かれた美しいアンサンブルが、より“メメント”の情感を深くしていて。興味深いのは、そのクリアなアンサンブルが、プア(=ピュア)であるはずの透明な世界に、闇すら引き込みかねないようで。たった六人の声でありながら、ジンガー・プアが生み出す静かなる迫力は、人間のスケール感を越えて、まるで、ブラック・ホールのようでもあり。彼らを、ここまで“メメント”に駆り立てるものは、何なのだろうか?不思議にも思えてくる。
が、その重いものを、乗り越えたところに聴こえてくるものもあり、この音の玉手箱、単に精巧なだけではない、深遠が垣間見えそうで、恐くもある。謎めくイメージを映すジャケットが、また象徴的で。

MEMENTO Vocal Music by Rihm Pärt Lassus & de La Hèle ・ Singer Pur

ジョルジュ・ドゥ・ラ・エル : ミサ 「わが魂よ、何ゆえに悲しみたるか」
ヴォルフガング・リーム : 「わが眼は曇り果てたり」
ヴォルフガング・リーム : 「我らが牧者は隠れ給いぬ」
ヴォルフガング・リーム : 「私はその中に数えられる」
アルヴォ・ペルト : メメント
オルランド・ディ・ラッソ : モテット 「わが魂よ、何ゆえに悲しみたるか」

ジンガー・プア

OEHMS CLASSICS/OC 812




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