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ラッヘンマン―シューベルト―ラッヘンマン 夢と猟奇。まさに、幻想... [2008]

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前作、シューマンのクライスレリアーナと、ラヴェルの鏡(OEHMS CLASSICS/OC 541)を弾き、颯爽とOEHMSデビューを飾ったヘルベルト・シュフ。最新盤では、シューベルトのソナタを2つ、18番、「幻想」と、4番を取り上げて... だが、シューベルトだけでは終わらない... 特殊奏法の大家、現代音楽界に、まさしく"ゲンダイオンガク"なサウンドで、大きな存在感を示すラッヘンマンの作品が、シューベルトと並んでしまうという、大いに驚かせてくれて、興味もかきたてられる一枚(OEHMS CLASSICS/OC 593)。ショパンにモンポウを組み合わせたタロー(harmonia mundi FRANCE/HMC 901982)しかり、今や、ただシューベルト... というようなことは、かえって珍しい?のだろうか。

さて、一曲目、ラッヘンマン(b.1935)。にしては、こういう作品もあったのか?というほど、抵抗無く聴けてしまうシューベルトの主題による変奏曲。リストのような煌びやかさも聴こえ、どこかラヴェルのようなゴージャスな響きもあり、わずかにガーシュウィンの臭いもし、多少抵抗感を持ってイメージするラッヘンマンのサウンドからすると、あまりに意外で、驚いてみたり。それは、シューベルトの主題を用い、変奏しながら、シューベルト以後のピアノ作品のコラージュにも聴こえて、なかなかおもしろい。が、次第に、音楽自体が解体され... 音片になり... 消えていく... 特殊奏法とまではいかなくとも、ラッヘンマンの片鱗は、きちんとある。そうして、解体された後に、どことなく霧のようになって再び姿を現わすシューベルトの、なんと美しいこと!ただ、シューベルトだけを聴いたのでは味わえない感動が、ラッヘンマンの後、18番のソナタの冒頭に、すでにあり、極めて印象的。シュフの、このアルバムに仕掛けたものは、最初から、凄い。
そして、そのシュフによるシューベルトは... ひとつひとつの音が、クリアな輝きを放ち、その輝きの加減がすばらしく、とにかく美しい!ロマン派の、歌謡性をふんだんに含んだ音楽も、この輝きを以ってすれば、穏やかに詩的で、安易にロマンティックな気分、起伏に流されたりせず、ピュアな感覚がとめどなく湧き上がる。18番のソナタでは、「幻想」というタイトルそのままに、どこか、この世のものではないような情景が広がり、美しい世界に迷い込んでしまったような、不思議な幸福感が漂う。もうひとつのソナタ、4番では、無邪気で、天真爛漫で、シュフの冴えが、よりそうした気分を際立たせ、浮世離れした空気感が、印象的。陰りや曇りはすっかり払われて、全てがクリアに見通されると、作品としてのまとまりが緩むようで、光に包まれながら、どこか解体されていくような感覚もあり、おもしろい。のだが。シューベルトの4番のソナタの後、ラッヘンマンならではの特殊奏法が鳴り出す...
ラッヘンマンの代表作のひとつとされる「グエロ」(一切、打鍵せずに、ピアノから音を出す... 並んだ鍵盤を爪で撫ぜ、直接、ピアノ線に触れ、弾き、ボディも叩く!)。それまでが、まさに夢であったことを思い知らされるような音に、ドキっとさせられる。その、恐るべきギャップ。ロマン派の音楽からすると、とても音楽などと呼べた代物ではない... が、まったく違うベクトルでもって、音楽たらしめ、圧倒的な存在感を示し、屹然とシューベルトと対峙してくるから、凄い。さらに、鍵盤の上を軽やかに指が舞うのではない、どこか解剖的とも言える、まさに"特殊"な行為を、美しい夢を奏でたピアノに施す残酷さというのか、この猟奇的な様に、ただならぬ迫力があって、このシュールな感覚、かなりクール。シューベルト、そしてラッヘンマンと、ともに音楽として、冷徹に処理し、まったく違うものを創り出すシュフの姿勢にも、鬼気迫るものがあり。あれだけの夢を見させておいて、こうも残酷に、全てを無に帰すとは... 天使の残酷さというのか、シュフという、ただならぬ逸材があってこそ可能な演奏、アルバムなのかもしれない。前作では見えなかった、このピアニストの、ただならなさを、思い知らされる。いや、凄い。

Franz Schubert: Piano Sonatas D 537 & D 894
Helmut Lachenmann: Schubert-Variationen ・ Guero


ラッヘンマン : シューベルトの主題による5つの変奏曲
シューベルト : ピアノ・ソナタ第18番ト長調 D.894 「幻想」
シューベルト : ピアノ・ソナタ第4番イ短調 D.537
ラッヘンマン : グエロ 〔独奏ピアノのための〕

ヘルベルト・シュフ(ピアノ)

OEHMS CLASSICS/OC 593




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