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1791年、ウィーン... [2008]

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2006年、生誕250年のメモリアルにリリースされた、モーツァルト、波乱の1778年、パリにて... を、綴る、"CONCERTANTE"(harmonia mundi FRANCE/HMC 901897)。天才の悪戦苦闘ぶりを、印象的にすくい上げたフライブルク・バロック管弦楽団... 彼らが、1778年に続いて、モーツァルト、最期の年、1791年、ウィーン... に、フォーカスを合わせる最新盤。1778年から13年を経ての、1791年。今度は、モーツァルトのどんな心象が浮かび上がるのだろう?と、期待せずにいられないのだけれど...
ということで、アンドレアス・シュタイアーのフォルテピアノによる、27番のピアノ協奏曲と、ロレンツォ・コッポラのクラリネットによる、クラリネット協奏曲... ピリオド界を代表するマエストロを招いての、モーツァルトの人生最後のコンチェルトを収めた、フライブルク・バロック管弦楽団のアルバム、"The Last Concertos"(harmonia mundi FRANCE/HMC 901980)を聴く。

まず、戸惑った... 1曲目、27番のピアノ協奏曲(track.1-3)。モーツァルトの時代の演奏習慣を再現したという、ピアノ・ソロの伴奏を弦楽四重奏が担うというスタイル。ピアノ五重奏と、オーケストラが交替しながら、ひとつのコンチェルトを奏でるという、音の規模が大きくなったり、小さくなったり、これまでのモーツァルト(ピリオドも含めて... )に慣れ切っていると、そのチャレンジングな再現に戸惑う。麗しいモーツァルトの音楽の流れを止めてしまうようで、戸惑う。もちろん、"モーツァルトの時代の演奏習慣"は、極めて興味深いのだけれど、やっぱり戸惑いの方が大きい... なんて、頭がグルグルしながら聴き進めた"The Last Concertos"。そのグルグルも、一巡りしてしまうと、慣れてしまうのか?印象はまた、違って来る?
ピリオドであっても、どこかでモダンの伝統に引き摺られる部分もある... 場合によっては、オーセンティック過ぎると嫌われる節もある... そのあたりのさじ加減、何とも、もどかしくもあるのだけれど、シュタイアー、フライブルク・バロック管は、恐れることなく、オーセンティックな方向へと踏み込む。そもそも、モーツァルトの時代のピアノに、オーケストラを向こうに回すほどのパワーは無かった... ならば、ピアノ・ソロの伴奏を弦楽四重奏が担うというスタイルは、道理に適っているわけで。モダンのピアノ、モダンのオーケストラが作り上げた、モーツァルトのピアノ協奏曲像というものを、一度、捨て去ってみて、改めて、シュタイアー、フライブルク・バロック管の演奏を見つめてみると、今まで見出し得なかったものがいろいろ見えて来る。何より、目に入って来るのが、ピアノ・ソロの繊細さ!オーケストラに呑み込まれる危険を排して、あるがままにフォルテピアノを響かせるシュタイアー。そのタッチは、とにかく繊細で、音符のひとつひとつを、まるで慈しむように奏でる。そんなシュタイアーに対し、フライブルク・バロック管のメンバーも、繊細なサウンドで応え... 美しい2楽章、ラルゲット(track.2)では、ピアノ五重奏という小さな規模が、より親密な空気感を生み出していて、シュタイアーとフライブルク・バロック管のメンバーのやり取りが絶妙... すると、センチメンタルは深まり、モーツァルトならではの緩叙楽章の魅力を、より際立たせる。
聴く側のフォーカスが、演奏者のフォーカスに重なり始めると、まったく違うものが見え始める、"The Last Concertos"。それは、それまで何となく捉えていた像が、ハイ・ヴィジョンになったような、そんな感覚だろうか?そして、そのハイ・ヴィジョンで捉えられたモーツァルトの姿には、いちいち言葉にはならない、小さな感情の起伏が無数に点在していて... その一筋縄ではいかない、無数の感情が、聴く者の心にどっと流れ込むような、ちょっと不思議な体験をもたらしてくれる。そうして感じる、モーツァルト、最期の年、1791年の心象... 生きながらも、すでにこの世を懐かしむような表情を見せて、切なくなる。ああ、そうか、ラスト・コンチェルトなのだなと、心がじんわりとしてしまう。で、モーツァルトという存在を、今までになく愛おしく感じてしまう。
一方、2曲目、クラリネット協奏曲(track.4-6)... コッポラの吹くクラリネット・ダモーレの、やわらかくも雄弁な音色は、聴き惚れてしまう。が、シュタイアーによるハイ・ヴィジョンを体験してしまうと、少し色褪せて感じてしまう?あの2楽章(track.5)の名旋律など、その美しさに息を呑むばかりだけれど、27番のピアノ協奏曲での体験の後では、いつものモーツァルトのイメージを越えることは無いのかも。この前半と後半の、微妙な温度差が、"The Last Concertos"のキレを弱めてしまっているのが残念。ピアノと、クラリネット、それぞれ別のアルバムとしてリリースされていたならば、また違ったはず...

W.A. MOZART The Last Concertos FREIBURGER BAROCKORCHESTER

モーツァルト : ピアノ協奏曲 第27番 変ロ長調 K.595 *
モーツァルト : クラリネット協奏曲 イ長調 K.622 *

アンドレアス・シュタイアー(フォルテピアノ) *
ロレンツォ・コッポラ(クラリネット・ダモーレ) *
ゴットフリード・フォン・デア・ゴルツ/フライブルク・バロック管弦楽団

harmonia mundi FRANCE/HMC 901980




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