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無為自然... タローの歩む、道。 [2008]

少し前の"intoxicate"(タワーレコードが発行するフリーマガジン... )、アレクサンドル・タローの記事を読む。で、そこに綴られていた、ピアニスト、タローの姿に驚かされた。
ひとつひとつの作品への、深い、深い、深い読み込み... そうしたひとつひとつを丁寧に編んで作り込まれたプログラムとの、ストーキング(?)にすら思える付き合い方... ぼんやりと思い描くことのできる、ピアニストのイメージとは次元の違うタローの実態に、ちょっと、尋常ならざるものを感じた。記事では、それを、「職人肌」と紹介する。が、書かれているあたりを想像するに、"職人"というより、"行者"のような姿が思い浮かぶ。
「今時」の、そのナチュラルな佇まいの、厳しいところなど微塵もない、タローの姿には、巨匠と呼ばれるピアニストの雰囲気は、まったく無い。例えば、ラヴェルのピアノ作品全集(harmonia mundi FRANCE/HMC 901811)のジャケットにある、彼のポートレートは、あまりに何気なさ過ぎて(逆に、秀逸なポートレート!)、そのクラシック離れした雰囲気に、驚かされた。しかし、タローの音楽は、尋常ならざるアプローチから生み出されている。「今時」でさり気なく包まれていても、どんな巨匠にも負けない、独自の道を貫いて、密やかに、圧倒的な音楽世界を生み出している。そんなタローの実態を知り、改めて彼の音楽を聴くと、その行者のような在り様に、納得させられる。だからこその音楽が、そこにあるのだなと、深く感心させられる。
HMC901982.jpg
さて、アレクサンドル・タローの最新盤は... 前作のクープラン(harmonia mundi FRANCE/HMC 901956)から時代を飛び越えて、ショパンとモンポウという組み合わせ(harmonia mundi/HMC 901982)。
クープランからショパンへ... この飛躍が、タローらしく。そして、一枚のアルバムに、ショパンからモンポウへ... という彼ならではの、考え抜かれているであろうプログラムが、興味を引く。もちろん、そこには、はっきりと、ショパンにクープランからつながるものが聴こえ、ショパン(1810-49)とモンポウ(1893-1987)を並べることで、聴こえてくるものがあって、凄い。モンポウの前奏曲(track,29)の後に、ショパンの前奏曲(track,30)が響くと、その甘さが、匂い立つようで。また、実に質の良い甘さで、心地良く酔えるのが、いい。そして、モンポウのサウンドも、ショパンとよく融け合い、融け合うことで、時代を隔てる2人の作曲家を、一緒に違う次元へとジャンプさせてしまうのが、おもしろい。
ショパンとモンポウ、普段ならば、並ぶことなどないだろう作曲家が、互いに互いの媒介となって、それぞれが持つイメージは共鳴し出し、増幅され、不思議... これまでの、ぼんやりと持ち合わせていた感覚とは、明らかに違う感覚で、この2人の作曲家を聴いてしまう。もちろん、そこには、行者のようなタローの、鋭い視点があるのだろうが、流れ出す音楽は、あまりにナチュラルで、構えることなく、すーっと、聴く者の身体へ染み込んでいく...
深く読み込み、読み解いて、読み解いて、読み解いた先にある音楽は、例えば、ショパンならば、ショパンというイメージから切り離された音のようであり。また、切り離されて初めて薫るショパンの音楽。というのか、他のピアニストとは、何かが違う。クープランもそうだったが、タローを前にすれば、それが、バロックである必要はまったくなく、ただ音楽として存在している。消し去ることなどできない、既存の"クラシック"という重力から解き放って、ただ音楽そのものを、中空に舞い上げ、浮遊させ、その形を、その形のみを、明らかにしていくような... 作品と徹底的に向き合ったからこその、作品そのものへの信頼感?ピアニストという自身のアーティスト性に頼ることなく、ただ作品だけを見つめ、音楽を形作っていくあたりが、まったくおもしろい。そして、彼の理想、自身(ピアニスト)は"媒体"でありたい... と願うあたりに、ただただ頷かされる。
そんな、ショパンにしてモンポウだった。彼の、ストイックな求道が拓く世界がそこにあって、権威にすがるような、「クラシック」という裏書無しに存在し得るサウンドが、瑞々しく。その清々しさたるや、"クラシック"という狭い枠組みから、するりと抜け出して、超然としているよう。

CHOPIN préludes ALEXANDRE THARAUD

ショパン : 前奏曲集 Op.28
モンポウ : 『ひそやかな音楽』 第2巻 第15番 〔ショパンの前奏曲 第4番 による〕
ショパン : 3つの新しいエチュード
モンポウ : 前奏曲 第9番
ショパン : 前奏曲 嬰ハ短調 Op.45
ショパン : 小前奏曲 変イ長調 〔遺作〕
モンポウ : 『風景』 より 「湖」

アレクサンドル・タロー(ピアノ)

harmonia mundi/HMC 901982


http://www.alexandretharaud.com/
彼のサイトも、"行者"っぽさが滲み出る?いや、実にセンスの良いデザイン!音楽に限らず... なのかもしれないが、この人のこだわりは、独特なナチュラルさや、軽さ、何気なさを生むようで、まったく興味深い。




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