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"The Bach Dynasty" [2008]

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"The Bach Dynasty"(Ambroisie/AM 125)である。凄いタイトル...
だが、その頃は、ダイナスティな音楽一家が、あちらこちらのダイナスティに仕え、活躍し... クープラン家や、フィリドール家、シュターミツ家、といったあたりならば、時折、耳にする。が、忘れてならないのが、音楽史上、最も輝く"The Bach Dynasty"、バッハ朝だ。そんな、バッハ朝の音楽(ヨハン・セヴァスティアン/ヴィルヘルム・フリーデマン/カール・フィリップ・エマヌエル)、それぞれのコンチェルトを、ルセ率いるレ・タラン・リリクが一枚のアルバムに。

大バッハ、ヨハン・セヴァスティアンから踏み出して、バッハ朝という括りを聴かせるあたり、まさに21世紀的。次男、カール・フィリップ・エマヌエルや、末息子、ヨハン・クリスティアンの作品が、けして珍しいものではなくなりつつあり、長男、ヴィルヘルム・フリーデマンにも注目が集まり出している近頃... 彼らのご先祖やら、親戚筋まで取り上げられることもチラホラある。そうしたクラシック・シーンの流れ(極東の小さな島国では、そういう流れ、まったく関係ないのだが... )でのバッハ朝のアルバムは、18世紀の音楽に、より広い視野を持って取り組む、ルセ+レ・タラン・リリクならではのもの。そこに見えてくるのは、バッハ朝のカラー、というか同じ食卓(ジャケットにあるような?)を囲んだであろう、ファミリーが醸すトーンと、そこから、新しい世代の新しい感性への広がりをも捉え、一つの家族の音楽に、18世紀という時代のうつろいが映って、実に興味深く...
ヨハン・セヴァスティアン(1685-1750)の直後に聴く、次男、カール・フィリップ・エマヌエル(1714-88)のサウンドの華やかさは、より際立ち、バロックからギャラントな時代へのうつろいを、印象付けて。また、彼の交響曲(このアルバム、唯一の交響曲... "コンチェルトから交響曲へ"という、18世紀の音楽のうつろいを象徴するかのような、交響曲のチョイスも、また興味深く... )では、多感主義ならではの、ジェット・コースター的展開で、この作曲家の魅力が溢れる。一方で、クラシシズムの、端正で引き締まった感覚が、すでに表れていて。最後、長男、ヴィルヘルム・フリーデマン(1710-84)のフルートのコンチェルトでは、2楽章(track.10)のやわらかでセンチメンタルな表情は、まさしくモーツァルトの時代のトーン。あまりに先を行き過ぎた... とも言われるヴィルヘルム・フリーデマンならではの魅力か。
ここで、再び、トラックの最初に戻し、彼らの父親のサウンドを改めて聴いてみることに...
すると、ヨハン・セヴアスティアンのバロック性が、より際立ち、息子たち世代とのギャップに、ギョっとさせられてもみたり... これが、おもしろい... バッハ朝という括りだからこその、このアルバムの楽しみ。そんな、息子たちの後に聴く、父親のチェンバロのコンチェルトは、心なしか発色が良いような気もして... バロック独特の鮮烈さのようなものが、より迫力を増し、古風な中に、ゾクっとさせられる艶っぽさが漂うよう。もちろん、ルセの独奏もすばらしく... この人の腕にかかれば、作品が、活き活きと呼吸し始め... 体温や、体臭すら発しそうな、そんな生々しさを生み出すあたりが、ルセの凄さ。バッハのチェンバロのコンチェルトが持つ、独特の冷たさのようなものは消え、ドラマティックで、時に、ロマンティックですら感じられるあたりが、とても印象的。
そして、ルセばかりではなく... カール・フィリップ・エマヌエルの、チェロのコンチェルトのソリスト、酒井淳(その名前、様々なピリオド・アンサンブルにクレジットされて、大活躍!期待の日本発次世代型ピリオド系チェリスト... )もすばらしく。流麗で、やわらかで、なにより若々しい演奏。バロックの重さを脱しつつあるカール・フィリップ・エマヌエルの作品を、爽やかに聴かせてくれる。ヴィルヘルム・フリーデマンのフルートのコンチェルトで、やさしく、ふわっと美しい音を聴かせてくれるジョスラン・ドービニーのフルートも印象的。ヴィルヘルム・フリーデマンの持つ、センチメンタルで、ナイーヴな表情を巧みに捉え、18世紀も半ばを過ぎた、ロココの、曲線とハーフトーンのやわらかな時代を楽しませてくれる。 一方で、レ・タラン・リリクの演奏は力強く... 録音良好で、ガツンガツン迫る低音。全体に、極めてフレッシュで、軽快なのだが、下支えがしっかりとしたアンサンブルが繰り出すサウンドのカッコ良さは、時に鮮烈で、大きな魅力に。

さて、よくよく振り返ると、大バッハと、その他の一族が一緒に収録される... というケースは珍しいのかもしれない。やはり、大バッハというのは、クラシックというジャンルにおいて、あまりに大き過ぎる存在。並べた作品が霞んでしまうというリスクもあるのかも?が、それらを乗り越えてしまうルセ+レ・タラン・リリク。父親の仕事と、その血を受け継いだ息子たちの仕事を、一つのディスクに、丁寧に盛り付けて、バッハ朝としてのカラーと、18世紀音楽の変遷を聴かせてしまうバランス感覚は、冴えている!

The Bach Dynasty Les Talens Lyriques

ヨハン・セヴァスティアン・バッハ : チェンバロ協奏曲 第5番 ニ短調 BWV.1059
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ : チェロ協奏曲 イ長調 Wq.172 *
カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ : 交響曲 ハ長調 Wq.182-3
ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハ : フルート協奏曲 ニ長調 BR WFB C 15 *

酒井 淳(チェロ) *
ジョスラン・ドービニー(フルート) *
クリストフ・ルセ(チェンバロ)/レ・タラン・リリク

Ambroisie/AM 125




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