SSブログ

ワールド... ワールドワイド... レクイエム... [2008]

CHSA5058.jpg2008vo.gif
1010.gif
ワーナーが、サカリ・オラモ率いるバーミンガム市響の演奏で、フォウルズを録音。これまで、2つのアルバム(vol.1 : 2564 61525-2/vol.2 : 2564 62999-2)をリリース... そんなあたりから、新たに知ったイギリス近代の異才。独特なセンス、魅力的なサウンドに、色めき立ってしまったのだが、なかなか次がリリースされることはなく... メジャー・レーベル(今じゃ、メジャー/マイナーの枠組み自体、意味を持たないのだけれど... )からのリリース、話題を呼んだ2つのアルバムだっただけに、これが呼び水となって、ブーム?を期待してみたものの... なかなか、難しいのかなと。そうして、しばらくしているところに、シャンドスから『ワールド・レクイエム』(CHANDOS/CHSA 5058)がリリースされ、再び色めき立ってしまう!

ジョン・フォウルズ(1880-1939)という作曲家を調べると、必ず登場するのが、彼の最も重要な作品の一つとされる『ワールド・レクイエム』(作曲 : 1918-21/初演 : 1923)。第一次世界大戦(1914-18)の犠牲を悼んでの作品... 当時、幅広い聴衆に支持され、初演から4年に渡って、毎年、ロイアル・アルバート・ホールで演奏されたとのこと... また、極めて規模の大きい作品で、少年合唱を含む、もの凄い数のコーラスとオーケストラは、1200人から成り、4人の独唱者、さらにはオルガンも鳴り響き、プロムスで知られる、あの大きなロイヤル・アルバート・ホールをフルに活用しての大演奏会だったよう... けど、今となっては聴くことができない... そのもどかしさが、とうとう晴らされた。ボットスタイン指揮、BBC響、4人のソリスト、4つの合唱団による世界初録音である。
時に、シマノフスキ(1882-1937)のような鮮烈な色彩感と、フォーレ(1845-1927)のレクイエムにも似た穏やかな雰囲気が、やわらかに混ざり合い、ディーリアス(1862-1934)なども活動していたであろう頃のサウンドというのか、我々の知る教科書的な音楽史とは、興味深い距離感を保った音楽世界が、『ワールド・レクイエム』には広がっている。
"レクイエム"ではあるが、歌われるテキストはラテン語の典礼文ではなく、英語によるもので、そこに聖書の引用や、バニヤン(1628-88)の『天路歴程』からの引用、さらにはインドのカビール(ムスリムの生まれで、15世紀から16世紀初頭にかけて生きた、イスラム、ヒンドゥーという宗教の枠組みを越えて、汎神論的な立場をとった思想家)の詩、フォウルズにインドの魅力を伝えた妻、モード・マッカーシーの詩なども含まれ(これらのテキストを集めたのも、彼女であり... )、キリスト教という価値観、限られた枠組みから超越し、より"ワールド"なものが一つに綴られている。また、そうした感覚が、フォウルズならではのサウンドに、実にしっくりくる。
静かに盛り上がり、雄大なドラマを聴かせるようで、天国的ですらあり、なんとも懐の大きな音楽が続く... それは、ベルリオーズや、ヴェルディが、そのレクイエムで、ロマンティックに、ダイナミックに描いて見せた黙示録的世界観、生と死の激烈なコントラストのようなものとは対照的で、なかなかおもしろく。また、鎮魂ミサとしての沈鬱な雰囲気も控え目で、肉体から離れた魂が彷徨い、漂うような、そんな浮遊感が印象的。やがて、それは神なのか?圧倒的なる光に、やさしく包まれるようであり... 取り込まれるようでもあり... この大作を聴いていると、どこか、スピリチュアル・ワールドを旅するような... そうしたものを喚起させる、より感覚的なサウンドが全体を包み、クラシックのアカデミックな気分とはどこか違う、"ニュー・エイジ"なテイストすら感じてしまう。何より、期待に違わない、フォウルズならではの独特の風合... イギリス近代音楽がどことなく漂わすポップ感を、濃縮還元したような、彼ならではのセンスが、この作品からもしっかりと感じられ、輝いている。
そして、その輝きを再現した演奏は... 研究者にして、発掘者ですらある?指揮者、ボットスタインの、世界初録音への意気込みが溢れる鮮烈なもの。オーケストラ、コーラス陣、4人のソリスト、それぞれに大健闘。シャルボネのソプラノには、そのヴィヴラートに、乗り物酔いしそうでもあったが、聴くことのできなかった、フォウルズの代表作の一つを、実際の音とし、何より巨大な作品を一つにまとめ、独特なフォウルズ・サウンドを、極めて大きなスケールで鳴り響かせた彼らのチャレンジは、すばらしい仕上がりを聴かせてくれる。何より、忘れ去られた... という作品のブランクを、まったく感じさせない瑞々しさをもって、世界初録音を成し遂げられたこと、歓迎せずにはいられない。そうして、フォウルズ・ルネサンスは、続いてほしいのだが...

LEON BOTSTEIN conducts Foulds A WORLD REQUIEM

フォウルズ : ワールド・レクイエム Op.60

ジャンヌ・ミシェル・シャルボネ(ソプラノ)
キャサリン・ウィン=ロジャース(メッゾ・ソプラノ)
スチュアート・スケルトン(テノール)
ジェラルド・フィンリー(バリトン)
トリニティ少年合唱団
チャーチ・エンド祝祭合唱団/フィルハーモニア合唱団/BBC交響楽団合唱団
レオン・ボットスタイン/BBC交響楽団

CHANDOS/CHSA 5058


フォウルズ・サウンド、それは、同時代のモード(フォーブなロシア・アヴァンギャルド、お洒落な擬古典主義、煮詰まり発酵すら始めたロマン主義、その先で、音楽そのものが瓦解し始めた新ウィーン学派... )とは、明らかに違う場所にあるサウンド。ある種、時代遅れだったのかもしれない。が、そうして生み出されたワールドな、真の意味でワールドワイドなレクイエムは、安易な"クラシック"というイメージには納まらず、実に鮮やかで、実に瑞々しい。スタイルはともかく、そこに充ちている気分のようなものは、実は現代的ですらあり、21世紀、世界情勢が抱える問題にもメッセージを投げかけているよう。そして、こういうサウンドが、当時、広く聴衆に受け入れられていたのかと思うと、なかなか興味深く。




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

Opening Doors, Open .."The Bach Dynasty" ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。