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フレンチ・タッチ、イタリア・オペラ、シフト・チェンジの行方... [2008]

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デセイが、とうとうイタリア・オペラへ進出中!
ナタリー・デセイ、フランスを代表するプリマであり、世界的な人気を集めるコロラトゥーラ・ソプラノ... だが、彼女のレパートリーは、その人気に反して、どちらかと言えば、不人気なレパートリーを主軸にして来た。まず、フランス語のオペラ(『ルチア... 』ですら、フランス語版の『リュシー... 』を歌っていたり... )。そして、ピリオドでの大活躍(もちろん、これらを「不人気」と言ってしまうのは、随分と乱暴な言い方なのだけれど... )。ある意味、「プリマドンナ」という言葉を見事に裏切り続けて来た。しかしながら、オペラにおけるステレオタイプを向こうに回して、その時期、その時期、自身に最もフィットするレパートリーを丁寧に選んできた彼女の姿は、プリマの本来あるべき姿だとも思う。そんなナタリーが、とうとうオペラの本流、イタリア・オペラへと踏み込む。
ナタリーの盟友、エヴェリーノ・ピドの指揮、ドイツのピリオド・オーケストラの雄、コンチェルト・ケルンの演奏(いやぁ、随分と思い切ったオーケストラを選ぶよなぁ... )で、ナタリー・デセイが歌うイタリア・オペラ・アリア集(Virgin CLASSICS/514365 2)を聴く。

『ラ・トラヴィアータ』の、最も華々しいアリアから始まって、ベッリーニ、ドニゼッティと、イタリア・オペラ史上、最も輝きを見せた頃、直球勝負で聴かせるアルバムは、紛うこと無き、コッテコテの名アリア集でもある。それは、売り出し中のソプラノが、名刺代わりにリリースするような... そんなイメージもある構成。が、ナタリーにとっては、チャレンジであり、かえって刺激的な構成と言えるのかもしれない。フォン・オッターや、バルトリといったスターたちが、ステレオタイプに捉われずキャリアを積み、次第にオペラのステレオタイプに近付いている昨今の傾向。ナタリーも含め、スターたちのシフト・チェンジは、それぞれに興味深く。これもまた、"21世紀クラシック"の潮流なのかもしれない。一方で、なんでも歌わされて、消費されてゆく若手プリマも多いわけだけれど...
で、ナタリーのシフト・チェンジは?いつもながらの、クリーミーでやさしい歌声で、美しく仕上げられたフレンチ・タッチのイタリア・オペラ。と言おうか。イタリア・オペラ史上、最も輝きを見せた頃、その粋を極めたアリアの数々に、彼女のこれまでのレパートリーで築き上げて来た、ハイパー・テクニックが遺憾なく発揮されてゆく。スルスルと、イタリア・オペラの黄金期が歌われてゆく。が、そこに、ぼんやりと消化不良な気もしなくもない。安易ではあるのだけれど、イタリア的なパッションというか、どこか危うげな、場合によっては、歌い切れるのか?というようなスリリングさも欲しい。で、そんな印象を持ってしまうと、彼女のシフト・チェンジは、安全第一?これまでの経験を糧に、無理なく美麗に仕上げる... に留まっているように思えてしまうのがもどかしい。贅沢な欲求だけれど。
さて、ナタリーのチャレンジを支える、ピドの指揮、コンチェルト・ケルン... ピリオド最右翼のひとつと言えるオーケストラを招いたあたりが、ステレオタイプと距離を取るナタリーらしさ。このアルバムの、もうひとつの楽しみな点。あのコンチェルト・ケルンが、イタリア・オペラ?!それは、まったくの驚きであり、衝撃的なイタリア・オペラを期待してしまうのだけれど... やっぱり、主役はナタリー。ピリオドの強烈なサウンドをぶつけて来るようなことはしない... となると、物足りない?それでも、『ルチア... 』の狂乱の場(track.12)での、グラス・ハープ(フルートに替えて用いられている)の効果はなかなか... あの狂気に充ちたシーン、陰惨な物語が、ファンタジックに昇華されて、ナタリーのフレンチ・タッチな方向性を、巧く広げて見せて、この名シーンに新鮮さを与える。
けど、やっぱり消化不良、物足りない... 例えば、ナタリー、8年前のアルバム、ラングレの指揮、イギリスを代表するピリオド・オーケストラ、エイジ・オブ・エンライトゥンメントによるモーツァルトのアリア集(Virgin CLASSICS/5 45447 2)で聴かせた、歌、演奏、渾然一体となって生み出されたエネルギー!プリマとオーケストラが、丁々発止でドラマを紡ぎ出す心意気のようなものが弱い。ような。一概に比べてしまうことは危険だけれど、モーツァルトのアリア集を思い返すと、イタリア・オペラでのナタリーは整い過ぎていて、コンチェルト・ケルンにしては、遠慮がち過ぎる。劇場での、迫真の演技を見せるナタリー... 切れ味鋭く、暴れて見せるコンチェルト・ケルン... そうしたあたりをもっと素直に出されていたならば、狂乱の場など、強烈なインパクトを放ち、極めておもしろいアルバムに仕上がったはず。あるいは、指揮が、ピドでなく、ラングレあたりだったなら、また変わったか?昨年リリースされた、ナタリーの『夢遊病の女』(Virgin CLASSICS/395138 2)でも感じたことかもしれない... コンチェルト・ケルンのようなピリオド・オーケストラを器用するのだから、挑まなくては!

italian opera arias - natalie dassay

ヴェルディ : オペラ 『ラ・トラヴィアータ』 より
   「ああ、そはかの人か」、「花から花へ」
ベッリーニ : オペラ 『清教徒』 より
   「おお、私に希望を返して下さいませ」、「ここで貴方の優しいお声が」、「いらっしゃい、愛しい方」
ドニゼッティ : オペラ 『マリア・ストゥアルダ』 より
   「おみ足が速くて、女王さま」、「ああ雲よなんと軽やかに」、「寂しき安らぎの平和も失われ」
ヴェルディ : オペラ 『リゴレット』 より 「慕わしい人の名は」
ベッリーニ : オペラ 『カプレーティとモンテッキ』 より
   「私はこうして晴れの衣装を着せられ」、「ああ、いくたび」
ドニゼッティ : オペラ 『ルチア・ダ・ランメルモール』 より
   「あの方の声の優しい響きが」、「香炉がくゆり」、「エンリーコ様が」、「私の死骸の上に苦い涙を注いでください」

ナタリー・デセイ(ソプラノ)
カリーヌ・デゥシェイェ(メッゾ・ソプラノ)
ロベルト・アラーニャ(テノール)
フランク・フェラーリ(バリトン)
マシュー・ローズ(バス)
ヨーロッパ室内合唱団
エヴェリーノ・ピド/コンチェルト・ケルン

Virgin CLASSICS/514365 2


Virgin CLASSICSのCDは、時折、おまけのDVDが付いてくるから嬉しい。で、今回は、メトロポリタン・オペラでの『ルチア... 』の狂乱の場の映像。さすがは、ナタリー... となるのだが、リヨンのオペラでの、『リュシー... 』の映像を見てしまうと、「さすが!」ではあっても、何か、狂乱に物足りなさを感じなくもなく... リヨンでは、オペラ歌手というより、オペラ女優の凄味(もちろん、歌手としての仕事も完璧にこなして... )を見せ付けてくれただけに、あのナタリーは何処へ?という気にもなってしまう。緩めのオペラハウス、METにて... ということもあるのだろうが(総監督が交代して、METもシフト・チェンジを図っているわけだが... )、おまけでも、わずかに消化不良を感じてしまう。ような。いや、贅沢な欲求なのだけれど...




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