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若きベートーヴェンの疾走。「悲愴」から「田園」まで... [2007]

フンメルを聴いてから、ベートーヴェンを聴くと、いつものとは違う感覚を覚える。
普段、ベートーヴェンは、揺るぎなく「ベートーヴェン」なのだけれど、ベートーヴェンの8つ年下で、18世紀から19世紀へとうつろう「過渡期」を体現するフンメルの音楽に触れてみると、ベートーヴェンの音楽にもまた過渡期的な感覚を見出す... そもそも音楽史におけるベートーヴェンの位置が、とても不安定に感じる。18世紀生まれの人なのか、19世紀に活躍した人なのか?古典派なのか、ロマン派なのか?いや、そういう教科書的な線引きこそが危うい?なんて、いろいろ考えさせてくれる、ピリオド・アプローチによるベートーヴェンを聴いてみる。
ハイドン、モーツァルトのシリーズを完遂させた、フォルテピアノの名手、ロナルド・ブラウティハムが次に挑むベートーヴェンのシリーズ、1802年製、ヴァルター・ウント・ゾーンのレプリカで弾く、「悲愴」の8番から11番までを取り上げるvol.1(BIS/BIS-SACD-1362)と、「月光」を含む12番から15番までを取り上げるvol.4(BIS/BIS-SACD-1473)を聴く。


若さで疾走する初期のソナタ。「悲愴」に始まって、vol.1...

BISSACD1362.jpg
「悲愴」や「月光」というと、それはもう、クラシックの定番中の定番。けど、どうもそういうあたりが苦手... コテコテなクラシックに何だかアレルギー... というようなことは、以前にも書いていたように思うのだけれど。これを、ピリオドのピアノで聴いてみれば、また印象も変わるかなと、手に取ってみた、ブラウティハムが弾くベートーヴェンのソナタのシリーズ、vol.1とvol.4。ちょうど、8番から11番までのvol.1と、12番から15番までのvol.2ということで、ベートーヴェン、初期の傑作を含む、若き作曲家の創造の迸りを、一気に追うことになる2枚。改めて、ベートーヴェンの「若さ」と向き合ってみようかなと。極私的にはチャレンジングな2枚...
ということで、まずはvol.1。で、いきなりの「悲愴」(track.1-3)!いや、その名曲っぷりに、クラクラさせられてしまう。けど、クラクラしながらも、そこまでの"名曲"ということに、変に感心させられてしまう。とにかく、隙が無い。全てが、魅了されるパーツでできている。この圧倒的な佇まい。聴き手に、過保護なくらいに、すばらしい音楽を聴かせようという、過剰なサービス精神というか、強烈な意気込みを感じ。ここまで突き詰めてこそ、名曲なのだなと、改めて思い知らされるスーパー名曲。そんな1曲を聴き終えて、やっと見えて来る"苦手"の理由... あまりにできあがってしまっているイメージに、ただただ圧倒されるしかない。あたりが、つまらない?なんて、とんでもないこと言っているのはわかっているのだけれど... 何か、聴き手に余裕を与えてくれない密度がキツい?
さて、「悲愴」だけではありません、vol.1。9番(track.4-6)、10番(track.7-9)、11番(track.10-13)と続くのだけれど、名曲の後で、ちょっと一息。といった感覚もありつつも、またさらに、息つく暇なく繰り広げられてゆく、初期のベートーヴェンのソナタ。若さが否応なしに放つ勢い!それがまた、9番、10番、11番と、どんどん加速するようでもあり。また、そうしたところから「悲愴」を振り返ると、その落ち着いた雰囲気に、改めて名曲の風格のようなものを思い知らされ、素直に魅了されてしまうから、おもしろい。しかし、若いベートーヴェンの際限のない創造... 衝動的とも言えそうな、めくるめく楽想... 一方で、古典派を脱し切れないがゆえのかわいらしさとでも言うのか、その相反する感覚がひとところに存在しなくてはならないもどかしさ... 古典派からロマン主義へとうつろう、過渡期なればこその不安定さに、「ベートーヴェン」という性格を見出す。晩年のソナタの解脱したかのような境地に、ベートーヴェン芸術の大成を見ることができるのだろうけれど、ベートーヴェンの本質は、「若気の至り」にまみれた初期のソナタにこそあるように感じられる。いや、その青さを含めて、ベートーヴェンが愛おしくなってしまう。安易な感動だけではない、胸がキュっとなるような、何とも言えない心地... 大人になってこそ知り得る感覚?単に、老けただけか?なんて、感触を得ているあたり、苦手意識は克服されたのか... そして、そう導いてくれた、ブラウティハムの演奏に脱帽させられる。ということで、vol.4へ、続く...

Beethoven ・ Complete works for solo piano (1) ・ Brautigam

ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 Op.13 「悲愴」
ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第9番 ホ長調 Op.14-1
ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第10番 ト長調 Op.14-2
ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第11番 変ロ長調 Op.22

ロナルト・ブラウティハム(ピアノ : 1802年製、ヴァルター・ウント・ゾーン、複製)

BIS/BIS-SACD-1362




そして初期から中期へ、青春の帰結点、「田園」までの、vol.4...

BISSACD1473.jpg
12番から15番までを聴く、vol.4。初期から中期へとうつろう頃のソナタ... そういう認識を持って聴き出すと、そう聴こえてしまうのか... 最初の12番(track.1-4)を聴いてみると、vol.1で聴いて来た青さが成熟して、ベートーヴェンらしさが漂い始める。そうそう、ベートーヴェンのイメージはこんな感じだった... 1楽章、アンダンテ・コン・ヴァリエツィオーニの、その、めくるめくヴァリエーションに、ベートーヴェンの魅力が溢れ出し... ベートーヴェンのピアニストとしての力量を垣間見る変奏!やっぱり、ベートーヴェンは変奏だ... なんて、改めて感心してしまう。続く13番(track.5-8)、その終楽章(track.8)の勢いに圧倒される!それはもう、「初期」ではない、整理され無駄なく最大の輝きを引き出す"勢い"であって。さらに、コーダの前、滔々と歌われる3楽章のテーマをさらりと差し挟むあたり、大人だ、ベートーヴェン。8番から順を追って聴いて来ると、その成長ぶりが眩しい!
そして、「月光」(track.9-11)だ。思わず、おおぉ!と、声がもれてしまうようなコテコテ感、1楽章(track.9)の始まり... どういうわけか、気恥ずかしくさえなってしまう。クラシックもいろいろ聴いて来て、より幅広い(でもって、極めて浅い... のだけれど... )、楽しみ方ができるようになったように思っているのだけれど、久々に、本当に恐ろしくなるほど久々に聴く名旋律の強烈さに、クラクラ来てしまう。それは「悲愴」以上かも... で、名曲というのは、際立った個性があるのだなと、その個性の強烈な照射に中てられつつも、心を鷲掴みにつれるしかない名旋律に、結局、釘付け。誰もが虜になるとは、こういうことか... ある種、神懸かりな音楽のようにも感じる。
そんな、「月光」の後では、少しばかり地味にも感じてしまう「田園」(track.12-15)。というより、ここまで濃い音楽を聴いて来た分、その密度の薄さというのか、訥々とした表情に、ちょっと驚かされる。それは、牧歌的というよりも、アルカディアの田園を捉えるのか、何とも浮世離れしていて、晩年のベートーヴェンを予感させる、達観した雰囲気が独特。いや、ここまで突っ走って来た分、その不思議さは際立ち。またそこに、「青春」の帰結点とでも言うのか、若気の至りもすっかり呑み込む懐の深さを見て、それまでにない感慨が広がる。
いや、そういう感慨に至らしめる、ベートーヴェン体験をもたらしてくれたブラウティハム!ピリオドのピアノの癖のあるところを物ともせず、一音一音、クリアにすくい上げてゆくそのタッチ。いつものことながら、やっぱり凄い... で、そうした一音一音を丁寧に撚り、締まった音楽を紡ぎ出すその音楽性。有り余る若さが、ハレーションすら起こしてしまっている音楽を、「若さ」としてきっちり捉えて奏でるからこその、焦点が見事に合った演奏は、ベートーヴェンのリアルを活写しているようで、息を呑む。そんなタッチから、一気に聴いた8番から15番のソナタ... それは、まるで、死を前に見る走馬灯?15番を作曲した後、ベートーヴェンがハイリゲンシュタットで遺書を書いたことを思い出せば、そういうイメージが浮かぶことに納得。そうして、気が付けば、苦手意識は消え去って、ただただ、深く、感動せずにはいられなかった。

Beethoven ・ Complete works for solo piano (4) ・ Brautigam

ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第12番 変イ長調 Op.26 「葬送」
ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第13番 変ホ長調 Op.27-1
ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 Op.27-2 「月光」
ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第15番 ニ長調 Op.28 「田園」

ロナルト・ブラウティハム(ピアノ : 1802年製、ヴァルター・ウント・ゾーン、複製)

BIS/BIS-SACD-1473




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