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新宿センタービルを左手に... モーツァルトは行く。 [2006]

新宿センタービルを左手に、前には新宿三井ビル、奥には新宿住友ビル...
見たことのある風景の中に、モーツァルト?というジャケットに、ちょっとびっくりさせられた、コンチェル・ケルンのモーツァルトのアルバム。18世紀風の鬘を被って、新宿副都心のビル群を前に、背を向け写っているのは、やっぱりモーツァルトっぽい... 日本人のモーツァルト熱に誘われて、とうとうやって来てしまった?
モーツァルト生誕250年、このメモリアルに世界中が沸いている。そうした中で、日本人のフィーバーぶりは、ただならないものがあるのだろう。ザルツブルク音楽祭などにも、大挙して日本人が訪れそうだし... もちろん、今年に限って... クラシックとは縁遠いような母の友人ですら、モーツァルト・イヤーだからと、オーストリアへ旅行するというから、驚いてしまう。なぜ日本人はモーツァルトがそんなにも好きなのか?そんなにも好きならば、去年も、一昨年も、来年も、再来年も、熱心に聴いてくれ!モーツァルトの音楽は、250年前から美しく、250年後も色褪せないだろうから... なんて、愚痴っぽくもなる、2006年。メモリアルはめでたい!一方で、忌々しいところも。
と、愛憎半ばする?モーツァルトを3タイトル。気鋭のピリオド・オーケストラ、コンチェルト・ケルンによるモーツァルトの名曲集(ARCHIV/477 5800)。ピリオド界の巨匠、クリストファー・ホグウッドがクラヴィコードでモーツァルトを弾く、"the secret Mozart"(deutsche harmonia mundi/82876 83288 2)。フランス・ピリオド界切っての鬼才、マルク・ミンコフスキ率いる、レ・ミュジシャン・ドュ・ルーヴルによるモーツァルトの傑作、40番、41番の交響曲(ARCHIV/477 5798)を聴く。


モーツァルトの名曲に惚れ直す、コンチェルト・ケルンの名曲集。

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最も人気のあるオペラのひとつ、『魔笛』の序曲で始まり、最もポピュラーなディヴェルティメント、K.163に、最も有名なセレナード、「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」と、モーツァルトの「最も」おいしいところを盛り付け、初めてモーツァルトを味わう人にもたっぷり楽しんでもらえる... そんな名曲集。だが、そこは気鋭のピリオド・オーケストラ、コンチェルト・ケルンだけに、安易な名曲集には終わらない。ということで、バレエ『レ・プティ・リアン』のモーツァルトにより作曲された8曲と、さらに3曲を加えた抜粋を聴けるのが楽しみな1枚...
その名前は聞くのだけれど、実際に聴くとなると、なかなかチャンスがない、モーツァルトのバレエ。1778年、パリにて作曲されたとのことだが、ラモーの多彩さ、グルックの疾風怒涛に比べれば、全体としてのインパクトは欠けるものの、晩年の『魔笛』のワン・シーンを思わす笛の音を、第9曲、アンダンティーノ(track.3)に見つけたりと、思い掛けなく表情に富み。また、モーツァルト以外の作曲家による3曲も実に興味深く、これがまたアクセントになってもおり。バロックに後ろ髪を引かれるような第8曲(track.6)。豪快に田舎風にダンサブルな、第14曲(track.10)。まるで古典派の交響曲のような聴き応えのある第5曲、アジテ(track.12)まで... モーツァルトも飛び込んだ18世紀の国際音楽センター、パリの、多様な音楽シーンを垣間見るようでもあり。モーツァルト+αで、意外におもしろい仕上がりになっている。で、モーツァルト以外の作曲家が、誰だったのか?気になる!
そして、メイン・ディッシュ。誰もが知る、モーツァルトの名曲の数々。1曲目の『魔笛』の序曲から、まさしくコンチェルト・ケルン!という、演奏を繰り広げてくれる... アグレッシヴで、密度の濃いサウンド... こういう演奏で改めてモーツァルトの名曲に触れてみれば、惚れ直すようで。さらには、センスを感じさせる構成も。軽やかで楽しげな『レ・プティ・リアン』の後で、しっとりと「グラン・パルティータ」のアダージョ(track.13)を奏で、爽やかなディヴェルティメントの後で、重厚な『劇場支配人』の序曲(track.17)と、モーツァルトの魅力の幅を、見事に1枚のディスクに盛り付ける。やっぱり、コンチェルト・ケルン、期待を裏切らない!メモリアルのお祭り気分に浮かれる生ヌルさとは一線を画すモーツァルト名曲集は、意外なほどクール!

MOZART CONCERTO KÖLN

モーツァルト : オペラ 『魔笛』 K.620 序曲
モーツァルト、他... : バレエ 『レ・プティ・リアン』 K.App.10/299b 〔抜粋〕
モーツァルト : セレナード 第10番 変ロ長調 K.361/370A 「グラン・パルティータ」 から 第3楽章 アダージョ
モーツァルト : ディヴェルティメント ニ長調 K.136/125a
モーツァルト : オペラ 『劇場支配人』 K.486 序曲
モーツァルト : セレナード 第13番 ト長調 K.525 「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」

コンチェルト・ケルン

ARCHIV/477 5800




クラヴィコードで弾く、ホグウッドによるシークレット・モーツァルト...

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ホグウッドによる、クラヴィコードで、18世紀の巨匠たちの秘曲を弾くシリーズ... "the secret Bach"(Metronome/METCD 1056)、"the secret Handel"(Metronome/METCD 1060)に続く、"the secret Mozart"。メモリアルなればこその、クラヴィコードによるモーツァルトだ。極めて興味深い。のだけれど、クラヴィコードって何?と、改めて思うところも。何となくそのイメージはあるけれど、チェンバロや、ピアノとも違うその存在について、具体的にはよく知らなかったりする。そんなクラヴィコード... その発明はルネサンス期に遡り、19世紀前半まで使われていたらしい... で、その形を見ると、卓上チェンバロ?のような印象を受けるのだけれど... そんな手軽さからか、広く普及していた楽器のようでもあり。もちろんモーツァルトも愛用していたとのこと。が、音が小さいらしい... 「卓上」というようなスケールならば仕方ないか... けど、チェンバロや、フォルテ・ピアノよりも、より繊細なニュアンスを表現できたとのことだが...
しかし、何とも言えない響きのする楽器だ。チェンバロでもなく、ピアノでもない、その独特な響きは、ギターの音に近いような気もするし、ツィターの音に近いような気もする... どこか密やかで、何か愛らしい音。そして、そのクラヴィコードにぴったりの、モーツァルトの小品たちが並べられた"the secret Mozart"。現代のピアノでは、妙に軽く響いてしまうモーツァルトの小品だが、クラヴィコードが響かせる独特の質感が、驚くほど表情豊かなものとし、小品の中に隠れていたモーツァルト・サウンドのきらめきを探り出すよう。すると、シンプルな小品から、時に、しっとりとした表情が露わとなって、ゾクっとしてみたり。かと思えば、4手によるソナタ(track.20-23)は、連弾ということもあって、意外にダイナミック。また、それを際立たせるホグウッドによるアルバムの構成も絶妙で... その4手のソナタを、短調の幻想曲(track.19, 23)で挟んで(つまり、2度演奏することに... 2度目はコーダ付きで... )。メランコリックな幻想曲が、後半、明るく雰囲気を変えて... そのまま続けて、劇的に始まる4手のソナタ。ホップ(幻想曲のメランコリックな前半)・ステップ(幻想曲の明るさが差す後半)・ジャンプのように、盛り上がってゆくおもしろさは、まさに、ホグウッドが仕掛けた化学変化。効果絶大だ。

CHRISTOPHER HOGWOOD THE SECRET MOZART

モーツァルト : アレグロ(ソナタ楽章) ト短調 K.312(590d)
モーツァルト : 4手のためのアンダンテ(主題) と 5つの変奏曲 ト長調 K.501 *
モーツァルト : メヌエット ニ長調 K.355(576b) 〔トリオ : マクシミリアン・シュタードラー〕
モーツァルト : 小葬送行進曲 ハ短調 K(6).453a
モーツァルト : アンダンティーノ 変ホ長調 K.236(588b) 〔グルックのオペラ 『アルチェステ』 のアリア 「狼狽しないで」 による〕
モーツァルト : クラヴィアシュトゥック ヘ長調 K(6).33b
モーツァルト : グラス・ハーモニカのためのアダージョ ハ長調 K.356(617a)
モーツァルト : フリーメイスン歌曲 「われら手に手をとって」 K(6).623a
モーツァルト : ロンド ヘ長調 K.494
モーツァルト : 主題と2つの変奏曲 イ長調 K.460
モーツァルト : 幻想曲ニ短調 K.397
モーツァルト : 4手のためのソナタ ニ長調 K.381 *
モーツァルト : 幻想曲ニ短調 K.397 〔コーダ付き〕

クリストファー・ホグウッド(クラヴィコード)
デレク・アドラム(クラヴィコード) *

deutsche harmonia mundi/82876 83288 2




モーツァルトは、生きている!ミンコフスキによる40番、41番の交響曲。

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どういうわけかモーツァルトの録音がゼロ... という、ミンコフスキ。だったが、待望のモーツァルト!は、40番の交響曲(track.1-4)に、41番の交響曲、『ジュピター』(track.6-9)という、モーツァルト芸術の結晶、2作品が並ぶ。が、ミンコフスキにしてはあまりに捻りがないような... と、多少、不満もあったのだけれど、その演奏を聴けば、やっぱりミンコフスキ!であって、グイグイと惹き込まれてしまう。
とにかく、そこでは、モーツァルトは生きている。ミンコフスキ+レ・ミュジシャ・デュ・ルーヴルのモーツァルトを聴いていると、まるでモーツァルトの体温、いや体臭までを感じてしまいそう。いや、そういうサウンドをある程度、予想はしていけれど、過去を再現するに留まらない、18世紀が息衝く彼らのサウンドに、圧倒されてしまう。そして、何気ない表情から伝わる、ため息や、吐息にまで、温度を感じてしまいそうな、熱っぽさ!そこはかとなくテンションは高めで、汗ばみ、上気した様子を隠すことのない大胆さ。上っ面の、お上品な演奏とは一線を画す、血の通った、真実のモーツァルトがそこにあるような気がする。特に、2つの交響曲に挟まれた『イドメネオ』の最後のバレエ(track.5)。まるで、ベートーヴェンの交響曲か?というほどの濃密さ、ドラマティックさが、刺激的。
天才にして、苦労も多かった努力家であり、あちこちの宮廷に就職活動をしながらも、とんだ御ゲレツ・キャラでもあったモーツァルト... この偉大な作曲家の真実に迫れば迫るほど、実は、現代人が望むモーツァルト像からは離れてゆくように感じる。上品で、流麗で美しく、癒されて... けど、それって、本当に楽しいだろうか?おもしろいのだろうか?ミンコフスキのモーツァルトは、現代人がぼんやりと持つ、モーツァルトへの幻想、あるいは甘えを断ち切ってくる。250年を経ても未だ力強い生命力を放っているモーツァルト・サウンドの、生来の「凄まじさ」を、鮮やかに、そして的確に蘇生させてくる。アルバムの最後、「ジュピター」の終楽章(track.9)など、その盛り上がり様は、ヤバイくらいで。高められ、御預けをくらい、それが繰り返され、とうとう、最後のコーダで、フーガが止め処もなく溢れ出し... それは、ある種のエクスタシー。そして、クラシックだって、他の音楽ジャンルに負けないパワーを持ち得ているのだと、これでもかと教えてくれる。いや、モーツァルトは死んでいない!

MOZART: SYMPHONIES NOS. 40 & 41
LES MUSICIENS DU LOUVRE ・ MINKOWSKI


モーツァルト : 交響曲 ト短調 K.550
モーツァルト : オペラ 『イドメネオ』 K.367 から フィナーレのバレエ
モーツァルト : 交響曲 ハ長調 K.551 「ジュピター」

マルク・ミンコフスキ/レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル

ARCHIV/477 5798




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