SSブログ

さようなら、ヴェルサイユ... バルバートル、鍵盤上の履歴書。 [2006]

GCD921803.jpg
梅雨空のグレーを見つめていると、気分も何となくグレーに...
そんな時に見つけた新譜、アメリカのチェンバリスト、ミッツィ・メイヤーソンが弾く、バルバートルの作品集、"MUSIQUE DE SALON"(GLOSSA/GCD 921803)。ヴェルサイユのサロンに響いていただろう、バルバートルの鍵盤楽器の作品を、クラヴサンとフォルテ・ピアノで弾いてみる2枚組。なのだけれど、バルバートルの人生を、ちょっと知ってしまうと、ただのサロン音楽では収まりがつかなくなる2枚組。ヴェルサイユの最も華やかな頃を彩った作品の後で、全てが夢と消えた後の作品を弾く... そのあたりが、泣ける... という、フランス革命の前と、後を、思いの外、ドラマティックに弾き込むメイヤーソンによる、パルパートルをたっぷりと聴いてみる。
という前に、バルバートル。って、誰?というところから始まるのだけれど...

クロード・ベニーニュ・バルバートル(1727-99)。
ルイ15世(在位 : 1715-74)の時代、フランスが知的好奇心に溢れ、ロココを謳歌していた頃、オルガニストを父に、ブルゴーニュ、ディジョンで生まれる(18人兄弟の16番目って... スゴ過ぎ... )。父親から最初の音楽教育を受け、音楽的に恵まれた環境で成長。そして、ディジョンといえば、フランス・バロック、最後の巨星、ラモーを生んだ街。バルバートルは、ジャン・フィリップ... ではなくて、その弟で、父の友人にして同僚(オルガニスト仲間)、クロード・ラモーの弟子に(すでに、ジャン・フィリップは、パリで活躍していた... )。13歳で父を亡くしたものの、鍵盤楽器奏者として、着実に力をつけ、19歳で、父が務めていた教会のオルガニストに。そうした才能を見込んで、師、クロード・ラモーが、兄に、若きバルバートルを紹介し、1750年、パリへ!
音楽の都、パリでは、強力な後ろ盾、ジャン・フィリップ・ラモーの支援を受け、音楽家のサークルや、セレヴな音楽愛好家のサロンへ出入りするように。そんな地盤固めも着実に、後にゴセックも運営に関わり、モーツァルトも一苦労して交響曲(もちろん「パリ」)を演奏してもらった、コンセール・スピリチュエルのコンサートにデビュー(1755年、演奏したのは、ヘンデルのオルガン協奏曲らしい... )。これが大成功し、その名がパリに知れ渡り、サン・ロック教会のオルガニストに。やがて、バルバートル・ブーム到来。1760年には、オルガニストのパリの頂点、ノートルダム大聖堂のオルガニストに。さらに、歴史あるシャペル・ロワイアル(こちらは、王国の頂点)のオルガニストとなり、ヴェルサイユへ。王家のクラヴサン奏者として、王妃、マリー・アントワネットを教えるまでに... しかし、やがて革命がやってきて、その人生が狂ってゆく...

ということで、初めて聴いたバルバートル。まさに、ロココの音楽... それは、ラモーの延長線上にあるサウンド... だが、「ロココ」のライトでポップなイメージからすると、意外にしっかりとした音楽を聴かせてくれるようでもあり。ラモーのクラヴサンの作品が、実はかなりカッコいいことを思い起こせば、その進化系は、単なるサロン・ミュージックに留まるはずはない。で、フォルテ・ピアノによる1曲目、前奏曲から、ただならず、引き込まれてしまう。何やらアンビアントな仕上がりで、ちょっと驚かされるテイスト。けど、そこには、バッハの平均律のプレリュードを、フレンチ・スタイルで、華やかに、派手にすると、こんな感じかも?という、バロック的な匂いもするのか?
バロックから古典派へ... という、微妙なグラデーションを、そのまま響かせるバルバートル作品。その「微妙」さ加減が、実は新鮮。で、そうしたあたりを、クラヴサンとフォルテ・ピアノの、新旧の楽器のコントラストで綴ってゆくメイヤーソン。例えば、クラヴサンでの「ラ・スザンヌ」(disc.1 track.4)なんて、まさにラモー的なカッコ良さ。バロック風の、劇的な荒ぶる様が、クール!かと思えば、フォルテ・ピアノによる「ラ・モリソー」(disc.1 track.5)などは、その18世紀的、メランコリックな様が、どこかロマンティックですらあり... ショパンに影響を与えた古典派の作曲家、ジョン・フィールドを思わせ、やがてはショパンにも続く道?ロココのセンチメンタルが影を帯び、一瞬、ロマンティシズムの幻影が見えたよう。ラモーの延長線上にあり、ハイドンやモーツァルトと同時代... そうした縦糸(ラモーの系譜)と、横糸(同時代性)で織られた音楽は、より多くの表情を見出し、ところどころ、やがてくる時代を予感させるところもあり、魅力的で、力作揃い。バロックと古典派の折衷などではけしてなく、聴き応えは十分!
そんなバルバートル作品を弾く、メイヤーソンのタッチが、思いの外、力強く。フォルテ・ピアノなどは、時折、軋んでいそうな熱演で、サロンと銘打たれた音楽を、「サロン」というレッテルから解き放ち、ダイナミックに響かせ、音楽そのものをたっぷりと聴かせてくる... それは、持てる愛情の全てをぶつけた秀演?これでもか!と、迫ってくるよう。「ラ・マルゼルブ」(disc.2 track.5)の、次第にテンションが高まるダンサブルなあたりや、バロック的ツボをしっかり押さえた、「ラ・ブーローニュ」(disc.2 track.9)の力強さなど、思わず聴き入ってしまう。一方で、2枚組の長丁場、飽きさせないその構成は絶妙。クラヴサン、そしてフォルテ・ピアノ... 同じ鍵盤楽器とはいえ、まったく違う音の2つの楽器を、巧みに弾き分け、2つを並べることで、それぞれの音を際立たせ、より作品を印象的に聴かせる。フォルテ・ピアノのくぐもった音の後に、キラキラと耀くクラヴサンの音は、何とギャラントな!そんなクラヴサンの後にくる、セピア色のフォルテ・ピアノの音は、よりポエジーに溢れ、メランコリック... かと思えば、フォルテ・ピアノの中にクラヴサン的な感性を見つけ、クラヴサンの中にフォルテ・ピアノ的な先進性を匂わせ... メイヤーソンによるバルバートルは、変幻自在のカレイドスコープを見る思い。

Balbastre musique de salon Meyerson

バルバートル : 前奏曲
バルバートル : La Monmartel ou la Brunoy
バルバートル : La Bellaud
バルバートル : La Suzanne
バルバートル : La Morisseau
バルバートル : La Laporte
バルバートル : La De Caze
バルバートル : La Lamarck
バルバートル : La Berville
バルバートル : La Castelmore
バルバートル : La D'Hericourt
バルバートル : La Courteille
バルバートル : La Lugeac
バルバートル : La Genty
バルバートル : La Malesherbes
バルバートル : La Berryer ou la Lamoignon
バルバートル : La D'Esclignac
バルバートル : La Segur
バルバートル : La Boullogne
バルバートル : 「ラ・マルセイエーズ」と「サ・イラ」による行進曲

ミッツィ・メイヤーソン(クラヴサン/フォルテ・ピアノ)

GLOSSA/GCD 921803



バロックから古典派へ、そのうつろう様をそのままに、魅力的な作品を編んでいったバルバートル。スタイルを固定してしまうのではなく、「うつろい」を敏感に捉えて(というのが、サロン的なしたたかさかも?)の、ステレオ・タイプな音楽史では割り切れないサウンドは、思いの外(いや、予想外に?)、充実している。ディジョンからパリへ、パリからヴェルサイユへ... スターとなり、やがてはセレヴの仲間入り... 伊達に築かれたキャリアでないことは、この2枚組に収められた彼の作品の数々が証明している。いつものことながら、バッハ、ヘンデル、ヴィヴァルディ... そして、ハイドン、モーツァルトばかりが、18世紀の音楽ではないなと、また目を見開かされる思い。
しかし、そうした輝かしきキャリアに、終わりがやってくる。ヴェルサイユに終焉をもたらした、バスティーユに始まる革命。サロンの面々は断頭台へ... ロココを彩った華麗な音楽に代わり、市民を鼓舞する革命歌が18世紀末のパリを覆い、ヴェルサイユの音楽家は全てを失う。失意のバルバートルは、時代の激流に呑み込まれながらも、それでも時代の波に乗ろうと、革命歌を演奏してみせる。それが、2枚組の最後、「ラ・マルセイエーズ」と「サ・イラ」による行進曲(disc.2 track.10)。とはいえ、「うつろい」を巧みに捉えた音楽家も、革命という激変には耐え難いものがあったのだろう... それは、新たな時代についていけなくなった音楽家の、自虐的変奏のようにも... あるいは新たな時代への恨み節だろうか。そんな"MUSIQUE DE SALON"の結末に、それまでの音楽が充実していたからこそ、迫るものがある。そして、王も王妃も断頭台に消えてからしばらくして、革命がワケのわからないものになった頃... 1799年、音楽家は、パリにて、貧困の中、世を去った。




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。