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奇跡のマエストロ。 [2006]

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ロジャー・ノリントン。今や、奇跡のマエストロか...
で、何が「奇跡」かというと、次々にリリースされるアルバムのラインナップである。首席指揮者を務めるシュトゥットガルト放送交響楽団を従えて、ベートーヴェンの交響曲に、シューマンの交響曲、メンデルスゾーンの交響曲(2番を除く)と続き、今度はマーラーの交響曲のシリーズをスタートさせたばかり。他に、シューベルトの「グレイト」、ベルリオーズの幻想交響曲、チャイコフスキーの「悲愴」、なのである。よくぞここまで... というくらいに、交響曲の看板作品ばかりが並び... クラシックの窮状を考えれば、今、これができるマエストロは、ノリントンくらいなもの。で、その奇跡を可能にしているのが、オーケストラの最新モード、ピリオドとモダンのハイブリット・スタイル。マエストロが言うところの「ピュア・トーン」による演奏。ノン・ヴィブラートで交響曲の看板作品を次々に変身させ、快進撃を続けているわけだ。が、最新盤では、「ピュア・トーン」の魔法は効くのだろうか?
SWRヴォーカル・アンサンブル・シュトゥットガルトに、ライプツィヒMDR放送合唱団を招き、もちろんロジャー・ノリントン率いる、シュトゥットガルト放送交響楽団、「ピュア・トーン」による、異形の大作、ベルリオーズのレクイエム(hänssler CLASSIC/93.131)を聴く。

2003年、生誕200年のベルリオーズ・イヤーを経ても、リリースは少な目のベルリオーズのレクイエム... その規模を考えれば、仕方ないこと。とはいえ、大迫力のコーラスはもちろん、轟く16台のティンパニーやら、右から、左から、ブラスが高らかに吹奏され... こんなにも魅力的な体感型作品は、なかなか他には探せない。ま、そのあたりが新たな録音の障壁でもあるのだろうけれど、やっぱり新たな録音で聴いてみたかった。そんなところに、ノリントンによる、新たな録音。幻想交響曲、オラトリオ『キリストの幼時』に続いてのレクイエム。ただならない組合せに興味津々!で、やっぱり期待を裏切らない。
のだが、ベルリオーズのレクイエムは、やはりコーラスが主役... ということで、まずはコーラス。ノリントンはシュトゥットガルト放送響の同僚(SWR、南西ドイツ放送傘下... )、SWRヴォーカル・アンサンブル・シュトゥットガルトを軸に、ライプツィヒMDR放送合唱団を招いている。で、さすがはドイツのコーラス界!ピュア・トーンで知られるシュトゥットガルト・サウンドは、コーラスにおいてもしっかりと活きている。ドイツならではのハイテク室内合唱を基盤に生み出される、透明度の高いハーモニー、アンサンブル!数で勝負のイメージすらあるベルリオーズのレクイエムを、ただのド迫力で終わらせない。また、そうして成り立つベルリオーズに驚かされる。
「ベルリオーズ」という存在自体が、音楽史におけるケレンのイメージもあって。そうしたところから生まれる灰汁のようなものが、ベルリオーズ作品の重要なスパイス、いや迫力の源のように感じるのだけれど。ピュア・トーンによるベルリオーズは、隅々まで綺麗に洗われ、あらゆるパーツがスケルトン?しかし、そうなってこそ見えてくるものもある。灰汁抜きされたベルリオーズの、そのもののサウンドは、影や闇で凄むことのない、ただただ壮麗な姿として目の前に立ち上がるのか。力任せのコーラスでは得難い、浮世離れ(レクイエムだけに... )した感覚が広がる。そして、ピュア・トーンで歌われるディエス・イレ(disc.1, track.2)の、クリアであるからこそ得た、突き抜けた力強さ(その後ろでは、16台のティンパニーが!)は、「怒りの日」に付き纏う、ステレオ・タイプなおどろおどろしさ、ではなく、もっと高みにある神々しいほどの圧倒的なるパワーを聴かせ、鮮烈。また、そうした、何度か訪れる山場的、聴かせ所だけでなく、静謐なところでこそ耀くコーラス。無伴奏で歌われる「われを探し」(disc.1, track.5)や、何か啓示的な光が差すような「犠牲と祈りを」(disc.2, track.2)、天国を漂うようなアニュス・デイ(disc.2, track.4)は、このコーラスがあってこそ生み出し得る雰囲気を響かせ、印象的。
そして、忘れてならないオーケストラのピュア・トーン。主役の座こそコーラスに譲ってはいるものの、シュトゥットガルト放送響も、コーラスを支えつつ、いつもながらの美しいサウンドを聴かせてくれる。クリアなブラスは、いつもながら力強く、ノン・ヴィブラートの弦セクションは、その透明度をフルに活かして、レクイエムのこの世ならざる気分を気分を醸す。まさに、ピュア・トーンだからこその、透明なる俗世から切り離された非日常の音楽世界... その規模と、悪魔的(?)とも言える山場が、この大作の聴き所。そんなイメージを、刷新する、清冽なベルリオーズのレクイエム。ノリントンとシュトゥットガルトの面々による歌、演奏を聴いて、作曲家、ベルリオーズの魅力を、今さらながらに、感じ入らずにはいられない。

R.Norrington BERLIOZ: Requiem op. 5

ベルリオーズ : レクイエム Op.5

SWRヴォーカル・アンサンブル・シュトゥットガルト、ライプツィヒMDR放送合唱団
トビー・スペンス(テノール)
ロジャー・ノリントン/シュトゥットガルト放送交響楽団

hänssler CLASSIC/93.131






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