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ハンバーガーズ・オペラ! [2005]

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「音楽の都」というと、"ウィーン"というイメージがとてつもなく強くある。が、音楽史をよくよく紐解いてみると、ウィーンばかりが「音楽の都」でなかったりする。特に、バロック期... ウィーンが音楽の都へと成長する前夜、ロンドン、パリこそが、ヨーロッパ中から音楽家を集めた音楽の都であり。また、オペラ史上最大のブームを引き起こしたヴェネツィアや、オペラの最新モードをヨーロッパ中に発信したナポリもまた音楽の都だった。そして、もうひとつの音楽の都が、ハンブルク。今となっては、あまり知られることのないトピックなのだけれど...
南のヴェネツィア、ナポリばかりでない!北も熱かった、ハンブルクのオペラ・シーンを、序曲、組曲で振り返る、意欲的かつ実に興味深い1枚、ベルリン古楽アカデミーの"Ouvertüren"(harmonia mundi FRANCE/HMC 901852)を聴く。

ヴェネツィア同様に、古くからの自治、共和制の都市として、また、ハンザ同盟の主軸都市として、中世後半からルネサンス期に掛けて、経済的に北ヨーロッパに大きな影響力を持ち、繁栄したハンブルク。ハンザ同盟はやがて力を失うものの、ヨーロッパ有数の経済都市としての存在感は、今に至るまで失っていない。その経済的な豊かさを背景に、また音楽も盛んで... ヴェネツィアに次いで、公開のオペラハウスを誕生(1678)させた街でもある。そして、このドイツ語圏で最初の公開のオペラハウス、ゲンゼマルクト劇場は、ヴェネツィア同様に、ハンブルクにもオペラ・ブームをもたらし、独自のオペラを生み、市民を熱狂させることに... その熱狂を捉えるベルリン古楽アカデミーの"Ouvertüren"、まず、そのテンションが眩しい!
1曲目、シュルマンのオペラ『ロドヴィクス・ピウス』の組曲(track.1-8)からして、当時のハンブルクのオペラ・シーンの盛り上がりが、ガンガン伝わってくるノリの良さ... そのまま、2曲目、エルレバッハの序曲、4番(track.9-17)まで、息もつかせず一気に走り抜けてゆくよう。そんな、ハンブルク・サウンドは、ヴィヴァルディやナポリ楽派といったオペラ先進国、イタリアよりも、フランスのイメージに近いのか。ラモーのオペラ・バレのダンサンブルなノリを思わせ、時々、エキゾティックな表情も見せ... エルレバッハの作品には、"フランス式アリアを伴う6つの序曲"というサブ・タイトルが付けられていて... 同時代の主流、イタリア・オペラとは一味違う魅力を振りまきつつ、どこかでイタリアに対抗する意識があるのか?興味深い、フランス風のドイツ・オペラの源流を聴くことに。
それにしても、興味深い... いや、おもしろい!ハンブルクのオペラ・シーンの帝王であったカイザーの、ジングシュピール『笑うべき王子、ヨーデレト』のシンフォニア(track.14)では、唐突にお馴染みのフォリアが割って入って、何ともキッチュ!で、初めて耳にした時は、思わずフキ出しそうに(18世紀のシュニトケか?)... そんなカイザーの留守番として抜擢され、オペラ・デビューを果たした若きヘンデルの最初のオペラ『アルミラ』の組曲では、どこかで聴いたメロディ(track.22)が... ハンブルクからイタリアへと移って間もなくの、ヘンデル、ブレイクの頃の作品、オラトリオ『時と悟りの勝利』でも、ロンドン初登場を飾るオペラ『リナルド』でも登場する名旋律、アリア「涙の流れるままに」のメロディが聴こえてきて、驚かされる発見も... 何より、"Ouvertüren"で取り上げられる、これまであまり耳にする機会の無かったハンブルクの作曲家たちによる魅力的なサウンド!彼らのサウンドというのは、宮廷ではなく、市民が育んだサウンド。他のバロックには無い気の置けなさがある。またそこに、今と違って、身構えることなく、気軽に、理屈抜きに、フルに楽しめたオペラの姿が、何となく見えた気もする。
もちろん、ベルリン古楽アカデミーの溌剌とした演奏によるところは大きい。ヤーコプスの指揮で、カイザーの『クロイソス』(harmonia mundi FRANCE/HMC 901714)、テレマンの『オルフェウス』(harmonia mundi FRANCE/HMC 901618)を録音しているベルリン古楽アカデミー。ともに、ゲンゼマルクト劇場で初演されたハンブルクのオペラだ。そうした経験からか、このアルバムでは、"お手の物"といった、痛快で、余裕綽々の演奏を繰り広げる。そうして生まれる、スパーク感!ハンブルクのオペラの熱狂を、今に蘇らせるよう。そして、それは、当時のハンブルク市民だけでなく、現代人の耳にも楽しい!

Ouvertüren ・ Akademie für Alte Musik Berlin

シュルマン : オペラ 『ロドヴィクス・ピウス』 組曲
エルレバッハ : 序曲 第4番
カイザー : オペラ 『笑うべき王子、ヨーデレト』 から シンフォニア
ヘンデル : オペラ 『アルミラ』 組曲
シーフェルデッカー : 12の音楽的合奏 から 第1の合奏

ベルリン古楽アカデミー

harmonia mundi FRANCE/HMC 901852




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