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FROGS and the CITY [2006]

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「バロック」というと、ライプツィヒを取り仕切ったバッハである。それから、ロンドンで山あり谷ありの活躍をしたヘンデル。ヴェネツィアからヨーロッパ中を席巻したヴィヴァルディ。普段は、作曲家からバロックというものを捉えているが、これを都市から捉えたらどうだろう?また違ったバロックが見えてくるように思う。
そして、ハンブルク... あまり知られていない、バロック期のもうひとつの「音楽の都」。18世紀、パリ、ロンドンと並び、国際的な音楽都市として存在感を示していたという。そんな一端を聴かせてくれるアルバム、鬼才、アンドレアス・シュタイアーが、チェンバロで、ハンブルクを活写する"Hamburg 1734"(harmonia mundi FRANCE/HMC 901898)。ハンブルクで製作された、当時、最新鋭のチェンバロで、バッハ抜きのドイツ・バロックを繰り広げる興味深いアルバムを聴く。

始まりの、ヘンデルのシャコンヌ... もう、のっけから圧巻!
思わず惹き込まれてしまう、シュタイアーならではの豪快な演奏... なのだが、その演奏を生み出す楽器が、このアルバム、"Hamburg 1734"の肝。1734年、ハンブルクで、ヒエロニムス・アルプレヒト・ハースによって製作されたというチェンバロ(今回の録音では、そのコピーが使用されている... )。ヘンデルのシャコンヌで響く、深くも煌びやかな音色は、チェンバロのイメージが拡張されるようで、そのスケール感に驚かされる。で、これが、また極めて表情豊かなチェンバロで、時に、ナンジャアコリャア?!という音まで出してしまう。で、そんな楽器をフルに弾きまくり、あらん限りの表現を引き出すシュタイアー。1台のチェンバロから、まるでオーケストラのような多彩なサウンド(一部、ショルンスハイムも加わって、4手となるのだが... )を繰り広げて、さらに驚かせてくれる。
そして、取り上げられる作品も多彩... 当時の音楽家、音楽ファンの度肝を抜こうと、ハースが楽器作りに精を出していた頃のハンブルクに縁のある作曲家たち、マッテゾン、ベーム、ヴェックマン、シャイデマン... あまり馴染の無い作曲家たちの作品が、まず興味深い。そこに、ハンブルクでキャリアをスタートさせたヘンデルによる有名なシャコンヌがあり。ハンザ都市、ハンブルクの盟友、リューベックで活躍したブクステフーデの作品も並び、バッハ抜きで、当時の北ドイツの音楽シーンを、巧みに切り取ってくるシュタイアーのセンスが見事。で、目玉は、当時のハンブルク音楽界のドン(街の音楽監督にして、ヨハネウムの音楽監督)、テレマン!
シュタイアーによりチェンバロ用(4手によるものも... )に編曲された、テレマン、定番の、組曲『ハンブルクの潮の干満』(track.12-16)と、組曲『アルスター川』(track.19-22)。この2曲が、とにかくおもしろい!大都市、ハンブルクの賑わいを、輝かしいサウンドで捉える『ハンブルクの潮の干満』は、そのゴージャスなあたりが、バロック期のシティ・ライフを描くようで、どこか現代に通じる感覚を見出してみたり... 一方、ハンブルクのど真ん中を貫く『アルスター川』では、街の景色が鮮やかに切り取られているのだが... 聴きどころは、やっぱり、2曲目、蛙と烏のコンサート(track.20)。テレマン、お得意の、蛙に、烏が鳴いているはずなのだが、その音は、まるでプリペアード・ピアノ。まさかケージ?というかラッヘンマン?なんて、真面目に思ってしまってもおかしくない仕上がり。もはや、楽器云々ではなく、シュタイアーの大胆さが、テレマンの音楽を違う次元へと持って行ってしまうかのよう... また、そんなテレマンが、めちゃくちゃおもしろく感じられて、改めてテレマンという存在に着目したくなってしまう。
さて、アルバムの締めは、フランスの現代の作曲家、ブリス・ポセ(b.1965)による作品。このアルバムの主役とも言えるチェンバロを製作した、ハースに捧げられた作品、"Entrée"(track.22)。なのだが、1734年の最後に、現代を持ってきてしまうシュタイアー。おまけに、最後にして、"Entrée(入口)"っていったい... やっぱりただならぬセンス... で、これが妙に、テレマンと違和感なくつながってしまい。18世紀を巧みにコラージュするポセの音楽が、現代作品にして、とてもユニーク。で、このあたりがスパイスとなって、アルバム全体を、18世紀の都会派のサウンド?のような印象をもたらしていて、おもしろい。
ハース製チェンバロが炸裂する"Hamburg 1734"。シュタイアーにより、大胆に描かれるハンブルクのポートレートは、極めて刺激的で、クール!

Hamburg 1734 Andreas Staier

ヘンデル : シャコンヌ ト長調 HWV.435
テレマン : ブレスケ序曲 ニ短調 『忠実な音楽の師』
ブクステフーデ : 前奏曲とフーガ ト短調 BuxWV.163
マッテゾン : 『通奏低音大教本』 より 上級問題 第13番 と 第7番
ベーム : 前奏曲、フーガと後奏曲 ト短調
テレマン : 組曲 ハ長調 『ハンブルクの潮の干満』 より 〔編曲 : シュタイアー〕 *
ヴェックマン : トッカータ 第4番 イ短調
シャイデマン : 涙のパヴァーヌ ニ短調
テレマン : 序曲 ヘ長調 『アルスター川』 より 〔編曲 : シュタイアー〕 *
ポセ : Entrée

アンドレアス・シュタイアー(チェンバロ)
クリスティーネ・ショルンスハイム(チェンバロ) *

harmonia mundi FRANCE/HMC 901898




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