SSブログ

天邪鬼はかく語りき。 [2006]

ジャンルを越境するサウンドというのは、魅力的なものが多いように思う。
ジャンルの内側に留まっていればいいものを、あえて飛び出し、畑違いに挑む危うさ... いや、その危うさこそ魅力?内側に籠りがちなクラシックならば、余計にそんなことを思う。クラシックという取り澄ました場所から、あえてジャンルを越境する危うさが生み出す刺激というのか... そんなジャンルを越境するサウンドが、いつも気になる。というのも、近頃のクラシックに緊張感はあるだろうか?危うさはあるだろうか?どこかでユルい空気感の中に安住してしまい、新たな未来が描けないままでいるように思えて。クラシックは好き... だけれど... そんな不完全燃焼な気分が、クラシックから飛び出そうという試みをつい求めてしまう。そんなアルバムを2タイトル...
注目のヴァイオリニスト、ベンヤミン・シュミットによるジャズ、"Hommage à Grappelli"(OEHMS CLASSICS/OC 554)。クラリネットのベテラン、ザビーネ・マイヤーによるノン・ジャンル?"PARIS MÉCANIQUE"(MARSYAS/MAR 1801 2)。ジャンルを越境して、大いに刺激してくれる2枚を聴く。


ベンヤミンではなくて、ベニ・シュミットによる"Hommage à Grappelli"。

OC554.jpg
OEHMS CLASSICSの看板息子?ベンヤミン・シュミットが、ベニ・シュミット名義でジャズをプレイ... クライスラーからヨーロッパのジャズを切り拓いたジャンゴ・ラインハルトへ至る興味深いラインを見出した"from Fritz to Django"(OEHMS CLASSICS/OC 701)に続く、ジャズ・ヴァイオリンの伝説、ステファン・グラッペリにオマージュを捧げたアルバム。でもって、これが思いの外、魅惑的。
クラシックのアーティストがジャズに挑むと、意外としっくりくるような気がする。ま、クラシックからの視点ではあるのだけれど... ジャズを演奏しながらも、普段はクラシックというステージに身を置いているという、ジャズに対する距離感が、実はいい具合に作用して、「しっくり」感を生むのか。例えば、ラトルがバーミンガム市響とデューク・エリントンを演奏したアルバムであったり、ブラレイがガーシュウィンをさらりと弾いたアルバムであったり、ルネ・フレミングがクラブ・シンガー時代の記憶を辿るジャジーなアルバムであったり... どれも付け焼刃にならず、クラシックというしっかりとしたホームがあるからこその、それぞれにカラーをしっかり持ち、ジャズしているのである。そして、ベニ・シュミット!彼のプロフィールを改めて探ってみて、驚く... ユーディ・メニューイン国際ヴァイオリン・コンクールにて、クラシック部門で第1位、即興-ジャズ部門のファイナリストだそうだ。通りで...
クラシックでは繊細なイメージが強いベンヤミンだが、ベニでの演奏は骨太な存在感を見せる。クラシックでの美しい音色はそのままに、線の太い演奏が印象的で、その線の太さに、歴史と伝統の積み重ねたクラシックの揺るぎなさを感じたりもし、余裕をもってグラッペリのサウンドを捉えてゆく。そうして響き出すグラッペリの音楽の魅惑的なこと!アメリカではなくフランス生まれのグラッペリ、そしてジャズに留まらずフュージョンまで聴かせたグラッペリだけに、ヴァイオリンという素材を活かし切った、ジャズばかりにこだわらない、それこそジャンルを越境するような感触に、ただならず魅了されてしまう。そのナチュラルで、センスよくライトな響きは、ちょっとヤミツキ。ベンヤミンではなく、ベニの演奏もいい!

BeniSchmidObsession Hommage à Grappelli

ラインハルト/グラッペリ : Souvenirs
ラインハルト/グラッペリ : Swing 39
ポーター : Night and Day
ラインハルト : Manoir de mes rêves
ラインハルト/グラッペリ : Tears
ラインハルト : Troublant Bolero
ベックマン/マッケベン : Bei dir war es immer so schön
ユーマンス/アダムソン/ゴードン : Time on my Hands
ガーシュウィン : Embraceable You
ピンカード/ケイシー/バーニー : Sweet Georgia Brown
ウォーラー/ラザフ : Honeysuckle Rose
ラインハルト : Place Broukere
ガーシュウィン : Fascinating Rhythm
ラインハルト/グラッペリ : Sweet Chorus
ラインハルト : Nuages
ラインハルト/グラッペリ : Nocturne

ベニ・シュミット(ヴァイオリン)
ゲオルグ・ブラインシュミット(ベース)
エディ・ケールドルファー(エレクトリック・ギター)
ビレリ・ラグレーン(ギター)
エルンスト・レイズグル(チェロ)

OEHMS/OC 554




ザビーネ・マイヤーがジャンルを越境して大冒険!"PARIS MÉCANIQUE"。

MAR18012.jpgSS10.gif
かつて、カラヤンを巻き込んで(正確には、カラヤンが巻き込んだか... )、ベルリン・フィルを混乱させたクラリネットの名手、ザビーネ・マイヤーも、今では大ベテラン、押しも押されぬ第一人者。そんな彼女が、兄、夫と結成したクラリネットのアンサンブル、トリオ・ディ・クラローネで挑む、ノン・ジャンル(?)なアルバム。バレル・オルガン(!)をゲストに迎えての"PARIS MÉCANIQUE"は、まったく不思議なテイストの炸裂!
パリで"メカニーク"となると、アンタイルによる『バレエ・メカニーク』を思い出されるわけだが、そんなキテレツな音楽を期待していると、少々、大人しい?いや、それは、映画『アメリ』のテイスト?とでも言おうか... パリの下町を颯爽と駆け抜けてゆくような仕上がり... バレル・オルガンの人懐っこいサウンドが、何気なくフレンチで、洒落ていて、毒もある。そこにクラリネットのアンサンブルによる、飄々としたサウンドが乗っかり... これまでちょっと味わったことの無いテイストに、ナンジャアコリャア!?となりながらも、不思議に軽やかで、何かとキャッチーで、様々な表情が次々に立ち現れる、おもちゃ箱のような音楽世界に、すっかりはまってしまうことに。
プーランクの2つのクラリネットのためのソナタ(track.9-11)といった、取り上げられてしかるべき作品から、絶妙なアレンジの効いたミヨーのスカラムーシュ(track.13-15)に、ルロイ・アンダーソンのライト・クラシックな作品の数々... それから、ジャズにカテゴライズされる人なのか?大いに興味を掻き立てられたゴヨン、その「みにくいあひるのこ」(track.22)は、バレル・オルガンがサイケデリックに炸裂!で、クール!そして、演奏にも参加する、現代音楽とジャズを行き来する気鋭のサックス/クラリネット奏者、リースラーのフュージョンを思わせる作品... 交差した言葉(track.24)など、カッコ良過ぎる... で、最後はモリコーネの映画音楽...
こうして綴られる"PARIS MÉCANIQUE"は、まるで映画のサントラのよう。どことなしに物語を感じさせ、見事に唯一無二の音楽世界を生み出している。何より、バレル・オルガン再発見のアルバム!そのせいか、わずかに影の薄いサビーネ。ではあったけれど、このアルバムを繰り出した彼女の勇気、形にし切ったセンスに感服!こういう冒険ができる、クラシックのアーティスト、他にいるだろうか?

MEYER / TRIO DI CLARONE / RIESSLER / CHARIAL PARIS MÉCANIQUE

リースラー : メランコリックなイントロダクション
ピエルネ : 祝典序曲
フランセ : エキゾティック・ダンス
プーランク : 2つのクラリネットのためのソナタ
リースラー : イ・ヴェンティ
ミヨー : スカラムーシュ
サティ : びっくり箱 I
アンダーソン : タイプライター
アンダーソン : シンコペーションの時計
サティ : びっくり箱 II
サティ : ジャヴァ・マルティノン
アンダーソン : フィドル・ファドル
ゴヨン : みにくいあひるのこ
リースラー : コンチタ
リースラー : 交差した言葉
アンダーソン : ジャズ・ピチカート
ジョプリン : ソラーチェ
モリコーネ : 映画 『銃殺!ナチスの長い五日間』 の音楽

トリオ・クラローネ
ザビーネ・マイヤー(クラリネット)
ヴォルフガング・マイヤー(クラリネット)
ライナー・ヴェーレ(クラリネット)

ミヒャエル・リースラー(クラリネット)
ピエール・シャリアル(バレル・オルガン)

MARSYAS/MAR 1801 2




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:音楽

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。