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天国のようにすら感じる4分33秒。カリフォルニアにて... [2006]

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戦後60年... 昨年、盛んに語られたキーワードであったが、戦後50年も、戦後60年も、さほど変わりがないように思えてくる。つまり、我々の社会、我々の世界は、10年前に比べてあまりにも変わっていない。あえて言うなら悪くなってさえいる... 第二次世界大戦という悲劇に真摯に向き合い、改めて歴史を学び直し、成長できただろうか?結局のところ、「戦後50年」、「戦後60年」という言葉が、10年ごとに繰り返されるばかり。そのことに、どれほど意味があるのだろうか?悲劇を悲劇として、しっかり認識し、今後、起こり得るかもしれない悲劇を、如何にして回避しようか、という模索、努力がなされずに、虚勢と疑心暗鬼が、世界を跋扈している現実。そろそろ言葉だけのレベルから脱却し、成長しなくては... そんな不穏の21世紀に、突き刺さってくるアルバムに出会う。
ドイツ出身のピアニスト、スザンヌ・ケッセルによる、なかなか興味深いアルバム、"CALIFORNIAN CONCERT"(OEHMS CLASSICS/OC 534)。

ラフマニノフ、シェーンベルク、ストラヴィンスキー、ミヨーといった、ヨーロッパからアメリカへと渡った作曲家たちに、その時代のアメリカの作曲家たち、カウエル、ガーシュウィン、ケージ... さらにはチャールズ・チャップリン、ハロルド・アーレン、ジョン・ウィリアムズまで、様々な作曲家たちの幅の広い作品を並べてしまう、盛りだくさんの小品集、"CALIFORNIAN CONCERT"。それは、ジャンルの枠組みも越えた、ピアノによる20世紀音楽のカタログにもなっていて。ナチスによる迫害を逃れたヨーロッパの作曲家たちと、思い掛けずヨーロッパの最先端に直に触れる機会を得たアメリカの作曲家たちが織り成す、20世紀音楽の坩堝と化したアメリカの刺激的な状況を、器用にも、さり気なくまとめてくるケッセル。そこから響くサウンドというのは、凄惨な戦場、理不尽な収容所という、20世紀の重く厳しい現実から逃避するかのようであり、どこか浮世離れした印象すら受ける。
そして、その最後に取り上げられる、ケージの反芸術作品、「4分33秒」(track.21)。ピアノの小品集にして、ピアノを弾かないというこの奇作が、"CALIFORNIAN CONCERT"を際立たせてしまうからおもしろい。ピアニストが着席し、いざ鍵盤に向かおうとするも、結局、何もせず、当然、無音の時間が流れる... その異常事態に、客席がざわつく様子を録らえた4分33秒ではなく、穏やかで、暖かで、鳥がさえずり、時折、能天気な飛行機のエンジン音がかすめてゆく... のどかなサウンド・スケープとしての4分33秒は、かつてヨーロッパから避難してきたアーティストたち(シェーンベルク、トーマス・マン、フリッツ・ラング、ブレヒトら... )が滞在したというヴィラ・オーロラでの録音。"CALIFORNIAN CONCERT"にとっては、実に象徴的な場所。ではあるのだが、あまりにのどか。まるで天国のようにすら感じる4分33秒で。いや、だからこそ、強いメッセージを放つようでもあり。
あまりに多くの作曲家(19人)、それぞれ違う作風の作品(21曲)を、1枚に詰め込んでしまったこのアルバム。脈略がないようで、丁寧に見つめると、ひとつの時代を見事に編み上げてもいて。その裏にあるだろう悲劇を、静かに透かして見せもする。そして、カリフォルニアののどかさと、ヨーロッパの悲劇が重なれば、何とも言えないセンチメンタルが漂い出し... チャップリンの「スマイル」(track.19)、アーレンの「虹の彼方に」(track.20)と、終わりに近付き、無邪気なメロディが続いての、そのハッピーさが、より厭世観を濃くし、その後での「4分33秒」... どこかけだるい気分と、そこはかとなしに力強いタッチで、まとめきれないような多様な音楽を、ひとつにまとめきったケッセルの音楽性に驚かされつつ、そこから響く、20世紀の記憶の重さに、胸が締め付けられる思いに... しかし、凄いアルバムだ。何気ないようでいて、けしてそうではない...

Californian Concert
Music of European Immigrants and their American Contemporaries


ラフマニノフ : 前奏曲 嬰ト短調 Op.32-12 〔編曲 : ジロティ〕
J. S. バッハ : 前奏曲 ロ短調 〔編曲 : ジロティ〕
ミヨー : Tabernacles
クルシェネク : オーストリアからのこだま
フープフェルト : As Time Goes By
シェーンベルク : ピアノ小品 Op.11 No.1
ストラヴィンスキー : タンゴ
トッホ : 曲芸師
ユールマン/カパー : ニノン
ザイズル : In the factory
ウィリアムズ : 映画 『シンドラーのリスト』 から
クネル : Four Snapshots No.1
クネル : Four Snapshots No.4
タンスマン : Cantilena
ガーシュウィン : The Man I Love
アイスラー : 第3 ソナタ から 第1楽章
シャピロ : For My Father
カウエル : The Tides of Manaunaun
チャップリン : スマイル
アーレン : 虹の彼方に
ケージ : 4分33秒 〔2004年5月30日、ロサンジェルス、ヴィラ・オーロラにて... 〕

スザンヌ・ケッセル(ピアノ)

OEHMS CLASSICS/OC 534




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