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フランス革命が焚き付けた新時代の熱気、ロドイスカ! [2013]

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1780年代、パリの音楽シーンは、まさに花盛りだった。ナポリ楽派の巨匠、ピッチンニ(1728-1800)、サッキーニ(1730-86)に、ウィーンからやって来た次世代の巨匠、サリエリ(1750-1825)らがオペラ座を沸かせ、さらに、ベルギー出身のグレトリ(1741-67)が、オペラ・コミックで話題を呼び、同じくベルギー出身のゴセック(1734-1829)が指揮をしたパリの名門オーケストラ、ル・コンセール・スピリチュエルは、コンサートで聴衆を沸かせた。それに対抗する、カリヴ出身の異色のヴァイオリニスト、サン・ジョルジュ(1745-99)がコンサート・マスターを務める新たなオーケストラ、ル・コンセール・ドゥ・ラ・ロージュ・オランピーク。パリにおける空前のハイドン・ブームに乗り、パリ・セットを委嘱。まるで、ハイドンがパリにいたような錯覚を覚えさせるものの、結局、ハイドンは、パリに訪れることなく、1789年、フランス革命を迎えてしまう。そして、フランス革命が、全てを変えた。が、変わって出て来る新たな芽も... 今回は、その芽のひとつに注目したいと思う。それが、ケルビーニ!
ジェレミー・ローレル率いる、ル・セルクル・ドゥ・ラルモニの演奏、ナタリー・マンフリーノ(ソプラノ)のタイトルロールで、ケルビーニのオペラ・コミック『ロドイスカ』(ambroisie/AM 209)... 革命から2年、1791年、当時の空気を巧みに捉え人気を集めたオペラを聴く。

ルイジ・ケルビーニ(1760-1842)。
モーツァルト(1756-91)と同世代にあたる、ケルビーニ。一方で、モーツァルトよりも半世紀も長命だったケルビーニ。その分、時代の大波に呑まれ、大変な人生を送ったか?というと、器用に大波に乗って、18世紀から19世紀へと見事にサーファイン!大波が来てこその作曲家だったとさえ言える。というケルビーニは、1760年、ハプスブルク家が支配するトスカーナ大公国の首都、フィレンツェで生まれ、チェンバロ奏者だった父から音楽を学び始め、この人もまた幼くして才能を開花させた天才だった。13歳の時にインテメルッツォを作曲するほどで、トスカーナ大公、レオポルド(ヨーゼフ帝の弟で、マリー・アントワネットの兄... 後の神聖ローマ皇帝、レオポルト2世... )の支援により、1780年、ボローニャ、ミラノへ留学。1782年、フィレンツェでオペラ・セリア『見捨てられたアルミーダ』を上演したのを皮切りに、ローマ、ヴェネツィアとイタリア各地の劇場で活躍した後、1785年、ロンドンに渡り、イタリア・オペラの作曲家として活動。間もなく、友人で、パリでヴァイオリンのヴィルトゥオーゾとして活躍していたヴィオッティを頼り、パリ進出を目論む... そうして、1788年、パリのオペラ座で、トラジェディ・リリク『デモフォン』の上演に漕ぎ着けるのだったが、あえなく失敗... ナポリ楽派の拠点、ナポリで学んだでもなく、ウィーンのような由緒正しい宮廷でポストを得ていたわけでもなく、パリで活躍するには、少々、見劣りがしたか、ケルビーニ?しかし、1789年、フランス革命が、イタリア人の巨匠たちをパリから去らせると、風向きは変わる。1791年、フェドー座(ヴィオッティが革命前夜に立ち上げたオペラ・カンパニー... )で、オペラ・コミック『ロドイスカ』が上演され、大成功!やがてフランス楽壇に君臨することになるケルビーニの第一歩がここに記された。
さて、『ロドイスカ』は、歌芝居=オペラ・コミックとして作曲されている。が、その物語、コミックではない... ヴォードヴィルに端を発するオペラ・コミックは、ブフォン論争の最中、イタリア・オペラのよりメロディックなスタイルを取り入れ(1762年、オペラ・コミック座は、コメディ・イタリエンヌ座と合併している... )、音楽的な充実を図ると、グレトリの『リシャール獅子心王』(1784)に代表されるロマンス劇を登場させる。台詞と歌による歌芝居の形は維持しているものの、コミックばかりではすでになくなっていた。さらに、フランス革命が勃発すると、その激動に共鳴するように、危機感を煽るような救出劇が人気を集め... その始まりとされるのが、『ロドイスカ』!13世紀、モンゴル軍の侵攻を受けていたポーランドを舞台に、恋人、ロドイスカを、その後見人であるドゥルリンスキ男爵に囚われてしまったフロレスキ伯爵が、同じく、女性たちを囚われてしまったモンゴル人たち、その首領、ティツィンカンと、敵味方を越えて協力し、ロドイスカを救出するという物語。ロマンス劇が、救出という喫緊を擁して、より劇的に展開され、ロマンティックに盛り上がる!と、そこに、ロマン主義の萌芽が生まれる... そう、『ロドイスカ』はロマン主義の端緒とも言える作品なのかもしれない。序曲からして、すでに一線を画している。
1791年というと、モーツァルトの『魔笛』が初演された年だけれど、『ロドイスカ』の序曲(『魔笛』の序曲のフレーズが聴こえて来る瞬間もあるのだけれど、『ロドイスカ』は、『魔笛』の二ヶ月半前に初演されているということは?)は、すでに19世紀のオペラの風格(8分を越える規模!)を見せて、ワーグナーの初期のオペラの序曲すら思わせるところも... で、幕が上がると、まだまだ古典主義かな、という明快さ、ロッシーニを思わせるキャッチーさに包まれるのだけれど、ジワジワとドラマは白熱!重唱が多用され、コーラスも要所要所で活躍、巧みにソロに絡んで、アンシャン・レジームのナンバー・オペラから踏み込んだ音楽が展開される。一方で、それは、1770年代、パリっ子たちを魅了したグルックの疾風怒濤のリヴァイヴァルにも思えて、とても興味深い。いや、プレ・ロマン主義としての疾風怒濤があって、その延長線上にロマン主義を展開したケルビーニの音楽は、革新的でありながら、極めてフランスの伝統に則っていると言えるのかもしれない。しかし、全体を包む救出劇ならでこその緊張感は、疾風怒涛とはまた一味違う熱量があって、ヴェルディの初期のオペラに通じるような感覚を覚える。2幕の幕開け、ロドイスカのエール(disc.2, track.2)のドラマティックさはまさに!このあたりには、ケルビーニのイタリア人としての熱さが反映されているように思う。しかし、テンションの高い音楽に惹き込まれる!
という『ロドイスカ』を、ライヴ録音で聴かせてくれる、ローレル+ル・セルクル・ドゥ・ラルモニ。ローレルならではの勢いのあるドラマ作りと、それに応え、とにかく活きのいい演奏を繰り広げるル・セルクル・ドゥ・ラルモニ... ライヴ録音ならではの熱さと、フランス・ピリオド界の次世代を担う彼らの若さが、鮮やかにケルビーニの新時代を告げる音楽に共鳴して、圧巻!息つく暇の無くグイグイとドラマを推進し、理屈抜き救出劇から耳が離せなくなる。一方、ロドイスカを歌うマンフリーノ(ソプラノ)が、少し不安定な印象を受けなくもないが、ドラマティックさでは申し分無く... そのロドイスカを救出しに行くフロレスキ伯爵を歌うグーゼ(テノール)の明朗さ、ロドイスカを我がものにしようとするドゥルリンスキ男爵を歌うプリュヴォ(バリトン)のクラッシーな佇まいが印象的。で、そうした歌手たちが織り成す丁々発止のドラマがすばらしい!息の合ったアンサンブルを聴かせる重唱は、聴き所。そして、このオペラに欠かせないのが、コーラス!レザグレマンの熱くも、精緻さを失わない歌声の魅力はこのオペラのスリリングさをますます掻き立てる。そんな演奏と歌があって、際立つケルビーニの音楽のおもしろさ!最後、フィナーレ(disc.2, track.11)の盛り上がりとか、最高!

CHERUBINI Lodoïska
LE CERCLE DE L'HARMONIE LES ELEMENTS JEREMIE RHORER

ケルビーニ : オペラ・コミック 『ロドイスカ』

ロドイスカ : ナタリー・マンフリーノ(ソプラノ)
リィシンカ : ヒョルディス・テボー(ソプラノ)
フロレスキ : ゼバスティアン・グーゼ(テノール)
ティツィカン : フィリップ・ドゥ(テノール)
ヴァルベル : アルマンド・ノゲラ(バリトン)
ドゥルリンスキ : ピエール・イヴ・プリュヴォ(バリトン)
アルタモール : アラン・ビュエ(バス・バリトン)
タタール人/第1の密使 : ピエール・ビルリー(バリトン)
第2の密使 : アントニオ・ギラオ・バルベルデ(バス・バリトン)
タタール人/第3の密使 : シリル・ゴトロー(バス・バリトン)
レゼレマン(合唱)

ジェレミー・ローレル /レ・セルクル・ドゥ・アルモニー

ambroisie/AM 209




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