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フランス革命は過ぎ去って... ルイ16世のためのレクイエム。 [2016]

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フランス革命記念日を切っ掛けに、フランス革命を巡る音楽を聴いて来た今月半ば... 革命歌に反革命歌、革命歌をテーマにした協奏交響曲、革命に翻弄されたピアニスト、革命の波に乗った作曲家... 時代が大きく動く時というのは、泣く人、笑う人、様々である。失ったものも多い一方で、失って芽吹く新たな時代でもあって、フランス革命を改めて見つめると、感慨深い。が、フランス革命は、結局、中途半端に終わる。第一共和政は、大き過ぎる犠牲を払いながらも12年で潰えてしまい、帝政が成立。皇帝による派手な拡大主義は、ヨーロッパ中を戦火で包み、やがて火の粉は自らの身に降り掛かり、結局、王政が復古する。そう、革命による激動の後には、戦争の激動があって、さらに揺り戻しという激動もあったフランス。まるでジェット・コースターのような18世紀から19世紀への世紀の転換... そして、そういう時代を、見事、器用に渡ってみせたのが、ケルビーニ...
エルヴェ・ニケ率いる、ル・コンセール・スピリチュエルの歌と演奏で、王政復古の翌年、1816年、ルイ16世の追悼式で歌われたケルビーニのレクイエム(Alpha/Alpha 251)を聴く。そう、革命の波に乗ってブレイクを果たしたケルビーニは、王政復古でさらなる高みへ!

前回、聴いた、オペラ・コミック『ロドイスカ』によって、一躍、人気作曲家となったがケルビーニ(1760-1842)。風雲急を告げる時代の気分に共鳴するかのような救出劇を題材に、次々とオペラを書き、ヨーロッパ中で評判(かのベートーヴェンも影響を受けました!そうして誕生したのが、御存知、『レオノーレ(フィデリオ)』... )となる。が、ナポレオンが皇帝になると、ちょっと様子が変わって来る。よりイタリアに近いコルシカ島(そもそも、この島がフランス領となるのはフランス革命の19年前、1770年... それ以前は、ジェノヴァ共和国領!)出身だったナポレオンは、フランス・オペラよりイタリア・オペラを好み、お気に入りは、やっぱりナポリ楽派。パイジェッロ(1740-1816)、スポンティーニ(1774-1851)らの音楽を好み、同じくイタリア出身ながら、よりフランス風であったケルビーニの音楽は好まなかったらしい。ということで、ナポレオンが皇帝に即位した翌年、1805年、招待を受け、ウィーンへ!ハイドン筆頭にウィーン楽壇は、大歓迎。そして、救出オペラの開拓者、ケルビーニは、ベートーヴェンの救出オペラ、『レオノーレ』の初演に立ち合う。が、この間、ウィーンはフランス軍に包囲され、間もなく占領(その最中、ハイドンは逝き、ドイツ語で歌われる『レオノーレ』は、フランス人将校たちを相手に初演され、失敗する... )。奇しくも、ケルビーニは、ウィーン楽壇に歓迎されている姿をナポレオンに見出される。そして、再び、パリへ... オペラ作家としては旬を過ぎていたものの、教会音楽に新たな活路を見出し、大家としての道を歩み出す。1815年、ワーテルローの戦いでナポレオンが敗退、ブルボン王家がパリへと帰還すると、まず、ルイ16世の追悼式が企画される。そこで歌われるレクイエムの委嘱を受けたケルビーニ... いざ、フランス楽壇の頂点へ!
という、ルイ16世の思い出に捧げるレクイエム(track.1-7)を聴くのだけれど、激動を生きて来た作曲家の重みのようなものが、ひしひしと伝わって来て、惹き込まれる。その冒頭、入祭唱の、コーラスが歌う沈痛さは、まさに19世紀... アンシャン・レジームの象徴、ルイ16世に捧げられるも、古典主義的な透明感からは完全に脱し、より情感を大切に、語り掛けるように歌われるのが印象的。何と言うか、革命、戦争を目の当たりにし、死への向き合い方の重みが、かつての作曲家たちとは違うのかもしれない。そこから、キリエ、グラドゥアーレ(track.2)が続いてのセクエンツィア(track.3)では、ブラスのファンファーレに始まり、銅鑼の重々しい響きを合図に、ヴェルディのレクイエムを予感させるドラマティックな音楽が展開される。いや、その仰々しさと言うか、オペラティックと言うべきか、よりエモーショナルになったロマン主義の時代の教会音楽の在り方が示されるよう。オペラでもそうだったけれど、ケルビーニの音楽には、18世紀から19世紀への転換点がはっきりと示されている。が、普段、あまり顧みられないケルビーニの存在... 今、改めて、この人の音楽に触れると、18世紀と19世紀の音楽の間にあるミッシング・リンクを見出せるよう。いや、実に興味深い、ルイ16世の思い出に捧げるレクイエム。それでいて、実に魅力的なレクイエム!ピエ・イエズ(track.6)の深くも麗しい音楽には、ベルリオーズを予感させるところがあって、最後、アニュス・デイ(track.7)では、派手ではないものの、何か底知れないようなスケールを感じさせ... 静かに、霧の中に消えて行くような終わり方が、かえってドラマティック。いや、円熟の音楽...
の後で、ケルビーニと同世代、そして、ケルビーニ同様に革命、帝政を巧みに乗り越えた作曲家、プランタード(1764-1839)による、マリー・アントワネットの思い出に捧げる死者のためのミサ(track.8-15)が取り上げられる。いや、霧の中に消えて行くようなルイ16世の思い出に捧げるレクイエムの後で、その霧の中から、スーっとマリー・アントワネットが現れるように始まる入祭唱(track.7)が絶妙!しかし、国王夫妻、対でレクイエムが存在することがおもしろいなと... ちなみに、マリー・アントワネットの思い出に捧げる死者のためのミサは、マリー・アントワネットの死から30年目の追悼式で歌われている。が、作曲は、それ以前のよう... で、ケルビーニに比べると、古典主義的要素を残すプランタードの音楽。より明確に対位法を織り成され、教会音楽の伝統に則るのか、それがまた、ケルビーニとは違う魅力を紡ぎ出していて、魅力的。古典的であることで、より明快で、よりキャッチーでもあって、モーツァルトのレクイエム(1791)に近いイメージもある。一方で、プローズ(track.11)では、先唱で物々しくグレゴリオ聖歌のディエス・イレが歌われ、さらに引用もされ、パワフルな音楽を展開。こうしたあたり、凝ったところを見せるプランタードの音楽... スタイルとしては、ケルビーニに比べ、幾分、腰が引けているものの、より緻密なのが印象的。18世紀仕込みの手堅さが、まだまだ存在感を示す。
そんな、ルイ16世とマリー・アントワネットのためのレクイエムを並べたニケ+ル・コンセール・スピリチュエル。ケルビーニのレクイエムは、まだ取り上げられることはあるものの、プランタードは初めて聴きました!いや、マリー・アントワネットのためのレクイエムもあったのか... そして、一枚のディスクで、国王夫妻を追悼するという... 単に音楽を聴くだけでない、歴史が籠められた一枚と言えるのかも。で、ニケ+ル・コンセール・スピリチュエルも、その歴史に負けない堂々たる音楽を展開して、見事!普段はバロックのイメージが強い彼らだけれど、19世紀も、ロマン主義も、しっかりと聴かせてくれる。ピリオド・アプローチであっても、オーケストラの雄弁さは十二分で、かつ、ピリオドならではの味が、当時の臭いのようなものを引き立て、かえって情感豊かな音楽を織り成すようで、聴き入ってしまう。そして、このアルバムの主役、コーラス!ケルビーニでは、スケールの大きい歌声を聴かせ、プランタードでは、その構築的な音楽をしっかりと捉えつつパワフルに歌い上げる。すると、資料的なレベルを越え、追悼式のための機会音楽という性格も声、よりドラマティックにルイ16世とマリー・アントワネットに迫るようで、響いて来るものが... 大いに魅了される一枚。

CHERUBINI PLANTADE LE CONCERT SPIRITUEL HERVÉ NIQUET

ケルビーニ : レクイエム ハ短調 「ルイ16世の思い出に捧げる」
プランタード : 死者のためのミサ ニ短調 「マリー・アントワネットの思い出に捧げる」

エルヴェ・ニケ/ル・コンセール・スピリチュエル

Alpha/Alpha 251




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