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リヒャルト・シュトラウス、ドイツ・モテット。 [before 2005]

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この間、天気予報を見ていたら、本州中央の尾根筋を軸に、紅く色付く衛星写真が映し出されて、びっくりした。木が、森が、山が紅葉するのではなく、日本列島そのものが紅葉している!そもそも、紅葉って、宇宙からもわかるんだ?!そして、そのスケールの大きさ、紅く色付いた日本の姿に、感慨深いものを感じてしまう。毎年、秋になると、紅くなる日本... 普段、何気なく見つめる紅葉も、その視点を宇宙まで引いて見つめれば、また違ったイメージが浮かび上がる。こういう風に、自在に視点を動かすことができたならば、世の中、いろいろ変わるんじゃないかなと、ふと、そんなことを思う。いや、現代人の視点というのは、かつてよりも、随分と低くなってしまって、足元ばかりにしか及ばない気がする。邪魔なら殺せばいいし、気に食わなければ離脱すればいいし、都合が悪ければ改ざんすればいいし、とりあえず反対しておけばいいし... つくづく、不毛だなと思い知らされる今日この頃。10月は、「癒し系」で、癒されるはずが、今や、癒しどころでなくて、厭世です(遠い目... )。はぁ...
そんな厭世気分に、最適?美しきリヒャルト・シュトラウスのア・カペラ!シュテファン・パルクマンが率いたデンマーク国立放送合唱団による、リヒャルト・シュトラウスの無伴奏合唱のための作品集(CHANDOS/CHAN 9223)を聴く。いや、やっぱり癒される。

リヒャルト・シュトラウスの人生がとにかく絶好調だった頃、交響詩「英雄の生涯」(1898)を書き上げる前年、1897年の作品、無伴奏合唱のための2つの歌(track.1, 2)に、第1次大戦が始まる前の年、1913年の作品、ドイツ・モテット(track.3)。ナチス支配が確立(1933)されて間もない頃、ユダヤ系の台本作家、ツヴァイクとの仕事(オペラ『無口な女』... )を押し通し、蟄居状態となってしまった1935年の作品、「化粧室の中の女神」(track.4)。第2次大戦、真っ最中の1943年、オペラ『ダフネ』の最後のシーンをア・カペラにアレンジしたダフネのエピローグ(track.5)の4作品を取り上げるパルクマン。それは、リヒャルトの音楽人生をア・カペラで綴るようで、おもしろい。いや、湯中りしそうないつものオーケストレーションから離れ、澄んだア・カペラでリヒャルトの歩んだ道を辿れることは、なかなか興味深い。また、辿れるだけのア・カペラの作品を残していたことに、意外な印象も... 普段、リヒャルト・シュトラウスの合唱作品なんて、あまり目立たない(やっぱり、リヒャルトと言えば分厚いオーケストレーションを施された交響詩であり、オペラの数々!)だけに、リヒャルトが、その音楽人生の様々な時期に、ア・カペラの作品を残していたことが、とても新鮮に感じられる。裏を返せば、オーケストレーションお化け、リヒャルトは、ア・カペラの澄んだ響きに、常に関心を持っていた?ア・カペラには、文字通りカペラ=礼拝堂における聖歌のストイックなイメージがある。一方で、オーケストラではあり得ない均質なサウンドと、思いの外、万能な人の声の可能性が広がっている。リヒャルトは、そうしたア・カペラの特性を見出していたように思う。
始まりの2つの歌、その1曲目、「夕べ」... ソプラノの「アーっ」という高音が静かに響く中(その部分だけを聴けば、リゲティ!)、歌いだされる夕べの情景の鮮やかなこと!人の声が持つヴィヴィットさを見事に織り成して、夕暮れの鮮やかな色彩を表現する。詩を歌うことよりも、太陽が沈む空の変化を、どう音響に置き換えるか?リヒャルトの好奇心のベクトルが、どういう方向に向いていたか、ビンビン伝わって来る音楽。19世紀の作品ながら、その声への向き合い方は、とても現代的に感じられる。とはいえ、やっぱりそこはリヒャルト・シュトラウス、ロマンティックであって、陶酔するようで... いや、声の持つ可能性とクールに向き合って、何か夢見るように夕べを描き出すわけです。それはもう、絶景!続く、2曲目、「賛歌」(track.2)は、オーケストレーションお化けらしく、16声部を得意気に綾なして(何だか、ルネサンス・ポリフォニーのような印象も... )、オーケストラで聴かせてくれるキラキラしたサウンドを、ア・カペラで繰り出す。で、このアルバムの核となる作品、4人のソロと、16声のコーラスによるドイツ・モテット(track.3)!ア・カペラのはずが、まるでオーケストラを聴くような重厚さ... 例えば、『ばらの騎士』のフィナーレ、リヒャルトの音楽でも白眉と言える三重唱を、オーケストラも含めて全てア・カペラで歌ったなら?そんなイメージ... 愉悦の極みのソロに、美しい色彩を重ねたコーラスが、夢見るような音楽を出現させ、"美"がうねります。うねって、聴く者を呑み込みます。そのあまりの甘美さに、眩暈を起こしそう...
という、リヒャルトの隠れた名作... リヒャルトの特性を炙り出すようでもある無伴奏合唱のための作品を聴かせてくれる、パルクマン、デンマーク国立放送合唱団。北欧らしいクリアさがありつつ、仄暗いデンマークの性格(マッチ売りの少女の国... )が反映されるのか、リヒャルトのロマン主義の濃密さをそのままに、ヘヴィーに響かせもして、ただ美しいだけでない迫力も生まれる。なればこそ、リヒャルトならではの陶酔感も強まり、よりブルーミンで、よりドリーミン... いや、とにかく、その"美"に圧倒される。けれど、この"美"を歌い上げるのは、間違いなく至難の業。何しろ、16声部... でもって、リヒャルトだけに、単純にハーモニーを織り成すばかりではなく... それでも、ナチュラルに歌い紡ぎ、密度を持った"美"を響かせてしまうから凄い。裏を返せば、なぜこれらの隠れた名作が、隠れたままなのかを思い知らされもする。例えば、ドイツ・モテット(track.3)、ソロを4人も揃えなくてはならない大作であって、その4人も、高いレベルにないと、ア・カペラのコーラスを相手に悪目立ちしてしまうのは明らか... そんなことを考えると、やたらめったらには歌えないレパートリー... けど、それほどのハードルを課すからこそ生まれる"美"であって、パルクマン、デンマーク国立放送合唱団、そして、ソリストたちの見事なパフォーマンスには、感服するばかり... しかし、リヒャルトのア・カペラが生む"美"に触れると、世事の煩わしさを完全に忘れさせてくれる!ある意味、アヘンのような音楽?ちょっと危険?

STRAUSS, R.: A Cappella Choral Works ・ Danish National Radio Choir / Parkman

リヒャルト・シュトラウス : 2つの歌 Op.34
リヒャルト・シュトラウス : ドイツ・モテット Op.62 ****
リヒャルト・シュトラウス : 化粧室の中の女神 *
リヒャルト・シュトラウス : ダフネのエピローグ *

ティナ・キルベア(ソプラノ) *
ランディ・ステーネ(アルト) *
ゲルト・ヘニング・イェンセン(テノール) *
ウルリク・コルド(バス) *
デンマーク国立放送室内合唱団 *
コペンハーゲン少年合唱団 *
シュテファン・パルクマン/デンマーク国立放送合唱団

CHANDOS/CHAN 9223




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