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ブルックナー、3番のミサ。 [2008]

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希代のシンフォニスト、ブルックナー(1824-96)が、交響曲を書き始めるのは40代に入ってから... という事実を、改めて見つめてみると、ちょっと驚かされる。地方で地道に音楽を学んで来たブルックナーは、中央の音楽エリートたちとは少し違ったコースで交響曲に辿り着いたわけだ。1837年、12歳の時、由緒正しい聖フローリアン修道院の聖歌隊に参加し、修道院のオルガニスト、カッティンガーの下でオルガンを学び始めると、めきめきと才能を伸ばし、カッティンガーの助手を務めるまでに... その後、父と同じ小学校の教師を志し、2つの小さな村で助教師を勤めてから、1845年、21歳の時に修道院の御膝元、ザンクト・フローリアンの小学校に着任。それを切っ掛けに、修道院の補助オルガニストとなり、以後、1868年、44歳の時、ウィーン音楽院の教授となり、ウィーンに移るまで、20年以上もの間、教会が、音楽家、ブルックナーの主な仕事場となる。
ということで、ウィーンに移る年に書き上げられた、教会での仕事の集大成... フィリップ・ヘレヴェッヘ率いるシャンゼリゼ管弦楽団の演奏、インゲラ・ブーリーン(ソプラノ)、インゲボルク・ダンツ(アルト)、ハンス・イェルク・マンメル(テノール)、アルフレッド・ライター(バス)、RIAS室内合唱団の歌で、ブルックナーの3番のミサ(harmonia mundi/HMC 901976)を聴く。

音楽家、ブルックナーは、聖フローリアン修道院が育てたと言える。父の葬儀の日に修道院に預けられ、理解あるアルネート修道院長、オルガンの師、カッティンガーらの庇護の下、オルガニストとして才能を開花させたブルックナーは、1850年、カッティンガーの後任として修道院のオルガニスト(正式には1851年... )となる。オルガンを弾き、教会のための音楽を書き... 何だか、それは、18世紀の作曲家のようなイメージ。でもって、18世紀の宮仕えの作曲家たちのように、音楽に理解がないだとか、待遇がどうだとか、いろいろ愚痴もこぼしている。いつの時代も、教会という場所は保守的であって、ブルックナーも何かと煩わされていたよう。そうした中、1855年、ウィーン、グラーツに次ぐ、オーストリア、第3の都市、リンツの大聖堂のオルガニストのポストを獲得(正式には1856年... )。かつてモーツァルトが交響曲を書いた街は、首都、ウィーンには及ばないまでも、十分に豊かな文化が醸成されており、ブルックナーは様々な刺激を受けることになる。男声合唱団、フロージンに参加し、合唱指揮者を務めたり、ウィーン音楽院の教授、ゼヒターから和声と対位法のレッスンを受けたり、リンツの劇場の指揮者、キツラーから管弦楽法を学び、ワーグナーの新しい音楽を紹介されたり、何より、1866年、42歳にして、1番の交響曲が作曲される!そんなリンツ時代の最後を飾る作品が、ここで聴く3番のミサ。
始まりのキリエ、冒頭の仄暗さは、モーツァルトのレクイエムを思い起こさせ、響きの深みは、ベートーヴェンのミサを思わせるのか... 思いの外、ウィーン古典派からの流れを感じるその音楽... 教会音楽は、いつの時代も伝統を重んじるのが流儀、それがブルックナーにもまた当てはまる。グローリア(track.2)の後半のフーガなどは、まさに教会仕込みの古典的な威風に彩られて、見事!もちろん、シンフォニスト、ブルックナーらしさも、随所に響いていて、ブルックナーの交響曲の形が、すでにミサの中に表れる。でもって、そのことが、とても興味深い。ブルックナーの交響曲を歌う感覚?いや、ミサこそが、交響曲に変容したというべきなのかもしれない。オルガニストからシンフォニストへと進化を遂げる瞬間を捉える3番のミサであって、そういう音楽に触れてみると、ブルックナーの交響曲が、如何に教会的な響きを持っているかを思い知らされる(18世紀の教会交響曲の延長線上にあるのかも... )。一方で、人の声で歌われるブルックナーの音楽のやわらかさが印象的... 最後、アニュス・デイ(track.6)の、やわらかな声がハーモニーを積み上げて生まれる天上的な明るさは、交響曲では味わえない安らぎに充ち満ちていて、癒される。いや、ブルックナーって、何てピュアな人なのだろう。
というブルックナーを聴かせてくれたヘレヴェッヘ... シャンゼリゼ管との交響曲もすばらしかったけれど、ミサはより惹き込まれるものがある。ピリオド界を代表するマエストロがブルックナーを取り上げると、その音楽の古風さがありのままに響くようで、実に興味深く、そして、このミサでは、作曲家のコアな部分へと降りて行くような感覚があって... 曲が進むに連れ、ブルックナーのこどもの頃に還るような... 壮麗な聖フローリアン修道院、そこでの日々、そこに響いていた古い教会音楽... そんなイメージを喚起するヘレヴェッヘ。すると、ブルックナーのイノセンスさが引き出され、交響曲とは違う気持ちで、その音楽と向き合える気がする。その原動力となるのが、RIAS室内合唱団!ドイツの室内合唱ならではの精緻さはもちろんなのだけれど、その精緻さに、それとなく温もりが籠められていて、ブルックナーの音楽を、内側から光を当てるような、明るくやわらかいトーンが印象的。このトーンが、ブルックナーをやさしく包むと、「ブルックナー」というイメージから音楽を解き放ち、やがて、聴く者も包み、何か、大きな癒しをもたらす。そんな音楽が、愛おしい!

BRUCKNER F-MOLL MESSE HERREWEGHE

ブルックナー : ミサ 第3番 ヘ短調

インゲラ・ブーリーン(ソプラノ)
インゲボルク・ダンツ(アルト)
ハンス・イェルク・マンメル(テノール)
アルフレッド・ライター(バス)
RIAS室内合唱団
フィリップ・ヘレヴェッヘ/シャンゼリゼ管弦楽団

harmonia mundi/HMC 901976




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