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スカルラッティを、ピアノで、弾く。 [before 2005]

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クープランのクラヴサン曲集を、ピアノで奏でると、クープランの音楽は丸裸にされるようで、ちょっとハラハラさせられる。クラヴサンならば、十分に充たされていたサウンドも、より万能なピアノで捉えると、どこか物足りない?かと思うと、クラヴサン独特の音響によってぼんやりとしていた対位法は、クリアに展開され、刺激的!情緒的ばかりでないクープランの聴き応えが、新鮮。いや、良くも悪くも、ピアノというマシーンの前では、偽ることができないのだなと... いつものように、ピアノのための作品を、ピアノで聴いていてはわからない感覚が、実に興味深く、今さらながらに、ピアノの凄さを思い知らされる。一方で、チェンバロとピアノの間にいた作曲家の音楽はどうだろう?クープランの17歳年下となるバッハは、ピアノのための作品は書いていないものの、ピアノを弾く経験をしている。で、その経験は、鍵盤楽器のための作品を書く上で、某か作用しているように感じる。ピアノのために最初の作品を書いたジュスティーニは、バッハと同い年。そのピアノのための12のソナタは、明らかにピアノのための音楽であることを意識させられる。それから、もうひとり同い年の作曲家、ドメニコ・スカルラッティは...
ということで、バッハよりも早くピアノに触れていたかもしれない、ジュスティーニより早くピアノで弾くことを意識した作品を書いていたかもしれない、ドメニコ・スカルラッティに注目。鬼才、イーヴォ・ポゴレリチの演奏で、ドメニコ・スカルラッティのソナタ(Deutsche Grammophon/435 855-2)。ピアノによるクープランに続いての、ピアノによるスカルラッティを聴いてみる。

バッハ(1685-1750)、ヘンデル(1685-1759)と、同い年のドメニコ・スカルラッティ(1685-1757)。なのだけれど、そのソナタを聴いていると、バッハ、ヘンデルよりも後の時代の音楽を聴いているような感覚を覚えることがある。この、ドメニコの、盛期バロックの一歩先を行くような感覚は、どこから来るのだろう?と考えてみて、ふと思い至ったのが、ピアノの存在... ナポリで生まれ育ったドメニコは、1702年、17歳の時に、父、アレッサンドロ(1660-1725)に連れられて、フィレンツェの宮廷を訪れている。それは、ちょうど、フィレンツェの宮廷の楽器職人、クリストフォリ(1655-1731)が、ピアノを発明した頃で... スカルラッティ親子は、ピアノに触れる機会があったのか、無かったのか、そのあたり、よくわからないようだけれど、なかなか興味深いトピックだと思う。さて、その後、ドメニコは、修行時代を経て、ヨーロッパ切っての音楽都市となっていた、聖都、ローマでブレイク。ヘンデルと鍵盤楽器対決を繰り広げたりと、注目を集めた後、1719年、ポルトガル王家の招聘を受け、リスボンへ... そこで、音楽の才能に秀でた王女、マリア・バルバラ(後にスペイン王妃となり、ドメニコも、リスボンからマドリードへと移ることになる... )の音楽教師を務め、数々の鍵盤楽器のためのソナタが生まれることになる。で、注目すべきは、この王女様の鍵盤楽器のコレクション!爪付きのクラヴィーア、つまりチェンバロの他に、5台ものハンマー付きのクララヴィーア、つまりピアノを所有していたことがわかっており、ドメニコは、間違いなく、そのピアノを弾き、そのピアノを含めて、王女のために鍵盤楽器のためのソナタを書いていたのだろう。今、改めて、ピアノでドメニコ・スカルラッティのソナタを聴いてみると、何か、凄くしっくりと来るものを感じる。それは、ピアノでクープランを聴く感覚とは一味違うもの... チェンバロに対してモダンな楽器であるピアノの、マシーンとしての万能性を織り込んだ音楽なのだろう。だから、おのずと盛期バロックの一歩先を行くような感覚が生まれるのかもしれない。
ということで、鬼才、ポゴレリチのピアノで、ドメニコ・スカルラッティのソナタを聴くのだけれど... まず、鬼才ならではのタッチに魅了される!軽やかなのだけれど、どこか武骨に感じられるところもあり、そうしたあたりが、一音一音に重みを生み、それぞれのソナタに、独特な存在感を与える。わずか数分の短いソナタ、それも、王女のための練習曲のような性格を持ったソナタだけに、シンプル。さらりと聴き流せてしまうところもある音楽なのだけれど、さらりと弾かずに、少し不器用に向き合って、朴訥と響かせ、ピアノのマシーンとしての万能性を活かさないような素振りを見せるのか... けれど、そうすることで、かえってピアノの確固たるサウンドは際立ち、おもしろい。いや、改めてピアノの魅力を再確認させられる。何より、ドメニコの音楽が見事にピアノに乗って、雄弁に鳴り、魅せられる!いや、このソナタは、ピアノあってこそのソナタだと確信できるほどの雄弁さに、今さらながら、圧倒される。そんな音楽を紡ぎ出す、ポゴレリチ... 間違いなくシンプルなのだけれど、それでも確かな対位法を籠めつつ、節度を以ってセンスとしてのライトさを失わず、確かな音楽を紡ぎ出す、ドメニコの希有なバランス感覚... ポゴレリチのタッチは、それを鮮やかに引き出していて、見事。いや、そこにこそ焦点を合わせるのか?すると、ドメニコの音楽がどう形成されたのか、その背景までが浮かび上がって来るようで、興味深い。
ドメニコが生まれ育ったナポリの空気感... やがてナポリ楽派も大輪の花を咲かせる南の気質というのか、ロジカルな北とは違うライトさがあって... 一方で、ドメニコがブレイクを果たすローマのアカデミックさも... パレストリーナの伝統を受け継ぐローマ楽派の教会音楽が育んだ対位法と、器楽曲に革新をもたらしたヴァイオリンのヴィルトゥオーゾ、コレッリによる機能的な対位法をしっかりと鍵盤上に落とし込み、それらを明快に繰り出して、それまでのバロックとは違う次元へとジャンプする。そのジャンプを実現させるバネになったのが、フィレンツェの、マリア・バルバラのピアノ... そうして、ジャンプした先に見えて来るのが、モーツァルトであり、ベートーヴェンであり、古典主義の風景。改めて、ドメニコ・スカルラッティの音楽に触れると、その希有な音楽性に驚かされる。それは、音楽史の流れからは浮遊して存在しているようで、不思議。

SCARLTTI: SONATEN
IVO POGORELICH


ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ ホ長調 K.20
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ ホ長調 K.135
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ ニ短調 K.9
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ ニ長調 K.119
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ ニ短調 K.1
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ ロ短調 K.87
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ ホ短調 K.98
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ ト長調 K.13
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ ト短調 K.8
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ ハ短調 K.11
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ ト短調 K.450
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ ハ長調 K.159
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ ハ長調 K.487
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ 変ロ長調 K.529
ドメニコ・スカルラッティ : ソナタ ホ長調 K.380

イーヴォ・ポゴレリチ(ピアノ)

Deutsche Grammophon/435 855-2




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