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壮麗なるイギリス音楽史で織り成されるジョージ2世の戴冠式。 [before 2005]

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1711年、24歳の時、初めてロンドンを訪れたヘンデルは、オペラ『リナルド』で、センセーショナルなデビューを飾り、早速、ロンドンっ子たちを魅了。一端、ドイツに戻るも、翌年には再びロンドンへ!以後、ロンドンの音楽シーンの中心で活躍することになる。という、ヘンデルのロンドン時代は、とにかくシャカリキになってイタリア・オペラを生み出したというイメージ(でもって、疲れてしまって、オラトリオに移行... )があるのだけれど、そんな厳しいロンドンの音楽シーンの一方で、変わらず上得意だったのがイギリス王室!アン女王の誕生日のためのオード(1713)、キャロライン王太子妃のためのキャロライン・テ・デウム(1714)、ジョージ1世のための『水上の音楽』(1717)などなど、ヘンデルの音楽に魅了された歴代のイギリス国王、ロイヤル・ファミリーによる委嘱が、祝祭でも存分に力を発揮したヘンデルの才能を今に伝える。そして、イギリス王室、最大の祝祭が、戴冠式!
ということで、1727年、ジョージ2世の戴冠式を忠実に再現(よって、ヘンデルばかりではない... )する、興味深い2枚組... ロバート・キングの指揮、キングス・コンソートの歌と演奏で、"The Coronation of King George II"(hyperion/CDA 67286)を聴く。

まずは、ウェストミンスター寺院の鐘から始まる、"The Coronation of King George II"。いや、これは、本当に、戴冠式を丸々再現しようとしている... で、戴冠式の始まりを告げる鐘の後には、トランペットによるファンファーレ(disc.1, track.2)、鼓隊の勇壮な入場(disc.1, track.3)、そして、万歳(disc.1, track.4)!で、もう一度、ファンファーレ(disc.1, track.5)... "The Preparation"、準備と題された最初のパートは、厳粛というより、中世を思わせる素朴さというか、荒々しさが響き渡り、独特な緊張感を生み出す。が、聖歌隊により、17世紀、王室礼拝堂=チャペル・ロイヤルの聖歌隊員=ジェントルマンとして多くのアンセムを残したウィリアム・チャイルド(1606-97)の「おお主よ、偉大なる王が末永くあらんと」(disc.1, track.6)をア・カペラで歌い出すと、中世を思わせる厳めしさは氷解し、ルネサンスのやわらかさに包まれ... たところで、登場するヘンデル!"The Procession"、行列(disc.1, track.7)では、まさに盛期バロックの華麗なる音楽が寺院を充たし、参列者を、そして聴く者を、ワクワクさせながら寺院に招き入れる。すると、古雅な雰囲気に包まれたパーセル(1659-95)による「かれらのいいたる時、我は喜ぶ」(disc.1, track.8)が歌われる中、主役、ジョージ2世が入場。そうして始まる戴冠式、"The Recognition"、承認(disc.1, track.9-13)を経て、タリス(ca.1505-85)の「おお、神よ、天国の父よ」(disc.1, track.14)による、厳かな"The Litany"、連祷があり、エリザベス朝で活躍したイングリッシュ・マドリガルの作曲家、ジョン・ファーマー(ca.1570-ca.1601)による「来たれ聖霊よ」(disc.1, track.15)を、戴冠式に集った会衆、つまり素人が歌う、ほのぼのとした表情で始まる"The Anointing"、聖別...
そうして、この戴冠式、一番の聴かせ所、ヘンデルの戴冠式アンセム(disc.1, track.16)が響き出す。ひたひたと聴く者の期待を募らせる序奏の後で、まるで朝日が昇るように輝かしいコーラス!盛期バロックならではの華麗さと、戴冠式なればこその輝かしさに充ち溢れ、もう、唸ってしまうほど、盛り上げてくれる。また、そこに至るまでの、イギリス・ルネサンスの清廉さ、ヘンデル以前のイギリス・バロックの古雅さがあって、より際立つ華麗さであり、輝かしさ... ヘンデルの書き下ろしで全てを彩らないからこそ生まれる豊かな表情は、この戴冠式の大いなる魅力。それはまた、イギリス音楽そのものの豊かさを物語るものでもあって... タリスに、ギボンズら、さらに、ブロウに、パーセルと、まるでイギリス音楽史のカタログのように展開。で、それら先人たちの音楽を聴いて、ヘンデルを聴くと、イタリア仕込みのドイツ人の音楽にも、イギリス音楽の伝統が受け継がれていることが感じられ、また、受け継いで響く音楽には、後のオラトリオの在り様がしっかりと表れていて、実に興味深い。しかし、何てゴージャスな戴冠式なのだろう。下手なコンサートより、ずっとヴァラエティに富み、惹き込まれるばかり... でもって、ヘンデルに負けていない、イギリスの先人たち!特に、後半=2枚目は、より充実した音楽が並び、ギボンズ(1583-1625)のテ・デウム(disc.2, track.9)、ブロウ(1649-1708)の「神は幻によって語る」(disc.2, track.11)の聴き応えは、なかなかのもの。音楽的な深みは、こちらの方が一枚上かも?大いに魅了される。
というジョージ2世の戴冠式を、今に蘇らせたキングの指揮、キングス・コンソートの歌と演奏。それは、残された式次第を再現するという、資料的な次元を遥かに越えて臨場感を生み、実際に戴冠式に参加しているような、そんな感覚さえ覚えるほど... ウェストミンスター寺院の空間が感じられる中、様々な音楽が小気味良く繰り出され、イギリスの音楽の厳粛さ、ヘンデルの音楽のドラマティックさが絶妙に織り成されて、見事!いや、ルネサンスからバロックまで、幅広い音楽をひとつにまとめるのは、なかなか難しいことだと思う。が、それを感じさせないキングス・コンソート。作曲家たち、それぞれの個性がナチュラルに引き立てられ、また、それぞれのテイストが引き立て合い、見事な流れを紡ぎ出す。そうして浮かび上がる、イギリスの音楽がヘンデルの音楽へと流れ込み、また新たな時代の音楽へとつながる姿... 戴冠式という一瞬を切り取りながら、音楽史の大きな流れをその一瞬に籠められる、おもしろさ。何だか魔法のようでもある。

THE CORONATION OF KING GEORGE II
CHOIR OF THE KING'S CONSORT ・ THE KING'S CONSORT / ROBERT KING


ジョージ2世の戴冠式

ロバート・キング/キングス・コンソート

hyperion/CDA 67286




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