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ライプツィヒ・サウンド。メンデルスゾーンから、ゲーゼへ... [before 2005]

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モーツァルトが世を去って(1791)、ベートーヴェンがウィーンにやって来て(1792)、ナポレオンが去って(1815年、セント・ヘレナ島へ配流... )、ロッシーニがやって来て(1813年、ヴェネツィアにてブレイク!)... 18世紀末から19世紀初頭の音楽を俯瞰して来たこの5月。激動の時代の音楽を、激動の時代の音楽として改めて捉えると、時代のうつろいが浮かび上がり、興味深くも、感慨深い。嗚呼、音楽って、単に鳴っているのではなくて、世界と共鳴しているんだなと、感じ入ってしまった。でもって、さらにその先へ、ロマン主義へと踏み込む。1825年、16歳のメンデルスゾーンによる、驚くべき弦楽八重奏曲から、そのメンデルスゾーンが引き立てた、今年、生誕200年のメモリアルを迎えるデンマークの作曲家、ゲーゼの1848年に作曲された弦楽八重奏曲...
アンナー・ビルスマ(チェロ)ら、ピリオドの雄が結集したラルキブデッリと、スミソニアン博物館所蔵の楽器を用いる異色のピリオド・アンサンブル、スミソニアン・チェンバー・プレイヤーズのジョイントで、メンデルスゾーンとゲーゼ、ちょっと珍しい組合せで聴く、弦楽八重奏曲集(SONY CLASSICAL/SK 48307)。少し駆け足で、ロマン主義の盛り上がりを辿ってみる。

はぁ~ メンデルスゾーンの弦楽八重奏曲(track.1-4)、何て瑞々しいんだろう。そして、ナチュラル... 動乱の時代の力の籠った音楽、保守反動の時代の閉塞感を麻痺させるような眩しい音楽に触れた後に聴くと、その素直な佇まいに、時代が抱えていた苦悩が氷解して行くよう。それは、天才、メンデルスゾーン、16歳のピュアな感性ならではのもの... 一方で、その音楽、とても16歳とは思えない充実ぶり!古き良き古典主義の端正さ、緻密さを事も無げに織り成しながら、ロマン主義ならではの流麗さを滔々と繰り出して来る。あらゆる瞬間で、8つの弦楽器が水際立った鮮烈なサウンドを発し、突き抜けて若々しいのに、構築される音楽は熟練したものを感じさせ、巨匠然とした雰囲気すらある。何より、伝統(古典主義)と、革新(ロマン主義)が、驚くほど高次元で融合されていて、折衷的、過渡的なところが一切無い。いや、何者でもないメンデルスゾーンに圧倒される!そんなメンデルスゾーンの後で取り上げられるのが、メンデルスゾーンの引き立てで、ブレイクを果たしたゲーゼ...

ニルス・ゲーゼ(1817-90)。
デンマークを代表する作曲家のひとりで、デンマークの音楽の礎とも言える存在。その影響は、デンマークを越えて、北欧全体に広がり、北欧における国民楽派の原点に... と、北欧の音楽史において、欠かせない存在のはずなのだけれど、普段のクラシックからすると、かなり地味なのが残念!ということで注目する、生誕200年のメモリアルを迎えるゲーゼなのだけれど... ナポレオンが去って間もない頃、ロッシーニがノリにノっていて、ベートーヴェンが健康だの家族だので頭を抱えていた頃、1817年、コペンハーゲンで生まれたゲーゼ。音楽好きが高じて、家具職人から楽器職人になった父の下、けして裕福ではなかったものの、音楽的な環境には恵まれ、早くから才能を開花。16歳でヴァイオリニストとしてデビューし、デンマーク王立管弦楽団の一員に加わると、作曲も学び始め、まだまだ初々しかったドイツ・ロマン主義に強い影響を受けながら、作品を発表するまでに... そして、1840年、作品番号1番が付された序曲「オシアンの余韻」で、コペンハーゲン音楽協会のコンクールに入賞。注目を集めるも、2年後に作曲された1番の交響曲は、コペンハーゲンでの演奏を拒否されてしまう。そこで、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の首席指揮者、メンデルスゾーンの元にスコアを送ると、絶賛!1番の交響曲は、1843年、ライプツィヒで初演され、大成功!これを切っ掛けにゲヴァントハウス管の副指揮者に就任、メンデルスゾーンの右腕としてライプッイヒで活躍。1847年、メンデルスゾーンが38歳の若さで世を去ると、その首席指揮者のポストを引き継ぐのだったが、1848年、デンマークとプロイセンの間でシュレスヴィヒ・ホルシュタイン戦争が勃発、ライプツィヒはプロイセン領ではなかったものの、ゲーゼはデンマークに帰国することを余儀なくされる。
という、ゲーゼのライプツィヒ時代、最後に作曲されたのが、ここで聴く弦楽八重奏曲(track.5-8)。いや、メンデルスゾーンに比べると、しっかりとロマン主義が流れ出していて、冒頭から得も言えずメロディアス!それは、19世紀も半ばの作品、当然ながらロマン主義も深まっていたわけだけれど、メンデルスゾーンの弦楽八重奏曲の終楽章(track.4)の確固たるサウンドの後で、麗しいメロディーが流れ出すと、思い掛けなさがあって、はっとさせられる。音楽を構築するよりも歌うことに力点が置かれ、よりドラマティックな展開を生むゲーゼの弦楽八重奏曲... 恩師、メンデルスゾーンの音楽性を受け継ぎながらも、より味わいを含んだロマンティックで彩るのか... その味わいに、デンマークの作曲家、ゲーゼの音楽性を見出せる気がする。ライプツィヒに来る前は、国民楽派を予感させる北欧に根差したトーンを帯びていたその音楽、メンデルスゾーンの下で仕事をし、ドイツ・ロマン主義を自らのものとしたゲーゼなのだけれど、やっぱりドイツとは一味違う感性を持っているのだろう。それでいて、時代を経ての、メンデルスゾーンとはまた違うベクトルの魅力を存分に楽しませてくれて、惹き込まれる!
という、メンデルスゾーンとゲーゼを鮮やかに、そして瑞々しく聴かせてくれるラルキブデッリ、スミソニアン・チェンバー・プレイヤーズの面々... ピリオド・アンサンブルならではのすっきりとしたサウンドと、なればこその緻密なアンサンブルが生み出す鮮烈さ!それはもう、息を呑むばかり... 若さ漲るメンデルスゾーン(track.1-4)では、スピード感を削がずに、丁寧に表情が付けられ、ロマン主義の黎明をより活き活きと描き出し、一方のゲーゼ(track.5-8)では、ありのままを素直に捉えて、メロディーを活かしながらナチュラルな流れを作り、ロマン主義というムーヴメントが持つ本来の瑞々しさを際立たせる。そうすることで、メンデルスゾーンからゲーゼへというつながりがしっかりと示され、ライプツィヒ・サウンドのようなものを炙り出すのか... で、これがたまらなく爽快!爽快なのだけれど、その中には、様々な感情も含まれていて、豊潤でもある。ピリオドならではの明晰さと味わいが、絶妙に作用して、思いの外、魅惑的な音楽世界が現れる。

MENDELSSOHN, GADE: OCTETS FOR STRINGS L'ARCHIBUDELLI / SMITHSONIAN CHAMBER

メンデルスゾーン : 弦楽八重奏曲 変ホ長調 Op.20
ゲーゼ : 弦楽八重奏曲 ヘ長調 Op.17

ラルキブデッリ & スミソニアン・チェンバー・プレイヤーズ
ヴェラ・ベス(ヴァイオリン)
ジョディ・ガットウッド(ヴァイオリン)
リサ・ラウテンバーグ(ヴァイオリン)
ヘイス・ベス(ヴァイオリン)
スティーヴン・ダン(ヴィオラ)
デイヴィッド・セルッティ(ヴィオラ)
アンナー・ビルスマ(チェロ)
ケネス・スロウィック(チェロ)

SONY CLASSICAL/SK 48307




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