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ニールセン、大きなストーリーを生み出す、6つの交響曲。 [2015]

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今年は、グリーグ、ニールセンの師である、デンマークの作曲家、ゲーゼの生誕200年のメモリアル!ということで、メンデルスゾーンと一緒に聴いた前回... メンデルスゾーンの引き立てにより、ライプツィヒで活躍を始めるゲーゼ、そこで多くを吸収し、間もなく、母国、デンマークへ、ドイツ・ロマン主義を持ち帰り、やがて、北欧の音楽を開花させるグリーグ、独特な個性を育んだニールセンら、新たな世代家を育てるわけだけれど、北欧の音楽の瑞々しさが、ゲーゼによって持ち込まれたメンデルスゾーンのセンスを源とすると、何だか腑に落ちるものがある。それでいて、メンデルスゾーンの透明感こそ、北欧の澄んだ空気感に合っている気がして来る。というメンデルスゾーンからゲーゼへ、というラインを意識しながら、ゲーゼ、晩年の教え子、ニールセンを見つめる。
19世紀前半、若々しかったロマン主義から、時代を一気に下り、ロマン主義、最終章、19世紀末、20世紀前半へ... パーヴォ・ヤルヴィが率いたhr交響楽団の演奏による、ニールセンの交響曲全集、3枚組(RCA RED SEAL/88875178802)を聴く。

デンマークというと、レゴのカラフルさや、フライング・タイガーのポップさが、最近のイメージかもしれないけれど、やっぱり人魚姫(アンデルセン)の国であり、人形の家(イプセン)の国である。他の北欧の国とは一味違う仄暗さが漂うような... で、ニールセンにも何となく、そういうデンマークのトーンを感じていたのだけれど、改めて、ニールセンの全6曲の交響曲を一気に聴いてみると、また違ったイメージが浮かんで来るよう... それは、デンマークというより、ニールセンその人の育った環境が生み出す、より豊かなストーリーだろうか?首都、コペンハーゲンがあるシェラン島と、ヨーロッパ大陸から突き出ているユトランド半島の間、フュン島の貧しい小作農の家に生まれたニールセン。貧しいながらも、ヴァイオリン弾きもしていた父と、歌が上手く機知に富んだ母、3人の姉たち、3人の兄たち、2人の弟に、3人の妹たちと、全部で14人家族、小さな家で、賑やかに育った。もちろん恵まれた環境ではなかったものの、一生懸命に働き、きちんと生活し、思いの外、心豊かなこども時代を過ごす中、ヴァイオリン弾きの父にヴァイオリンを習い、きちんとした音楽教育を受ける前、父や兄たちとともに、結婚式などで演奏し、この経験が、後のニールセンの音楽に大きな影響を与えているように感じる。人々の生活に寄り添った音楽の味わい深さが、アカデミックな場所で活躍するようになってからも、某かのストーリーとなって流れ出す。
そんなイメージを喚起する、パーヴォ、hr響の演奏。パーヴォらしい明晰さを以って繰り出されるニールセンの6つの交響曲は、これまでのイメージをさらりと洗い流して、極めてニュートラルな場所で音楽を展開... どこか飄々としながら、新しい音楽を紡ぎ出す。1892年、ニールセン、27歳の時に完成した1番(disc.1, track.1-4)に始まり、20世紀に入って間もなくの1902年、2番、「4つの気質」(disc.1, track.5-8)、『春の祭典』の2年前、1911年の3番、「広がり」(disc.2, track.1-4)、第1次大戦中、1916年の4番、「滅ぼし得ざるもの」(disc.2, track.5-8)、第1次大戦の記憶が窺える1922年の5番(disc.3, track1-4)、そして、晩年の1925年、6番、「シンフォニア・センプリーチェ」(disc.3, track.5-8)。作曲家の歩みを辿る6つの交響曲なのだけれど、時代背景、作曲家としての成長、深化は、ことさら強調されることはなく、ひとつひとつの作品は磨かれ、そっと並べられているような全6曲... 番号順=年代順には並べられているものの、そこからニールセンの生涯を炙り出そうなんて力の入ったことはせず、よりシンプルに響かせているのが印象深い。すると、デンマークとか、ロマン主義とか、そういう枠組みは、ふと忘れ、音楽そのものと向き合うことを促されるような... いや、これこそ、パーヴォ!かつてのベートーヴェンの交響曲のツィクルスで体験した、真新しくも不思議な感触に似て、惹き込まれる。
そんなパーヴォに、しっかりと応えるhr響... ドイツのオーケストラによるニールセンは、ゲーゼを経由して北欧にもたらされたメンデルスゾーンの瑞々しさを掘り起こすようで、より澄んだニールセンを響かせるのか... それでいて、どことなしに室内楽的な密度、雰囲気を漂わせ、交響曲ではあるのだけれど、派手にシンフォニックに繰り出すよりも、繊細にニールセンのスコアを捉え、鳴らして行く姿が、印象的。なればこそ、細かな表情が活き、それらが積み重なって、新鮮なニールセン像を味あわせてくれる。そうして聴こえて来る、いく筋ものストーリー... この感覚がおもしろい。音楽を聴きながら、昔、読み聞かされたお話しを、今、改めて読み解いているような不思議な心地に... で、そのストーリーを追っていると、やがてひとつの大きなストーリーを探り当て、6つの交響曲は、まるでひとつの作品のように有機的に結ばれて、グイっと惹き込まれる。3枚組、全6曲の交響曲となると、正直、かなりヘヴィーなのではと思って聴き始めるのだけれど、聴き出してしまうと、一気に聴かずにいられなくなる。一気に聴いて、これまでとは一味違うニールセン像に魅了される。

PAAVO JÄRVI FRANKFURT RADIO SYMPHONY
NIELSEN THE COMPLETE SYMPHONIES 1-6

ニールセン : 交響曲 第1番 ト短調 Op.7
ニールセン : 交響曲 第2番 ロ短調 Op.16 「4つの気質」
ニールセン : 交響曲 第3番 ニ短調 Op.27 「広がり」 **
ニールセン : 交響曲 第4番 Op.29 「滅ぼし得ざるもの」
ニールセン : 交響曲 第5番 Op.50
ニールセン : 交響曲 第6番 「シンフォニア・センプリーチェ」

パーヴォ・ヤルヴィ/hr交響楽団
カミラ・ティリング(ソプラノ) *
ミヒャエル・ナジー(バリトン) *

RCA RED SEAL/88875178802




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