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ナポリ楽派が花開く傍らで、白鳥の歌、スターバト・マーテル。 [before 2005]

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ヨーロッパ中を熱狂させたスター・カストラート、ファリネッリに、ヨーロッパ中を巡った国際派、ポルポラ、そして、オペラ・ブッファでヨーロッパ中を沸かせたラティッラと、少々、マニアックな視点から、ナポリ楽派を多角的に聴いて来たのだけれど、このあたりで、ナポリ楽派のよく知られた存在に注目してみようかなと... ペルゴレージとアレッサンドロ・スカルラッティ。いや、改めて「ナポリ楽派」という枠組みから、この2人を見つめると、ちょっともどかしいところが。ペルゴレージはあまりに若くしてこの世を去り、アレッサンドロ・スカルラッティはナポリで巨匠として君臨するも、その音楽はローマ仕込み。というあたりを見つめながら、聴いてみる。
リナルド・アレッサンドリーニ率いる、コンチェルト・イタリアーノの演奏、ジェンマ・ベルタニョッリ(ソプラノ)と、サラ・ミンガルド(コントラルト)の歌で、ペルゴレージと、アレッサンドロ・スカルラッティのスターバト・マーテル(OPUS 111/OPS 30-160)を聴く。

ペルゴレージ(1710-36)、クラシックにおいて、最もポピュラーなナポリ楽派... いや、「ナポリ楽派」という認識は薄いのか?しかし、ナポリの音楽院で学んだ、生粋のナポリ楽派。なのだけれど、音楽院を卒業して5年で亡くなってしまう。このあまりに短過ぎる活動期間を考えると、ナポリ楽派としての性格は花開く前だったようにも感じる。一方、アレッサンドロ・スカルラッティ(1660-1725)は、18年間もナポリの楽長を務め、足跡を残したわけだけれど、その音楽はローマで学び培ったもの。ナポリ楽派の音楽とは一味違う佇まいがある。というより、アレッサンドロ・スカルラッティ後の新たな展開、ポスト・バロックがナポリ楽派だった、と考える方がしっくり来る気がする。そうしたあたりを意識しながら、ペルゴレージとアレッサンドロ・スカルラッティのスターバト・マーテルを聴いてみようと思うのだけれど、両者とも、その死を近くして、嘆きの聖母、スターバト・マーテルを書いていることが、とても興味深い。で、まず、年代は前後するのだけれど、ペルゴレージのスターバト・マーテルから...
1735年、結核で体調を崩したペルゴレージは、翌年、死を悟り、ナポリを離れ、その郊外、ポッツオーリの修道院に入る。そこで、病床に伏せながらも書いたのが、スターバト・マーテル(track.1-12)。26歳になって間もない青年が、死を意識(実際、修道院に入って3ヶ月ほどでこの世を去る... )しながら書いた音楽は、とても無垢で、何とも言えない哀切が滲む。またその先で達観も聴こえ、深く、美しい。そんな音楽を改めて聴いてみると、ナポリ楽派の華麗さとは一線を画す、実直さ、あるいは、音楽としてよりニュートラルな表情が、とても澄んだ印象を生み、アルカイック。この独特なトーン、ナポリ楽派らしさから離れて生まれるアルカイックさが、今日までの人気につながるのかもしれない。そして、アレッサンドロ・スカルラッティのスターバト・マーテル(track.13-30)を聴くのだけれど、ペルゴレージから遡ること12年、第一線を退いた大家が、その死の2年前、1723年に作曲した音楽は、この作曲家らしいアルカイックさを湛えながら、長い作曲家人生に裏打ちされた確かな音楽を響かせる。すると、ペルゴレージのスターバト・マーテル(track.1-12)よりも一歩踏み出すような新しさ、ナポリ楽派的な流麗さを感じられる瞬間もあり、興味深い。より広い世界を見て、バロックの音楽の着実な成長の中を生き、辿り着いたアレッサンドロ・スカルラッティのスターバト・マーテルは、そうした蓄積から紡ぎ出される、独特な風情がある。
そんな、2つのスターバト・マーテルを組み合わせたアレッサンドリーニ。いや、聴けば聴くほどおもしろい組み合わせだなと、感心させられるばかり... これからという青年作曲家の最期と、酸いも甘いも経験した大家の最後が醸し出すそれぞれの独特さは、不思議と重なり、ナポリ楽派の華麗な成功の傍らで逝った2人の白鳥の歌が共鳴するかのよう。若いペルゴレージはアレッサンドロ・スカルラッティへと還り、大家、アレッサンドロ・スカルラッティはペルゴレージを予兆する。それぞれが死を前に至った境地と、接近に、感慨を覚えずにいられない。ナポリという、18世紀、最も活発だった音楽都市にありながら、その活発さから離れたところで歌われる音楽は、何か音楽史の奔流から超越して存在しているのか... モードを離れて、この世を離れて達する真摯さには、理屈抜きに心打たれる。またそれを際立たせる7人編成のコンチェルト・イタリアーノのストイックな演奏。最小限のアンサンブルが奏でるサウンドは、2つのスターバト・マーテルの繊細さを強調し、何より楚々とした佇まいを醸し出し、またそこから音楽の雄弁さをも引き出していて、静かな美しさと、そこから溢れ出す味わいが印象深い。
そして、2人の歌手!ベルタニョッリの素朴なソプラノ、ミンガルドの深いコントラルト、どちらも温もりを感じさせる歌声で、聴く者の胸にスっと入って来るようなやさしさに癒される。嘆きの聖母のエモーショナルさよりも、聴く者にそっと寄り添うようなトーンが、作品をより引き立てるのか。コンチェルト・イタリアーノのストイックなサウンドにもよく馴染み、アンサンブルとしての一体感が心に響く。誰かがドンと前面に立つようなことは一切無いのに、音楽を雄弁に聴かせる魔法!このあたりは、アレッサンドリーニの音楽性が効いているのだろう。歌うだけでない、全てが活きる仕上がりが、深い感動を呼ぶ。

PERGOLESI ・ SCARLATTI: STABAT MATER ・ CONCERTO ITALIANO

ペルゴレージ : スターバト・マーテル
アレッサンドロ・スカルラッティ : スターバト・マーテル

ジェンマ・ベルタニョッリ(ソプラノ)
サラ・ミンガルド(コントラルト)
リナルド・アレッサンドリーニ/コンチェルト・イタリアーノ

OPUS 111/OPS 30-160




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