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ディオニュソスの悪夢... いや、甘き夢への誘い... [before 2005]

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ギリシャが、国民投票の大騒ぎを経て、どういうわけか、至極、真っ当なところへと落ち着こうとしております。いやはや、先の読めない国... プロフェッショナルに程遠い政治家が政権を握ると、その国民こそが悲劇。しかし、そういう政治家を選んだのもまた国民... 選挙の大切さを民主主義の母国に見るわけです。政治不信は、選ぶ側が招いてもいる事実をしっかり受け止めねばね、我々も... しかし、ギリシャって凄い。世界中の注目を引き付けて離さないのだから。いや、政治ばかりでなく、文化でこそ、それを強く感じる。このギリシャ危機を切っ掛けに、様々なギリシアにまつわる音楽を聴いて来たのだけれど、ふと気が付くと、追っているはずが、追い掛けられているような感覚に... 西欧文化はギリシアに取り憑かれている?憧れのギリシアに魅入られてしまったのがヨーロッパか?そんな視点を持つと、ギリシャは、ある意味、魔性の国のように思えて来る。
ということで、そんなギリシアの"魔性"を垣間見せてくれる?1926年にワルシャワで初演された、ミステリアスなオペラ... サイモン・ラトルが率いたバーミンガム市交響楽団の演奏、トーマス・ハンプソン(バリトン)のタイトルロールによる、やはりギリシア(さらなる東へも... )に憧れを抱いていたポーランドの作曲家、シマノフスキのオペラ『ロゲル王』(EMI/5 56823 2)を聴く。

多文化主義を国是とし、東西文明の結節点として繁栄を誇った中世のシチリア王国。その絶頂期を築いたルッジェーロ2世(在位 : 1105-30)をモデルに描かれる、シマノフスキの『ロゲル王(ポーランド語による... )』。なのだけれど、ベースにはギリシア悲劇の怪作、『バッコスの信女たち』があり、ミステリアスな物語が繰り広げられる。ロゲル王の秩序ある治世の下に現れた謎めく羊飼い。東方からやって来た魅惑的な青年は、自由と官能を謳う新たな神を崇め人々を誘う。その教えに王妃までも惹き込まれ、ロゲル王は羊飼いの青年と対峙することに... 北に生まれたシマノフスキの、解放区としての「南」への渇望が生み出した物語は、理性と官能に揺れる作曲家の心象を映し出すようで、何か迫って来るものがある。そして、理性を捨て切れなかった作曲家の悔恨が、ロゲル王の最後の姿に重なるのか?ディオニュソスとしての姿を顕わにした羊飼いは、ハーメルンの笛吹き男のように王妃をはじめ、王国の人々を自らの世界へと連れ去ってしまう。ロゲル王はその世界に強く惹かれながらも踏み止まるのだったが、独り取り残されてみれば、虚しさにばかり苛まれることに...
シマノフスキらしい象徴主義と、世紀末の残り香、デカダンに彩られて、ミステリアスな物語(の台本は、従弟で小説家のイヴァシュキェヴィッチとシマノフスキ自身による... )を、鮮烈かつマジカルなサウンドで圧倒的に響かせる『ロゲル王』。もう、のっけから圧倒される!それは、大聖堂での祈りのシーンから始まるのでけれど、聴こえて来るコーラスのハーモニーは、ビザンツ聖歌を思わせて、独特... そこから、オーケストラにより膨らまされ、鮮烈過ぎる大音響で、大伽藍から降り注ぐように歌われる「永遠なる神よ」(disc.1, track.2)!聴き手は、ディオニュソスの登場以前に、シマノフスキの音楽によって、シマノフスキ・ワールドに連れ去られてしまう。この体験は、オペラを見る、音楽を聴くという次元を超えて、抗し難い魅力に取り込まれてしまう感覚だろうか?プロセニアムという結界は取り払われ、魔性の何かが、直接、コンタクトして来るような、畏れすら感じてしまう。そうして登場する羊飼い=ディオニュソス... 末期ロマン主義のあまやかで悩ましげな音楽に乗り、ミステリアスな存在感を際立たせる羊飼い... その姿を目の当たりにし、王妃が取り込まれて行く様(disc.1, track.6)は、聴いていて、こちらまでクラクラしてしまう。艶やかにミステリアスでありながら、ロゲル王と羊飼いの間に息詰まるやり取りが繰り広げられる濃密さ... これほどに陶酔的、かつスリリングという展開は、なかなか他に探せない。
で、『ロゲル王』の魅力を知らしめたのが、ラトル... このラトル盤を最初に耳にした時の衝撃は、今でも忘れられない。ラトルらしい色彩感覚、バーミンガム市響のパワフルなサウンドが相俟って、シマノフスキの知られざるオペラに、再び命が吹き込まれての鮮烈さは、今、改めて聴いても、ただならない。そこに、ハンプソン(バリトン)による深い表情を湛えたロゲル王、どこか浮世離れしたシミトカ(ソプラノ)による王妃、ロクサナと、歌手たちも際立った存在感を見せ、ドラマをより魅惑的なものに... 忘れてならないのが、バーミンガム市響の合唱団と、ユース合唱団。その思う存分に歌い上げて生み出される迫力の歌声は、最高!
さて、『ロゲル王』の後で、シマノフスキの4番の交響曲、実質、ピアノ協奏曲である「協奏交響曲」(disc.2, track8-10)を、アンスネスのピアノで取り上げるのだけれど、『ロゲル王』からは一転、ピアノのクリアな響きに導かれ、軽やかなモダニズムがスパークする佳曲。アンスネスの明晰なタッチが冴え、『ロゲル王』とはまた違ったモダニストとしてのシマノフスキのスタイリッシュさが際立ち、絶妙。多面的なシマノフスキの音楽を、もうひとつの角度から響かせて、興味深い。

SZYMANOWSKI: KRÓL ROGER & SYMPHONY NO.4
RATTLE


シマノフスキ : オペラ 『ロゲル王』 Op.46

ロゲル王 : トーマス・ハンプソン(バリトン)
ロクサナ : エルズビェタ・シミトカ(ソプラノ)
エドリシ : フィリップ・ラングリッジ(バス)
羊飼い : リシャルト・ミンキェヴィチ(テノール)
大司教 : ロベルト・ギェルラッハ(バリトン)
女子修道院長 : ヤドヴィカ・ラペ(ソプラノ)
声 1 : リサ・ミルネ(ソプラノ)
声 2 : アンドルー・バードゥン(テノール)
バーミンガム市交響楽団合唱団、同ユース合唱団

シマノフスキ : 交響曲 第4番 Op.60 「協奏交響曲」

サイモン・ラトル/バーミンガム市交響楽団
レイフ・オヴェ・アンスネス(ピアノ)

EMI/5 56823 2




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