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恐るべき若者... 鬼才、ベルリオーズのビッグバン! [before 2005]

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さて、春分を過ぎました。春です。ふと見上げる桜の枝には、随分と膨らんだ蕾があり、すでに花弁の桜色が見え始めている!開花はもうすぐそこ、といった感じ。しかし、萌えいづる春... 桜に限らず、あちこちで芽吹き、蕾を付け、花を咲かせようとするパワフルさ!一見、穏やかな季節に思う春だけど、実は、どの季節よりもパワフルなのかも... ということで、そんなパワフルな春に聴く音楽... プーランクドビュッシードリーブと、花々しいフランス音楽の系譜を遡って来ての、鬼才、ベルリオーズ!で、「ベルリオーズ」という個性が開花する目前、大きく膨らんだ蕾とも言える作品、いや、もはや爆弾か... 若さが爆発する、荘厳ミサ!
ジョン・エリオット・ガーディナーが率いるオルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティクの演奏、モンテヴェルディ合唱団のコーラス、ドナ・ブラウン(ソプラノ)、ジャン・リュック・ヴァイラ(テノール)、ジル・カシュマイユ(バス・バリトン)のソロで、1991年に再発見された、ベルリオーズの荘厳ミサ(PHILIPS/442 137-2)。いや、久々に聴いてみて、思わず戦慄する。

まず、ベルリオーズ(1803-69)が荘厳ミサに至るまでを簡単に... リヨンの南東、ラ・コート・サンタンドレで、医者の家の跡取りとして生まれたベルリオーズは、パリに出て医学を学び始める。が、こどもの頃から親しみ、独学で学んでもいた音楽への関心を募らせ、1823年、とうとうパリのコンセルヴァトワールに入学する。それから間もなく作曲されたのが、ここで聴く荘厳ミサ。入学の翌年、作品は完成し、1825年には、パリのサン・ロック教会で初演された。が、まさに学生の作品。後にベルリオーズは、その若書きのスコアを破棄してしまう。しかし、ベルリオーズの学友、ベッセムスに贈られたスコアが完全な形で残されていた!そのスコアは時を経て、1991年、アントウェルペンの聖カルロス・ボロメウス教会で、再発見されることになる。
という荘厳ミサ、破棄したくなるのもわかる。とにかくヤリ過ぎで、盛り込み過ぎて、トゥー・マッチ!大成し爛熟期を迎えた古典主義の最後、モーツァルトの仄かな記憶と、ベートーヴェンへの憧れの一方で、バロックを思わせる古臭さがあり、最新のロマン主義も気になるのか... で、驚くべきことに、後のベルリオーズの名作を彩る旋律がいろいろ現れている!そんな旋律に耳が捉われてしまうと、もう、古いんだか、新しいんだか、誰の音楽なんだか、混乱させられる。いや、ある意味、カオスかもしれない。若き作曲家の迸りをそのままスコアに投げつけたかのような、カオス!つまり、青春の1ページの、まさに青さが炸裂する音楽... この荘厳ミサを、後のベルリオーズは、若気の至りとして無かったことにしたわけだが、しかし、若気の至りでなくては生み出し得ない境地は間違いなくあることを知らしめる荘厳ミサでもあって... いや、きっちり整えられているばかりが音楽ではない。整えられていないからこその、あられもない魅力!未熟さがもたらす、思い掛けない刺激的な様!
とにかく、あらゆる場面で危なっかしい音楽が展開され、ハラハラもするのだけれど、それが全て刺激になってしまうのだから、後の鬼才としての片鱗はすでに見受けられるのか... そして、その刺激が沸点に達する、最後、ドミネ・サルヴム(track.14)!フランスならではのキャッチーさ、ベルリオーズならではのデモーニッシュさが、これでもかと綾なし、繰り広げられつつの、転調に次ぐ転調... ゼレンカの音楽を思い出させるバロックな感覚と、革命歌や軍楽隊を思わせる威勢の良さ、『ファウストの劫罰』を予感させるダークさ、スリリングさ... 凄まじく豪快で、たまらなく軽薄で、地獄へと突き落された瞬間、天国が広がる劇的さ... そりゃねーだろ、とも思えるものをやり切っての、カタルシス!"ミサ"という、本来、かしこまったものを、ここまで劇画調に仕上げてしまう若きベルリオーズの大胆さに、脱帽。で、その無謀さに圧倒され、どうしようもなく魅了される。
ところで、先にも書いたとおり、荘厳ミサからは、後のベルリオーズの名作を彩る旋律がいろいろ聴こえて来る。グラーツィアス(track.4)からは、幻想交響曲の3楽章が、キリエ(track.2)からは、レクイエムのオッフェルトリウムが、レスルレクシト(track.9)からは、レクイエムのディエス・イレの山場、それから、テ・デウムのクリステ・レクス・グローリエの後半部分、アニュス・デイ(track.13)からは、テ・デウムのテ・エルゴ・クェセムス... そればかりでなく、あれ?これは何だったっけ?という場面に次から次へと出くわすことに... それはまるで、その後のベルリオーズの予告編のよう。裏を返せば、ベルリオーズにとっての荘厳ミサは、ネタ帳のようなものとなったか?だからこそ、破棄したのか?そうして見えて来る、荘厳ミサの中にすでに存在した、「ベルリオーズ」という音楽世界... なんて考えると、この作品が、単なる若気の至りでは済まなくなる。
というあたりを、強く訴え掛けて来るガーディナー+オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク(以後、ORR... )、モンテヴェルディ合唱団!このアルバムは、1993年の復活蘇演のライヴ盤なのだけれど、普段のガーディナーとは一味違う雰囲気が印象的。再発見の興奮と、作曲家の若さにほだされての熱気、そして、作曲家が破棄した作品を世に出してしまうという怖れだろうか、他の作品では感じられないような独特な緊張感がただならない。一方で、徹底して真摯に若きベルリオーズのありのままと向き合い、放たれる、後の鬼才のビッグバンの瞬間!ORR、モンテヴェルディ合唱団も、鬼才ならではのエキセントリックを物ともせず、ブラウン(ソプラノ)、ヴァイラ(テノール)、カシュマイユ(バス・バリトン)の3人も、表情豊かに歌い上げ、この作品の魅力をより力強いものとしている。しかし、凄まじい音楽...

BERLIOZ ・ MESSE SOLENNELLE
ORCHESTRE RÉVOLUTIONNAIRE ET ROMANTIQUE ・ GARDINER


ベルリオーズ : 荘厳ミサ
ベルリオーズ : レスルレクシト 〔改訂版〕

ドナ・ブラウン(ソプラノ)
ジャン・リュック・ヴァイラ(テノール)
ジル・カシュマイユ(バス・バリトン)
モンテヴェルディ合唱団
ジョン・エリオット・ガーディナー/オルケストル・レヴォリュショネル・エ・ロマンティク

PHILIPS/442 137-2




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