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ジョヴァンニ・ガブリエリ、ヴェネツィアの風雅。 [before 2005]

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さて、14世紀、15世紀、16世紀と聴いて来れば、次は17世紀。なのだけれど、どうしたものか... その先へと踏み込むべきか?踏み込まざるべきか?ルネサンスが終わり、バロックが始まれば、長い音楽史も折り返し地点を過ぎ、俄然、広がりを見せて、片手間には追い切れないわけでして。何よりこのまま時代を下り始めてしまうと、際限が無くなりそうな予感。ならば、少し焦点を絞って、17世紀の音楽の都、ヴェネツィアの音楽シーンについて、ヴェネツィア楽派の興亡から、「17世紀」を聴いてみようかなと...
ということで、古楽器の管楽アンサンブル、コンチェルト・パラティーノ(に、ヴァイオリン、オルガンも加わり... )の演奏による、ルネサンスからバロックへとうつろう頃に活躍したヴェネツィア楽派の巨匠、ジョヴァンニ・ガブリエリの、『サクレ・シンフォニエ』とカンツォンとソナタ集からのアルバム"Sonate e Canzoni"(harmonia mundi FRANCE/HMC 901688)を聴く。

中世末からルネサンスへの進化の様子も本当に興味深いものだったけれど、ルネサンスからバロックへの変容というのは、さらに興味深いものがある。それはまるで、蝶がさなぎから羽化するような、劇的な進化!それまでの音楽(ポリフォニー)からは想像も付かない新しい形(モノディ)を生み出し、それがまた今の音楽のベースとなっているのだから、ルネサンスからバロックへの変容は、記譜の発明以後、音楽史においての最大のターニング・ポイントと言える。では、その劇的な進化が、どうやって引き起こされたのか?
フィレンツェでは、極めてルネサンス的な志向の下、ギリシア悲劇(台詞はみな歌われていたと考えられていた... )の復活が試みられ、台詞をくっきりと浮かび上がらせつつ歌うために、ルネサンス・ポリフォニーはかなぐり捨てられ、単声の音楽、モノディが発明される。このモノディを用い、16世紀末に誕生したオペラが、バロックの象徴に... 一方で、ヴェネツィアにおいては、サン・マルコ大聖堂の構造を利用して、コーラスや器楽アンサンブルを分散して配置し、エコー効果を生み出す立体的な演奏を試みるようになり、そこからコーリ・スペッツァーティ(分割合唱、複合唱)という、ヴェネツィア流のバロックへの準備が成された。フィレンツェの革命とは違い、ヴェネツィアにおけるバロックの歩みは、ヴェネツィア楽派の興隆に伴って16世紀にすでに始まり、じっくり時間を掛けて、エコーにより生まれたコントラストを利用しながら、そのコントラストを強めて行くことで、ポリフォニーからホモフォニーへと移行し、フィレンツェのモノディとは一味違う、穏やかなバロックの到来となった。
そうしたヴェネツィア楽派を象徴する存在、ジョヴァンニ・ガブリエリ(ca.1554/57-1612)。サン・マルコ大聖堂の楽長を務め、ヴェネツィアに留まらず、アルプスの北側にも大きな影響を与えた、ルネサンスから初期バロックへの過渡期に活躍した巨匠... で、ここでは、1597年に出版された『サクレ・シンフォニエ』と、1615年に出版されたカンツォンとソナタ集からの、器楽アンサンブル、オルガンによる、カンツォン、リチェルカーレ、ソナタを聴くのだけれど、ルネサンス・ポリフォニーを様々に聴いて来た後で、軽やかに繰り出される器楽アンサンブルによる音楽に触れると、時代が新しい方向へ向かって歩み出していることを感じ、そのポジティヴな表情に、何だか聴いているこちらまで、ハッピーな心地がして来る。ルネサンス・ポリフォニーの上に立脚しながらも、コーリ・スペッツァーティから導かれたホモフォニックな音楽の、不思議なカクテル感!ルネサンスのヘブンリーさと、バロックのコントラストの間をふわふわと漂って、小気味良い音楽をナチュラルに紡ぎ出すセンスの良さ!アカデミックに根を詰めてバロックを生み出したフィレンツェとは違う、もっと感覚的なヴェネツィアのユルさに大いに魅了されてしまう。いやこの折衷感を以ってこそ、ヴェネツィア楽派が広くヨーロッパで支持された所以かもしれない。ルネサンス・ポリフォニーに馴染んで来た当時の人々に、程好い新しさを届けただろう、絶妙さ...
そんなジョヴァンニ・ガブリエリの音楽を、朗らかに奏でるコンチェルト・パラティーノの演奏がまた絶妙で。17世紀を迎える頃のヴェネツィアの音楽の壮麗さを今に蘇らせる、そのコルネットとトロンボーンの豊かな響き!古楽器の深みを大切に温もりを漂わせながら繰り広げられるまろやかなサウンドは、どこかノスタルジックでありつつ晴れやかで。さらに、名手が揃ったコンチェルト・パラティーノだけに、随所に聴かれる装飾音の鮮やかさたるや!気負うことなくさらりとこなされてしまうその妙技には、感服させられるばかり。そんなコンチェルト・パラティーノに、もうひとつ色を添えるのが、カーキネンとスクプリクのヴァイオリン。そのキビキビとした演奏が、ジョヴァンニ・ガブリエリの音楽にキラキラとした輝きを与え。管楽器のまろやかさと、ヴァイオリンの輝きが織り成すヴェネツィアの風雅は、何とも心安く、惹き込まれる。

GABRIELI Sonate e Canzoni CONCERTO PALATINO

ジョヴァンニ・ガブリエリ : 第7旋法のカンツォン 8声 〔『サクレ・シンフォニエ』 から〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : カンツォン V 7声 〔カンツォンとソナタ集 から〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : 第1旋法のカンツォン 10声 〔『サクレ・シンフォニエ』 から〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : 第9旋法のカンツォン 8声 〔『サクレ・シンフォニエ』 から〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : カンツォン VIII 8声 〔カンツォンとソナタ集 から〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : カンツォン X 8声 〔カンツォンとソナタ集 から〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : 第1旋法のリチェルカーレ
ジョヴァンニ・ガブリエリ : 第12旋法のカンツォン 10声 〔『サクレ・シンフォニエ』 から〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : 第2 カンツォン 〔器楽のためのカンツォン集 から〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : エコーによる第12旋法のカンツォン 10声 〔『サクレ・シンフォニエ』 から〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : 第8旋法のカンツォン 8声 〔『サクレ・シンフォニエ』 から〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : カンツォン VI 7声 〔カンツォンとソナタ集 から〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : 第12旋法のカンツォン 8声 〔『サクレ・シンフォニエ』 から〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : カンツォン XI 8声 〔カンツォンとソナタ集 から〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : 第8旋法のソナタ 12声 〔『サクレ・シンフォニエ』 から〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : カンツォン XII 8声 〔カンツォンとソナタ集 から〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : カンツォン XIV 10声 〔カンツォンとソナタ集 から〕
ジョヴァンニ・ガブリエリ : カンツォン XVI 12声 〔カンツォンとソナタ集 から〕

コンチェルト・パラティーノ
シルッカ・リーサ・カーキネン・ピルク(ヴァイオリン)
ヴェロニカ・スクプリク(ヴァイオリン)
ヤン・ウィレム・ヤンセン(オルガン)
リウヴェ・タミンガ(オルガン)

harmonia mundi FRANCE/HMC 901688




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