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新しい時代へと揺れる、ルネサンス、最後の巨匠、パレストリーナ。 [before 2005]

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さて、8月も終わりです。明日は、9月。で、過ぎ去ろうとしている夏に、一抹の寂しさも感じたり... そんな夏の終わりに、ルネサンスの終わりを聴いてみようかなと、久々にパレストリーナのアルバムを引っ張り出してみる。ところで、パレストリーナ(ca.1525-1594)というと、プフィツナーがオペラ化(1917)したトレント公会議のエピソードが有名... 教会が音楽に規制を掛けようとする中、芸術の自由を貫こうとするプフィツナー。やがて全ての人々に感銘を与えるミサを作曲し、芸術が勝利するという物語は、剣と楯は持たなくも、ペンとスコアによるパレストリーナの英雄劇と言えるのかもしれない。で、そうした物語を、プフィツナーの後期ロマン主義の音楽が、まさにロマンティックに描き上げるのだけれど。16世紀、実際のパレストリーナを巡る状況と教会音楽の在り様は、より複雑で、その一筋縄では行かないあたりこそがおもしろかったりする。
ということで、カール5世に始まって、広く16世紀を俯瞰して来たその最後に、アメリカの古楽系、ヴォーカル・アンサンブル、シャンティクリアが歌う、ルネサンス、最後の巨匠、パレストリーナのレクイエムとモテット(TELDEC/4509-94561-2)を聴く。

ルネサンスが宗教改革を促し、15世紀末、新教を出現させると、旧教側も対抗宗教改革に乗り出す。新教の在り様が旧教を刺激し、旧教にも改革の機運をもたらしたわけだ。そこに、旧教、ローマ教会による典礼音楽の見直しの動きが起こった。対抗宗教改革により、旧教においても質素が重んじられ始めると、世俗歌曲から旋律を借用するパロディー・ミサや、歌というより音響となったウルトラ・ポリフォニーは問題視され、中世以来の多声音楽が槍玉に挙げられる。そうした時代に開かれていたのが、トレント公会議(1545年から1563年に掛けて、断続的に開催... 当初は、新教と旧教の妥協点を見出すためのものであったが、やがて、旧教の強化と、対抗宗教改革の承認という性格を帯びる。その一端に、典礼音楽についての見直しも... )。神の声はひとつでなくてはならない... 単声、グレゴリオ聖歌への回帰が叫ばれ、教会音楽は著しく後退する危機を迎える。が、いくらかの規制を受け入れることでルネサンス・ポリフォニーは維持されることに... しかし、これを切っ掛けに、ポリフォニーの声部は整理されるようになり、ホモフォニックな音楽が現れ、何が歌われているかをより聴き取り易い形が模索され始める。それはある意味、バロックの到来を予感させるものでもあり、バブルを迎えていた多声音楽が、宗教の干渉をトリガーに、新しい時代を呼び覚ましたことが興味深い。そして、音楽の主導権は、ルネサンス・ポリフォニーを育んだフランドルの作曲家たちから、新しい時代の担い手となる、イタリアの作曲家たちへと移る。
その最初のひとりだったパレストリーナは、バロック前夜、ルネサンス・ポリフォニーに簡潔さをもたらし、対抗宗教改革に合致したパレストリーナ様式を確立する。で、その音楽を聴くのだけれど、始まりのモテット「喜べ、栄えあるもの」から、ただただ聴き入ってしまう。5声で歌われるものの、そのハーモニーは簡潔さを以って、声部がクリアに浮かび上がり、またそれらが綾なしながら地に足の着いたハーモニーを響かせ、ルネサンス・ポリフォニーにして、また一味違う表情を見せる。それは、ウルトラ・ポリフォニーのヘブンリーさとは違う、ある意味、人間の身の丈に合った丁寧さを感じさせるもので、何とも言えず耳にやさしい。続く、レクイエム(track.2-6)では、入祭唱(track.2)にグレゴリオ聖歌が歌われ(パレストリーナは入祭唱を作曲していないので、必然的にこうなるのだけれど... )、対抗宗教改革を意識しつつ、キリエ(track.3)を聴くのだけれど、グレゴリオ聖歌の静謐さから、パレストリーナ様式の整理された響きというのがとてもナチュラルで、その美しい流れに魅了されてしまう。
という、パレストリーナ様式にはぴったりなのかもしれない、シャンティクリアのコーラス!アメリカならではというか、彼らの明快さは胸空くものがあって。そのパリっとしたハーモニーが、パレストリーナ様式の簡潔さをさらに際立たせ... 第一声から、クリアかつ力強く発声されるそれぞれの声部と、そこから紡ぎ出されるハーモニーに目が覚めるよう。それはまるで、オルガンでも聴くような感覚があり、人の声にして楽器のような独特のテクスチャーを感じるところも... いや、それくらいの明快さがあって生まれる圧倒的な輝き!簡潔な声部を、徹底して磨き上げ、結晶のような音楽を繰り広げる彼らのコーラスに、今、改めて感服させられる。
また、そういうスーパー・パフォーマンスがあって見えて来る、パレストリーナ像もあり... ルネサンス・ポリフォニーの枠組みに留まりながら、ポリフォニーとホモフォニーの間を微妙に揺れ動くその音楽。シャンティクリアの明快さが、ポリフォニーとホモフォニーの在り様をくっきりと捉えれば、パレストリーナ様式の簡潔さの中にある優柔さも浮かび上がるのか。しかし、その優柔さから、やわらかさや温もりがこぼれ出し、味わいとしてしまうから巧い。結晶に人間味を加味するおもしろさ... この2つのテイストこそ、ルネサンスと次なる時代を予兆するパレストリーナの音楽の本質なのかもしれない。

PALESTRINA: MISSA PRO DEFUNCTIS & MOTETS / CHANTICLEER

パレストリーナ : モテット 「喜べ、栄えあるもの」
パレストリーナ : レクイエム
パレストリーナ : モテット 「モテット 「めでたし女王」
パレストリーナ : モテット 「舌よ、たたえよ」
パレストリーナ : モテット 「おお、幸いなるイエスよ」
パレストリーナ : 連作モテット 『ソロモンの雅歌』 から
   第2曲 「私を連れて行ってください」/第3曲 「私は黒いけれども美しい」/第15曲 「わが愛する者よ、立って急ぎなさい」/
   第16曲 「わが愛する者よ、立っておいで」/第27曲 「あなたは何と美しいのだろう」/第29曲 「愛する方よ、おいでなさい」
パレストリーナ : モテット 「喜べ、バルバラよ」

シャンティクリア

TELDEC/4509-94561-2

宗教戦争の16世紀、逃避的なヘブンリーさと、新しい時代の兆し。
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