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アメリカの原風景にある、モダニスティックな空気感、コープランド... [before 2005]

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さて、ラテン・アメリカから北上して、アングロ・アメリカへ...
ヒナステラがアメリカ留学(1945-47)で師事した、コープランドを聴いてみようかなと思うのだけれど。しかし、ヨーロッパではなく、アメリカかぁ。という感慨もある、ヒナステラの選択。もちろん、コープランドの誘いがあり、アメリカからの奨学金があったからこそなのだろうけれど... ヨーロッパの音楽が世界へと広がる一方で、ヨーロッパがその存在感を薄めてゆく皮肉... しかし、そうしたパワーシフトから新たな展開が生まれた20世紀後半の音楽史であって。第2次大戦の終結を待ち、1945年にアメリカへと渡った若きアルゼンチンの作曲家の選択は、ヨーロッパからアメリカへという転換を象徴していたように感じる。
そして、そのアメリカを改めて見つめる... マイケル・ティルソン・トーマス率いる、サン・フランシスコ交響楽団の演奏で、コープランドの三大バレエ、『ビリー・ザ・キッド』、『アパラチアの春』、『ロデオ』の組曲(RCA RED SEAL/09026-63511-2)を聴く。

ドヴォルザークがニューヨークで校長先生をしていた19世紀末、マーラーがニューヨークで指揮台に立っていた第1次大戦前夜を経て、第1次大戦後、産業、経済で、急成長を遂げたアメリカは、音楽においても大きく飛躍する。パリに留学した若い作曲家たちは、ヨーロッパから新鮮な近代音楽を持ち帰り、そのパリからは、エドガー・ヴァレーズがやって来て、アメリカの若い作曲家を牽引し、ヨーロッパの歴史、伝統から解放された、実験的な試みを次々と繰り出す。また、そうした実験的な音楽がおもしろがられ、エンターテイメントにさえ成り得たという、狂乱の1920年代。保守的なヨーロッパの聴衆とは違い、アメリカの聴衆の希有なリアクションに驚かされる。が、1929年、大恐慌がアメリカ経済を打ちのめす。当然、音楽にも大きな影響を及ぼし...
そうした時代に生まれたのが、コープランドの三大バレエ。ここで聴く、マイケル・ティルソ・トーマス(以後、MTT... )+サン・フランシスコ響によるアルバムには、"COPLAND THE POPULIST"というタイトルが付けられているのだけれど、そこに、大恐慌の影響を受けて、モダニストからポピュリストへと変身したコープランドの興味深い姿が強調されている。先鋭的な近代音楽から、より多くの民衆に寄り添う音楽を目指したコープランド。1曲目、1938年に作曲された『ビリー・ザ・キッド』は、西部劇の人気キャラクターを主人公に、アメリカの気の置けないフォークロワなトーンと、西部の広大な風景を思わせるシンフォニックな音楽に彩られ、どこか映画音楽を思わせる。続く、2曲目、1944年、マーサ・グラハムのために作曲された『アパラチアの春』(track.2)は、シェーカー教徒の讃美歌、「シンプル・ギフト」のやさしいメロディーを感動的に織り込み、美しいアパラチアの山々の風景を描き出す(けど、コープランドはそれを想定していなかったらしい... )。そして、最後は、1942年にバレエ・リュス・ド・モナコ(バレエ・リュスの後継団体のひとつ... )の委嘱により作曲された、アメリカのカントリーサイド、カウボーイのいる風景を活き活きと綴る、『ロデオ』(track.3-6)。「ポピュリスト」というと、どうも大衆迎合的な、ネガティヴなイメージもあるのだけれど、コープランドがこの三大バレエで聴かせる音楽というのは、大恐慌により疲弊したアメリカの人々の心をやさしく包むようであり。その素朴で温もりを感じる音楽は、現代人の耳にもまたやさしい。
しかし、単にやさしいばかりでないのがコープランドの三大バレエの興味深いところ。3作品ともアメリカの原風景を見つめる音楽であり、そこに何とも言えないノスタルジックさが漂っているのだけれど、同時にモダニスティックな感覚を失っていないからおもしろい。ある意味、アメリカの空気そのものが、モダニスティックなのかもしれない。コープランドが繰り出す、すっきりとした明晰なサウンドには、歴史と伝統が管を巻くヨーロッパにはない、特有のドライさがあって、それこそ西部の乾いた空気感だろうか... このカラりとした感覚こそ、アメリカの音楽の特徴のように感じる。それでいて、19世紀、ロマン主義のスケール感を巧みに引き込み、アメリカの壮大な風景を描き出す器用さも... モダニズムからポピュリズムに舵を切ったコープランドは、一見、反動的に感じられるのだけれど、ヨーロッパ仕込みのモダニスティックな音楽を生み出していた頃よりも、オリジナリティを感じるからおもしろい。何より、コープランドが辿り着いたアメリカの真摯な美しさに、大いに魅了されてしまう。
で、そんなコープランドの性格に、見事に反応を見せるMTT+サン・フランシスコ響!MTTならではの明晰な音楽作りと、サン・フランシスコ響の鮮やかなサウンド... アメリカの空気感を知る彼らなればこその感覚が、コープランドの音楽をより鮮烈なものとし、安易なポピュリズムに終わるのではない、スタイリッシュな音楽を響かせる。特に、『ロデオ』の最後、ホーダウン(track.6)の、西部劇そのものといったキャッチーな音楽も、けしてシンプルには書かれていないあたりに鋭く切り込み、近代音楽のシャープさを持たせ、コープランドの音楽のカッコよさを強調する。そうして浮かび上がる、わかり易い形としてのアメリカではなく、アメリカの空気感を意識して奏でる、アメリカのクールさ... 何だかスカっとする。

COPLAND THE POPULIST SAN FRANCISCO SYMPHONY MICHAEL TILSON THOMAS

コープランド : バレエ 『ビリー・ザ・キッド』 組曲
コープランド : バレエ 『アパラチアの春』 組曲
コープランド : バレエ 『ロデオ』 から 4つのダンス・エピソード

マイケル・ティルソン・トーマス/サン・フランシスコ交響楽団

RCA RED SEAL/09026-63511-2




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