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モダニスト・ヒナステラ、ロッカー・ヒナステラ、 [before 2005]

アルベルト・ヒナステラ(1916-83)。
ヨーロッパからの移民の両親の下、ブエノスアイレスに生まれた、アルゼンチンを代表する作曲家。その才能は早くに開花し、ブエノスアイレスの国立音楽院在学中から注目を集め、入学の年、1936年に作曲したバレエ『パナンビ』が評判になると、1941年には、代表作、バレエ『エスタンシア』を作曲。20代半ばにして、名声を得る。その後、アメリカに留学(1945-47)し、コープランド(1900-90)に師事。近代音楽の新しい潮流にも触れ、より国際的な感覚を取り込み、ラテン・アメリカを代表する作曲家のひとりとして、存在感を示し...
ワールドカップに釣られて、ブラジルから、メキシコボリビアへと、ラテン・アメリカを音楽で旅しているのだけれど、次は、アルゼンチンへと向かいます。そう、ヒナステラを聴く!津田理子のピアノで、ヒナステラのピアノ作品全集(Cyprès/CYP 1625)と、ヘンシェル・クァルテットの演奏で、ヒナステラの1番と2番の弦楽四重奏曲(Arte Nova/74321 72125 2)を聴く。


モダニスト・ヒナステラ... ピアノで辿る、その音楽の変遷の興味深さ!

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ヒナステラというと、とにかく『エスタンシア』なのだけれど、このバレエが25歳の作品だったとは知らなかった。一方で、ヒナステラの作曲は、『エスタンシア』以後、42年も続いているわけで、『エスタンシア』だけではヒナステラという存在を捕まえることはできない。という、もどかしさを解決してくれるアルバム... 若き頃の代表作だけではなく、その長い作曲活動の過程を丁寧に追ったのが、津田理子によるヒナステラのピアノ作品全集。1937年、学生時代に作曲されたアルゼンチン舞曲集(track.1-3)に始まり、1982年、死の前年に作曲された3番のピアノ・ソナタ(track.35)まで、きっちりと年代順に並べられて聴こえて来る、ヒナステラの音楽の変遷の興味深さ!いや、『エスタンシア』ばかりでないヒナステラのおもしろさが、見事に繰り広げられる!
民俗的なモチーフに彩られた、アルバムの前半... 1940年代の作品の、タンゴの国ならではのセンチメンタルにメロディアスな音楽、『エスタンシア』の終曲、マランボを思わせるリズムが炸裂する音楽と、分かり易い形での「アルゼンチン」に、まず耳が持って行かれる。が、そうした中にも、時代を経て、より広い世界の音楽を知ろうとする若きヒナステラの姿も見て取れて、印象的。特に、12のアメリカ大陸風の前奏曲(track.12-21)から聴こえて来る、ドビュッシーのようなトーン... どこかフランスを思わせる薫り高いサウンドは、「南米のパリ」と謳われるブエノスアイレスの街の雰囲気なのだろうか?何と魅惑的なのだろう!前半だけでも、その音楽は進化しており、ヒナステラらしい力強いオスティナートもありつつ、次第により表情に幅が出て来て、惹き込まれる。
そして、アメリカから帰国してからの作品、1952年に作曲された1番のピアノ・ソナタ(track.28-31)では、ストラヴィンスキーを思わせるドライな感覚、スクリャービンを思わせる鮮やかにして仄暗い雰囲気が印象的で、見事に洗練された近代音楽が繰り広げられ、そのシャープさに大いに魅了されてしまう。最後は、近代音楽から"ゲンダイオンガク"へとうつろう中、ヒナステラが最終的に辿り着いた新表現主義のスタイルによる、1981年、2番のピアノ・ソナタ(track.32-34)と、1982年、3番のピアノ・ソナタ(track.35)を聴くのだけれど... ヒナステラの最晩年にあたる80年代の2つの作品から聴こえて来る、熱気を帯びた抽象性のパワフルさに、目を見張る!それでいて、そのパワフルさに、『エスタンシア』のマランボがまだ生きていて... モダニストとしてスマートに振舞うばかりでない、若き頃のスピリットが感じられるその音楽のホットなあたりがカッコいい!
という、ヒナステラを聴かせてくれた津田理子のピアノがまたすばらしい... 軽快で、端正なタッチが生む、瑞々しいサウンド!どこかさらりとしていながら、雰囲気に欠けることのない絶妙さ。ラテン・アメリカにして、また一味違う「アルゼンチン」のスタイリッシュさ、フォークロワな色を強めても、けして泥臭くならないモダニスト・ヒナステラを巧みに響かせて、大いに魅了される。

ALBERTO GINASTERA: THE COMPLETE PIANO WORKS
MICHIKO TSUDA


ヒナステラ : アルゼンチン舞曲集 Op.2
ヒナステラ : 3つの小品 Op.3
ヒナステラ : 童謡による小品
ヒナステラ : 12のアメリカ大陸風前奏曲 Op.12
ヒナステラ : 南米風舞曲の組曲 Op.15
ヒナステラ : アルゼンチンの童謡によるロンド Op.19
ヒナステラ : ピアノ・ソナタ 第1番 Op.22
ヒナステラ : ピアノ・ソナタ 第2番 Op.53
ヒナステラ : ピアノ・ソナタ 第3番 Op.55

津田理子(ピアノ)

Cyprès/CYP 1625




ロッカー・ヒナステラ... 弦楽四重奏でロックする、そのプログレッシブさ!

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えーっと、あまりよく知らないことに首を突っ込むのは危険だと知りつつ... ヒナステラは、プログレッシブ・ロックにも影響を与えていた。プログレッシブ・ロック・バンド、エマーソン・レイク・アンド・パーマー(以後、ELP... )のアルバム、『恐怖の頭脳改革』(1974)に収録された「トッカータ」は、ヒナステラの1番のピアノ協奏曲(1961)の終楽章、トッカータ・コンチェルタータがベースとなっている。で、ELPの「トッカータ」を聴いてみた。何だ、この変態ちっくな音楽!縦横無尽のシンセサイザーを用いて、オリジナルより、俄然、おもしろくなっているじゃないか!実は、ヒナステラ自身も絶賛したらしい。ウーン、わかるかも... 1970年代、爛熟期を迎えたサイケデリックを纏ったヒナステラの音楽の活き活きとした表情に、ロマン主義が最後の輝きを放っていた頃に生まれたヒナステラでは到達し得ない完成形を見た思いがした。晩年のヒナステラの理想は、プログレッシブ・ロックにあったか?
なんてことを思わせるほど、ヒナステラの音楽はすでにロックだったりする。だからこそ、ELPもヒナステラの音楽を取り込んだのだろう。そんな、ロッカー・ヒナステラを強く感じるのが、アメリカから帰国して間もない、1948年に作曲された1番の弦楽四重奏曲(track.1-4)と、エルヴィス・プレスリーがブレイクし、ロックがポップ・カルチャーに君臨しようという頃、1956年に作曲された2番の弦楽四重奏曲(track.5-9)。まずは1番なのだけれど、その1楽章のパワフルでスリリングな音楽をロックと言わずしてなんて言おう?!ヒナステラは、アメリカからロックを持って帰って来たのか?いや、その感覚は、ロックというムーブメント自体を先行しているはず... 1950年代を前にして、こうもエッジの効いた音楽を展開していたヒナステラに驚かされる。もちろん2番も刺激的な音楽が展開されていて、その1楽章(track.5)から鋭いリズムを刻み、クラシックのイメージから外れてゆく。一方で、戦後、「前衛」の時代ならではの抽象性も漂い、1番より、よりプログレッシブな音楽が展開されて、ロックと「前衛」を行き来するようなあたりが新たな味わいとなり、おもしろい。しかし、弦楽四重奏という、18世紀、古典主義が生み出した極めてクラシカルな編成を以ってして、こうもクールになれるものかと感心せずにいられない。
で、そんなヒナステラの2つの弦楽四重奏曲を演奏するヘンシェル・クァルテットがカッコいい!彼らも、今年、結成20周年と、随分とベテランとなったわけだけれど、まだまだ若手だった頃のその演奏(1999年の録音... )は、勢いに溢れていて、また、ロックで育った世代というのか、古い世代の弦楽四重奏団とは一線を画すニュートラルな姿勢が、ヒナステラの音楽のクールなあたりを臆することなく響かせる。弦楽四重奏ならではのストイックさを鋭さに、ロックするその演奏は最高!

Alberto Ginastera: String Quartets Nos. 1 & 2

ヒナステラ : 弦楽四重奏曲 第1番 Op.20
ヒナステラ : 弦楽四重奏曲 第2番 Op.26

ヘンシェル・クァルテット
クリストフ・ヘンシェル(ヴァイオリン)
マーカス・ヘンシェル(ヴァイオリン)
モニカ・ヘンシェル(ヴィオラ)
マティアス・バイヤー・カールショジュ(チェロ)

Arte Nova/74321 72125 2




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