SSブログ

ヴェルサイユからパリへ!オペラ・バレ『優雅なインドの国々』。 [before 2005]

HMC901367.jpg
フランス王国の絶頂期、太陽王の時代。
この時代を象徴するものと言えば、やっぱりヴェルサイユ宮!窓の形にその名を残すマンサール(1646-1708)が設計に携わり、国王の肖像画を描いたル・ブラン(1619-90)が内装を手掛け、フランス式庭園を確立するル・ノートル(1613-1700)がその庭園を手掛け... フランス文化の粋を集めた芸術品とも言えるヴェルサイユ宮。そこで演じられたラシーヌ(1639-99)の悲劇に、モリエール(1622-73)の喜劇... となると、太陽王の宮廷は、フランス文化の結晶と言えるのかもしれない。そして、その宮廷に欠かせないのが、リュリ(1632-87)による音楽... この作曲家によって、フランス・バロックは大きく花開くことになる。というあたりは、前回、聴いたわけだけれど、フランスの音楽がよりおもしろくなるのは、実は、リュリ後のように思う。
そんな、リュリ後の時代、バロックからロココへとうつろう中、ヴェルサイユではなくパリで人気を集めた作品... ウィリアム・クリスティ率いる、レザール・フロリサンによる、ラモーのオペラ・バレ『優雅なインドの国々』(harmonia mundi FRANCE/HMC 901367)を聴く。

太陽王の寵愛を受け、ヴェルサイユの宮廷で権勢を誇ったリュリ... バレ・ド・クール、コメディ・バレ、ディヴェルティスマンと、宮廷の最も華やかな部分を担い、やがてオペラ座の前身、王立音楽アカデミーを乗っ取って、フランスにおけるオペラの上演も独占。振り返ると、フランス・バロックの豪奢なあたりは、リュリ独りに集約されてしまうのか... となると、リュリの死(1687)は、フランスの音楽の自由化とも言えそうだからおもしろい。さらに、太陽王の死(1715)により、宮廷主導のフランスの音楽の在り方は、唯一人の王のための音楽から、より開かれた多くの人々のための音楽へと変化し、音楽の中心はヴェルサイユからパリへ、やがて18世紀の音楽の都として、パリの音楽シーンが絶頂期を迎える。そのパリで仕事をしていたのが、ラモー(1683-1764)。ディジョン出身の遅咲きの大家は、遅咲きゆえに宮廷でのポストをなかなか得られず、オルガニスト、クラヴサン奏者、音楽理論で功績を残し、そうした地道な仕事の蓄積により、やがてフランスを代表する巨匠に...
そんなラモーが、初めてオペラの世界に進出したのが50歳の時。1733年にパリで初演された、トラジェディ・リリク『イポリトとアリシ』。満を持してのオペラは、大成功。そして、その2年後、1735年に、ラモーの2作目のオペラとしてパリで初演されたのが、オペラ・バレ『優雅なインド国々』。オペラ・バレというだけに、バレエがふんだんに盛り込まれていて... 一方で、オペラとしての筋は弱いというか、ちょっとしたラヴ・ストーリーがオムニバスのように連なっているのが、この「オペラ・バレ」の特徴。宮廷を象徴するリュリによる力強いトラジェディ・リリクとは違い、楽しいダンスと、心地良くメロドラマを楽しませてくれる。そんな、軽くてお洒落なオペラ・バレこそ、当時のパリの気分だったのだろう。それは、バロックを脱した感覚とも言えるのかもしれない。そこに、世界各地(当時の「インド」は、ヨーロッパの外、全てを意味した?植民地主義、バっリバリの時代!)を巡るエキゾティックな要素が加わって、ロココの時代の"イッツ・ア・スモール・ワールド"といった雰囲気も... という、ヴァラエティに富む風変わりさに、火山の噴火(disc.2, track.13)やらスペクタクルもあり、かつ、リュリ調のパワフルなコーラスがあって、ロココの時代の到来を印象付けるふんわりとしたエールがあって、何より、組曲でお馴染みのギャラント("Les Indes galantes"のギャラント!)なリズムが弾けて、ギャラント様式の端緒としてのラモーを思い起こしたりで、盛りだくさん!バロックとロココのセンスが綾なす『優雅なインドの国々』は、今を以ってしても玉手箱のよう。
で、その玉手箱を、優雅でありながら活き活きと繰り広げるクリスティ+レザール・フロリサン!彼らが最も得意とするだろうレパートリーだけに、お手の物といった観のある堂に入った演奏、コーラスで... バロックからロココへとうつろう頃のハイブリット感を丁寧に捉え、バロックならではの魅力、ロココならではの魅力を響かせながら、全体を朗らかに花咲くようなトーン(レザール・フロリサン、花咲ける芸術!)で包む見事さ。オペラとしての求心力には欠ける作品だけに、ラモーによる音楽が放つ楽しい気分、美しい響き、軽やかなリズムに焦点を合わせ、聴く者の耳に心地良さを途切れることなく届けてくれる。そして、様々な国々の人々を表情豊かに歌い紡ぎ出す歌手たちの好演!ピリオドで活躍する歌手たちならではの素直な歌声が、バロックとロココを行き来するラモーの音楽の揺らぎを繊細に歌いつないで、作品、全体を、ふわっと香らせるかのよう。だからこそ映える、『優雅なインドの国々』... それは、かしこまったヴェルサイユの宮廷ではない、音楽の都、パリの、楽しみに溢れていた音楽シーンを蘇らせるようであり、ワクワクさせられる。

RAMEAU ・ LES INDES GALANTES
LES ARTS FLORISSANTS
WILLIAM CHRISTIE


ラモー : オペラ・バレ 『優雅なインドの国々』

クラロン・マクファーデン(ソプラノ)
サンドリーヌ・ピオー(ソプラノ)
イザベル・プールナール(ソプラノ)
ノエミ・リム(ソプラノ)
ミリアム・ルッジェリ(ソプラノ)
ハワード・クルック(テノール)
ジャン・ポール・フシェクール(テノール)
ジェローム・コレアス(バリトン)
ベルナルド・デレトレ(バス)
ニコラス・リヴァンク(バス)

ウィリアム・クリスティ/レザール・フロリサン

harmonia mundi FRANCE/HMC 90136




nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。