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いとも盛りだくさん16世紀的ウェディング!『王妃のバレ・コミック』。 [before 2005]

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ウェディングで動いていた16世紀の国際政治の優雅さたるや!
覇権主義のリヴァイヴァルに揺るがされる、拝金主義のスピン・オフでしかない21世紀の国際政治から、かつてを振り返ると、何だか羨ましく思えて来る。近代主義は、昔をやたら野蛮に見せたがるけれど、技術こそ大いに進化した一方で、人間そのものはほとんど変わらない現実があって... というより、昔の方がどこかのどかで、今よりも精神的に豊かだったようにすら感じてしまう。なんて思ったのは、1589年、フィレンツェでのウェディング=国際政治における華やかなイヴェントを聴いて... 婚姻が国と国を結び、そこにまた芸術が生まれたという昔を思うにつけ、今の国際政治は何も生み出していないなと... いや、それが当たり前、21世紀の常識であることはわかっているのだけれど、ふと歴史を振り返ると、当たり前の向こうに、失ったものは大きいのかもしれない。
さて、再び16世紀のウェディングに注目してみる。1581年、パリ、フランス王妃の妹、マルグリット・ド・ロレーヌと、フランス王の寵臣、ジョワイユーズ公の婚礼... ガブリエル・ガッリード率いる、アンサンブル・エリマの歌と演奏で、現存最古のバレエ、『王妃のバレ・コミック』(K 617/K617 080)を聴く。

インテルメディオ『ラ・ペッレグリーナ』が、ロレーヌ公女、クリスティーヌと、トスカーナ大公、フェルディナンド1世の婚礼でのイヴェントならば、この大公夫妻の姪、トスカーナ大公女、マリアの婚礼での出し物が、現存最古のオペラ、『エウリディーチェ』で... このマリアが嫁いだフランス王、アンリ4世の先代、アンリ3世の王妃の妹、マルグリット・ド・ロレーヌの婚礼で繰り広げられたのが、『王妃のバレ・コミック』。トスカーナ大公妃となったクリスティーヌの父の従妹が、その王妃、ルイーズ(ちなみに、このルイーズの叔父が、あの『エグモント』伯!)であって、花嫁、マルグリットであるという、まさに婚姻が結ぶ国際政治の華麗なる複雑さ!ちょっと追い切れないほどにややこしい関係性なのだけれど、その一方で、現存最古のオペラ、バレエが、近い縁によって生まれている興味深さもあって... ところで、『王妃のバレ・コミック』は、"バレエ"と言えるのだろうか?
フランスにおける初期バロックの重要な要素が、エール・ド・クール(宮廷歌曲)と、バレ・ド・クール(宮廷バレエ)。で、『王妃のバレ・コミック』は、もちろん後者となるのだけれど... バレ・ド・クールは、我々の知るバレエとは似て非なるもの... 我々が知るバレエは、見るものであるのに対し、バレ・ド・クールは、踊られたもの... つまり、『王妃のバレ・コミック』は、婚礼の宴に集った宮廷人たちが踊るためのダンス・ミュージックということになる。とはいえ、歌あり、コーラスあり、何より筋立てがあって、機械仕掛けのスペクタクルまであったというから、単なる舞踏会とは一線を画す。現代からすると、かなりの不思議作品。そんな『王妃のバレ・コミック』を生み出したのが、その王妃の姑、カトリーヌ・ド・メディシスに仕えるため、イタリアからやって来たヴァイオリニストにして、バレ・ド・クールというジャンルの開拓者、バルタザール・ド・ボージョワイユー。『王妃のバレ・コミック』では、ディレクター兼、コレオグラファーを務めている。で、その音楽を担当したのが、宮廷歌手で作曲家のランベール・ド・ボーリュー。さらに、フランスにおける初期バロックの先人、ルジュヌも楽曲を提供していて、盛りだくさん!
その始まり、第1アンテルメード(track.1-6)、ルジュヌによるアントレの後、ボーリューによるシャンソン(track.2)は、ポリフォニーによる音楽なのだけれど、グラウコスとテーテュースの対話(track.4)では、モノディが用いられ、すでにオペラを思わせる形がそこにある。そんな、ルネサンスと初期バロックの間を行き来する前半から、次第に初期バロックの色を強めて行く後半... イタリアの初期バロックとは一味違う、フランスならではのメロディックさを見出し、そのたおやかな表情が、何とも魅力的。また、第3アンテルメード(track.10-16)、ルジュヌによるバターユ「シルセの城への攻撃」(track.15)では、コーラスがリズミカルに歌い、ポップな表情も見せて... このお洒落感、まさにフレンチ・ポップ!最後のバル・ド・クール(track.17)は、後のプレトリウスによる『テルプシコーレ舞曲集』(1612)に収録されて、聴き覚えのあるメロディも... 宮廷風の雅やかさから、軽やかにリズムが爆ぜるノリのよさまで、表情豊かに次々と繰り出され、華やかなフィナーレを迎える。
という、『王妃のバレ・コミック』を再現したガッリード+アンサンブル・エリマ。アルゼンチン出身のガッリード、"南米のバロック"の紹介者として存在感を見せたアンサンブル・エリマが持つ朗らかさが、『王妃のバレ・コミック』の、どこかのどやかなあたりに絶妙で... また、"南米のバロック"で見せたフォークロワへの親和性が、『王妃のバレ・コミック』でもスパイスを効かせ、より活き活きとした表情を引き出すよう。そうして、この特殊な作品を、資料的な意義を越えて、輝かせている!

Le Balet Comique de la Royne

『王妃のバレ・コミック』

ガブリエル・ガッリード/アンサンブル・エリマ

K 617/K617 080




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